彼を倒すための計略を――
当たり前だが、力を制限されているからといって魔物の群れに後れを取るようなことは決してない。俺は明かりを生み出して周囲を照らしながら、グランホークとは別行動で魔物を倒し始める。
「ふっ!」
僅かな声と共に正面にいた狼型のモンスターを倒す。
動物と違い魔物は斬ると魔力が崩壊し、綺麗に塵と化していく。後処理しなくて楽だと思いつつ、剣を振るい続ける。
次に横から気配。見ると青い瞳と漆黒の毛並みを持った――猿が木を伝って飛び込むように仕掛けてきた。
「よっと」
だがそれをひょいとかわす。さらに地面に着地した魔物に向かって一閃し、撃破する。
「この分なら時間は掛かるけど楽勝だな」
呟くと、今度はシアナからもらった指輪が気になり始めた。一応、使い方を調べておいた方がいいだろう。
「前の指輪と同じようにすればいいのか?」
言いつつ、横手から来た狼を一頭倒す。俺は中指にある指輪を見据えつつ、とりあえずいつものように力を込めてみた。すると――
「うおっ」
一瞬、握る剣に魔力が集まり――制御できず震えた。
「これ、かなり強力なんじゃないか?」
力が落ちているとはいえ制御できない魔法具――これまで魔法具を使っていて暴走したことはない。しかし先ほどの挙動から、本気を出せば大変なことになりそうだ。
「さすが、魔王の妹が造った魔法具か」
言った時、後方から襲い掛かる蛇型の魔物を感知し、一薙ぎ。本当に数だけだなと思いつつ、意識をグランホークがいるはずの場所に向けた。
視界には捉えられないが、気配だけは感じられる。彼は立ち回り追い立てられた魔物をガンガン倒しているようだ。
「これ、俺って必要なさそうだが――」
言っている間に正面からイノシシのような姿をした魔物が一頭。俺をターゲットに定めたらしく、森の中を突撃し始める。
「さて――」
丁度良い相手だと感じ、シアナの指輪の力を使うことにした。
彼女が言うには魔法具にも増幅の力が与えられる――ならばと、左中指にある青い石の指輪をかざし、叫んだ。
「守れ――女神の盾!」
直後、正面に青色の結界が生じる。俺にとっては使い慣れた魔法――それにシアナから貰った魔法具の力を発動する。
瞬間、増幅器の効果により左腕が自然と震えた。
「ちょ、っと、待った――!」
俺は左腕をどうにか抑えながら結界を維持し、魔物がそれに衝突した。
当然破壊できるはずもなく、魔物は頭を打って動きが鈍る。
「くっ!」
俺は即座に結界を解除し、魔物の頭部目掛けて剣を放った。それが見事に直撃し、魔物は消滅する。
「……かなり、強力だな」
俺は呻きつつ、左手を軽く振った。
先ほどの結界――慣れたものであっても制御が難しかった。それだけ力が増加するという意味を持っており、相当な魔法具であるのを改めて理解する。
「……と、待てよ」
俺はふと、閃いた。これだけ増幅するということは――
「……舞え――耐空の風」
あまり得意としていない浮遊の魔法を使ってみた。
するとどうだ、以前よりも感触が良く、カレンのようにかなりの速度で移動できそうな気配。
「なるほど……これもしかすると、使えなかった魔法も使用できるんじゃないか?」
魔法を解除し、思案してみる。
俺の持つ青い石の指輪は、結界以外にも色々な術式が組み込まれている――勇者としての旅の最中、学者などに調べてもらって解析できた魔法はいくつかあった。しかしその中で俺が使用できたのは結界のみだった。
「なら、色々試したいのが人情だよな」
俺は左腕を改めてかざす――そこで今度は右手から気配。即座に剣を振りつつ体を傾け、
ファールンだと気付いて、慌てて止めた。
「って、ファールン?」
「はい」
俺に刃を向けられたにも関わらず、彼女は至って普通に答えた。
「ご連絡です。リーデス様から」
「何だ?」
聞き返すと、ファールンは速やかに話を始める。
「これより、計略に移る……討伐後は、一度部屋に戻り話し合おうとのことです」
「へえ……」
俺は感嘆に近い声を上げた。どうやらリーデスが何か仕掛けたらしい。
「なら俺は、討伐の最中流れに沿うだけでいいんだな?」
「はい……それと」
ファールンは応じながら、さらに続ける。
「グランホークに対し、勝てるよう準備をしておいて欲しいと」
「……それって、俺が彼と戦うの確定ってことか?」
「さあ」
ファールンは首を傾げた。彼女はあくまで言われたことを伝えているだけなので、解答は出ないか。
「わかったと言っておいてくれ」
「承知致しました」
ファールンは一礼し、すぐさま消えた。グランホークと同様、短距離転移だろう。
「さて……」
どうやら本格的に戦う必要が出てきたらしい。とはいえ準備と言ってもできることはほとんどない。
「時間も無いからな……けど」
俺はシアナからもらった指輪を見る。魔法によって見た目は赤い石の指輪に見せかけているが、秘める力は別個の物だ。
「これを上手く使えば、打破できる……か?」
頭の中で策を巡らしつつ、周囲を確認。魔物はいない。
「終わったのか?」
ひとまずグランホークに合流しよう――思った時、正面方向から風が生まれた。
それは周囲の木々を振動させ、数えきれないほどの木の葉を降らせる。
「――っと! 何だ?」
目視するが、暗がりで見えない。仕方なく進路をそちらに移した。
同時にまたも旋風。どうも自然に発生しているものとは違う――おそらく、グランホークの仕業だろう。
少し進むと、予想通り彼の戦う姿があった。
森の中でもやや開けた一角。周囲には多数の魔物。彼は槍を回転させるように振り回し、一撃で魔物を屠っていく。その動きはひどく洗練されており、俺も思わず見入ってしまう。
「……これは」
改めて戦う姿を見て思う。武器を扱う技術としては、やはり俺を上回っている。
しかも動きの他、立ち回りも非常に滑らか。もし戦うとなれば、技量で上を行く相手と真剣勝負をしなければならない。
エーレと決戦した時も同じだった。彼女もまた武の技術において俺よりも遥か高みにいた。そうなると俺が付け入る可能性は一つ――戦闘中に引き出せる力の総量。
そこならば俺の方が多分上。力を制限されているとはいえ、覚醒していないグランホークならば、十分勝機はある。
そんな風に結論付けた時、魔物の数が半分になる。そこで、俺は新たな事実を知ることとなった。
魔物達が一斉に襲い掛かる。対するグランホークは魔力を加えたか、槍から感じられる魔力が濃くなる。
「ふっ!」
僅かな呼吸と共に槍が回転すると、斬撃と共に風が周囲に生じた。
それは体を刻むような刃ではなかったが、魔物を押し留め動きを鈍らせるには十分な威力。
彼の攻撃が功を奏し、魔物は彼に飛び込む寸前で失速した。そこへグランホークがさらに一回転。結果、動きを制限された魔物達は見事槍を受け消滅する。
どうやら風をまとわせ相手の動きを封じる技も持っているらしい。これも魔族というよりは、槍術を学んだことによる技術と言えるだろう。
「何だか最近、人間とばかり戦っている気がするな」
思わず零した。
魔族とは本来多大な力を持ち、人間達が魔法具や技術で凌駕するという戦いが普通だ。しかしエーレといい、グランホークといい、戦う相手はそれらとは全然違うタイプ。
「今後もこういう展開が多くなるのか……?」
未来の展望について呟いていると、グランホークの周囲にいた魔物が全ていなくなった。
「これで、終わりだな」
短く告げ、グランホークは俺に向き直る。
「そちらも、終わったようだな」
「はい。援護に来たのですが、必要ありませんでしたね」
「いや、助かった。撃ち漏らした魔物を全て蹴散らしてもらえたからな」
「それは何より」
応じると、グランホークは槍を携え歩き出す。
「では、城に戻ろう」
告げた瞬間、いきなり彼の傍らに侍女が現れ槍を受け取る。
「ベリウス」
歩き出すとすぐ、彼は俺の名を呼んだ。
「何ですか?」
こちらは彼の隣へ歩み寄る。
「戦っている最中に思いついたことがある。もしこれができれば……魔王の真意を間違いなく探れる」
「ほう」
俺は相槌を打ちつつ言葉を待つ。真意を確かめる術――何かエーレに仕掛けるのだろうか。
「時にベリウス。お前は魔族となってどのくらいだ?」
「……ほんの数日ですが」
正直に答えた。この辺はシアナ達とも話しのすり合わせを行っていないので、真実を話しておくべきだろう。
「そうか……実験もまだ初期段階というわけだな」
「なので、私があなたに告げたような感情が残っているわけです」
「そうだな。そしてそれを消す予定は、現状ない」
「はい。魔王の言葉を信じれば」
「ふむ……」
グランホークは思案を始める。自分の策略が通用するかどうか検討しているようだ。
「……ところでベリウス。シアナの反応、気付いているか?」
「……反応、とは?」
「昼間の戦いの後、遠目ながらお前達の様子を観察させてもらった。そして判明したのは、シアナがお前に惚れているのではないかということだ」
――どうも彼女の態度は露見してしまっているらしい。まあ、エーレやリーデスにも気付かれている以上、一目見ればわかってしまうくらいのものなのだろう。
「それが、何か?」
「数日でそのような反応……もしかすると、シアナはこうした実験を予め立案し、どの勇者を対象とするか見定めていたのかもしれない」
限りなく曲解なのだが――そう解釈してもらっていた方が好都合なので、何も喋らない。
「ここは私の推論だが……幹部にも匹敵しうる勇者としてお前を、魔王は監視していたのかもしれない。そこで頃合いを見計らい、魔族とした。その選定した理由が、彼女だ」
「つまり、彼女のお気に入りだったため、選ばれたと?」
疑問を寄せた。グランホークは当然だと言わんばかりに頷く。
「つまりだ。お前が上手く立ち回れば、シアナを利用できるかもしれん」
「……その方法は?」
ここに至り、俺は少なからず嫌悪感を抱き始めていた。この次のセリフは予想できる。できれば、そんな言葉は聞きたくないが――
「つまり、シアナをお前が誘導し、傀儡とする」
想像通りの回答が来て、内心怒りが湧き上がった。
「傀儡とは、手段がおありですか?」
しかしそれを顔に出さずただ訊く。怒ってはいけない。全てが泡となる。
「ああ。帰った後、玉座の間に魔法陣を構築する。城の魔力と融合した魔法であれば、間違いなく洗脳できるはずだ」
「その誘導を私がするわけですね」
「そうだ。今回の討伐の縁で色々話がしたいとでも言えば、彼女も追随してくるだろう」
――もし今、策略のために動いていなければ、彼を切って捨てていたかもしれない。俺は心の内に噴出する不快感を抑えながら、彼に同意した。
「なるほど。わかりました……それで、陣の完成はいつですか?」
「明日にでもできる」
「ならば明日、落ち着いた時に誘えばいいわけですね」
「そうだ」
グランホークは笑う。我が事成れりという、満面の笑み。
「そこからは、私がやる。情報を聞き出し敵意があると判断すれば、シアナを人質としよう」
――下種の考えに俺は拳を握りしめた。自制しろ。自分に言い聞かせる。
そうした俺の態度を露知らず、彼は陶酔するように語り続ける。
「後は彼女を利用し色々と行動すればいい。場合によっては力を手に入れるために参画していた魔族の足跡をたどってもいいな。彼女を人質とすれば、慌てることもなくなる」
「……魔王が、それを許すと?」
「許せざるを得ない状況を、作り出す」
妖しい笑み。どんな方法なのかわからないが――最悪なものであるのは確信できた。
「では明日、頼んだぞ」
「……はい」
俺は感情を押し殺し返答した。
以後、無言で城に辿り着いた。そうした中俺は複雑な心境を抱え、シアナに伝えないといけないのかと思い、少しばかり憂鬱な気持ちとなった。
そして、再び話し合い。正面に立つリーデスと、座っているシアナに一連の説明をすると――彼らの反応はずいぶんと淡泊だった。
「ああ、うん。そうなるよね」
リーデスはそう感想を漏らし、
「えっと……もしかして城中の方々にバレていたりしますか?」
シアナはそう反応した。
というか、シアナは自分のことなのに少し脱線した部分を気に掛けている。
「えっと……反応、鈍くないか?」
思わず二人に訊いた。答えはリーデスから返ってくる。
「こういうのって、魔族にとっては日常茶飯事だから」
「けど……シアナに関わっているし」
「そうだけど、シアナ様だって慣れっこだよ?」
言われると、俺は彼女を見た。
「はい、小さい頃から命を狙われていましたね。お姉様に対し反感を抱く幹部の方々から」
どうもずいぶんスリリングな人生を送ってきたようだ。
「そ、そうなのか……」
応答に俺は躊躇いつつそう答えるしかなかった。
「そんなに肩肘張らなくてもいいんだよ?」
こちらの反応に、リーデスはたしなめるように言う。
「階級社会かつ、力が全てだと自認しているのが魔族だからね。隙あらば下剋上を狙おうとするのはよくあることだ。今回もそのケースさ」
「ですが、そのような事例が複数の魔族にまたがっている。ここを懸念しているわけです」
彼に合わせシアナが続ける。納得するしかない。
けれどなおも戸惑う俺――対して、今度はリーデスが語る。
「君が僕やシアナを気に掛けているのは理解できるよ……けれどまあ、魔族と言うのはこういう殺伐とした面もあるというのを認識してもらえればいい。こうした出来事にいちいち反応していると、その内ハゲるよ?」
「ハゲるって……」
「これをストレスに感じるようでは、体がもたないということ。むしろ、僕達のような存在の方が例外だと思ってもらえれば」
「……わかった」
釈然としないが、魔族である彼らが言っている以上、頷く他ない。
「けれど、個人的にそういう反応は嬉しかったりする」
そこへ、付け加えるようにリーデスは言った。
首を向けると、腕を組みなんだか嬉しそうな彼がいた。
「魔族には仲間意識がない……というのは何度も話していると思う。けれど今回の仕事ではそれがある。僕にとってはひどく新鮮だ」
「……そう思うことは、変なのか?」
「僕らにとってはね。けれど、君にとってみれば至極当然の話だろう? こうした見解の相違は、少しずつ解消していけばいいよ」
言われ、俺は「そうだな」と答えた。
思えば魔族として活動し初めてまだ数日。混乱するようなこともたくさんあるだろう。これはその一つだと考えればいい。
「……で、これからどうするんだ?」
結論が出たので、話を戻すことにする。
リーデスは表情を変え、怪しい笑みを浮かべた。グランホークとは違う、悪戯っぽいもの。
「ファールンから伝言は聞いているだろ? いくつか仕掛けをしておいた」
「グランホークの作戦について、その仕掛けが使えるのか?」
「まさしく。君の話を聞いて、こちらとしては狙い通りにやってくれたと言うべきか」
リーデスは口笛を鳴らしつつ、さらに続ける。
「ということで、君は彼の指示通りシアナ様を玉座まで案内。そこから彼が何をするかはわかり切っている以上、きちんと対処させてもらうよ」
「何をするんだ?」
「楽しいことさ」
詳細は語らず。けれどリーデスは満面の笑みを浮かべ楽しそうにしている。
正直、ちょっとだけ恐怖する。彼が味方で良かったと思う。
「じゃあ次の質問だ」
思いながらも、話の矛先を変えることにする。
「俺にグランホークを倒せと言っていたが……なぜ俺?」
「話の流れ的に」
「それ、答えのつもりか?」
げんなりして俺は言う。対するリーデスは肩をすくめた。
「一応理由はある……というより消去法だ。まずファールンは仕掛けに動いてもらわないといけないので無理。次にシアナ様は当然ながら除外。そして僕は、ファールンと同様仕掛け発動のため動く必要がある」
「つまり、グランホークを抑える役割を俺が?」
「そうだね。けれど本当にそうなるかは彼の行動次第だ。もし、彼が仕掛けを発動した後逃げようとして……城外に出ようとしたなら、必然的に僕らが交戦するだろう」
「そうじゃない場合、俺が戦うと」
「そうだ。わかりやすく言えば――」
一拍置いて、リーデスは説明する。
「非常時に転移する地下。そこへ逃げ込んだ場合、君が戦うことになる……ただ予想としては、地下に潜伏する可能性の方が高いと思うよ」
「なぜだ?」
こちらの問いに、リーデスは嬉しそうに目を細め答える。
「君はまだ味方であり……地下の情報が、君にしか伝わっていないと考えているだろうからね」
――理解した。つまり何かしら仕掛けが発動しても、あくまで俺はグランホークの味方であると認識されている以上、そこは安全だと考える。
「そして地下に逃げ込んだ場合、俺が決着をつける、と」
「正解だ。ちなみに僕らが来た本来の理由を話すかどうかは君に任せるよ。ともあれそうなった場合、是非君が終わらせてくれ」
「わかった」
「良い返事だ……で、勝てる策は思いついた?」
彼が問う。俺は神妙な顔つきとなって、答えを示す。
「手はあるけどな……ただ、こればっかりは試してみないと」
「試す?」
「シアナからもらった指輪により、今まで使えなかった魔法が使えるかもしれない。それなら突破口がある。けど――」
「実験している暇はない、と」
「ああ。周囲に被害が及ばないようにしないといけないから、城内ではやれない。ぶっつけ本番になるな」
「もし危なかったら、僕らに言ってくれ」
リーデスが、僅かに語気を強め言ってくる。その態度が、俺の身を案じているのだとわかると――今度は俺が笑う番だった。
「どうしたの?」
「いや……きちんと仲間意識があるじゃないか」
言うと、リーデスは目を瞬かせた。
「意識?」
「俺のことを多少なりとも心配しているんだろ? そういった思いやりが、仲間意識ってことだよ……もちろん、これは一端だけどさ」
「……なるほど」
リーデスは納得したように呟く。俺はふとシアナに目線をやると、彼女はしきりに頷いていた。
「わ、私もできる限り協力しますから……!」
「ありがとう、シアナ。けど、シアナの場合は仲間意識とは違うよな?」
ちょっとだけイジワルっぽく尋ねると、彼女の顔がすぐさま赤くなった。それを見てリーデスは堪えきれず笑い出し、途端にシアナが叫ぶ。
「リ、リーデス!」
「す、すいません……その反応に……さすがに……」
彼は腹を抱えて笑っていた。本来ならシアナが非難してもおかしくない状況だが――俺達を取り巻く空気は、とても和やかだ。
「……まあ、冗談はこれくらいにして、話をまとめよう」
俺が再度告げる。リーデスは聞くと笑いを収め、シアナは姿勢を正す。
「明日はグランホークの指示通りに動く……そして、リーデス達は策のため行動する」
「ああ」
「リーデス……確認するが大丈夫だよな?」
「僕とグランホークの能力を照らし合わせて考えてくれよ」
「……そうだな」
問題ないと確信し、今度はシアナへ向き直る。
「シアナ……慣れているとはいえ、危険な目にあわせるけれど」
「平気です」
ちょっと頬が赤いまま、彼女は答えた。その顔は恥ずかしさも大いにあったが――作戦を遂行するという高揚感のようなものを確実に含んでいた。
「それじゃあ、俺はリーデスの案に乗っかる。頼んだ」
「任せてくれ」
リーデスが力強く頷く。
そこでふと、以前勇者として活動していた時の仲間を思い出す。カレン、ミリー、フィン――仲間は違えど、あの時のような関係と似ている。そんな風に感じた。