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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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二人の意思

 翌日、俺とクロエ、そしてシアナは朝食の時に話し合いを行い、昨日と同様研究所へ向かうことにする。

 クロエとしては再度話をするくらいの心積もりだろう。だが俺やシアナは違う。本題を切り出すのはシアナだが、内心では結構緊張していた。


 皇帝とクロエはどういう反応をするのか……気掛かりになりつつも歩み、研究所へ。前と同様の客室へと案内され、しばし待つよう言われた。


「私から質問するということでいいですか?」


 シアナが確認のためかクロエに問う。当の彼女は頷くだけでさしたる反応を見せない。

 一応「勇者であるクロエに関わることだ」と説明して連れてきたのだが、もし誘わなければ宿で寝ていたかもしれない。


「――待たせた」


 やがて、扉が開き皇帝が姿を現す。昨日と何も変わらない姿。


「本日も話がしたいとのことで。私としては歓迎だ。興味があるという意思を示してくれているようだから」

「今日は、私からお話が」


 シアナが手を挙げる。皇帝は「構わない」と応じ、後方にいる兵に呼び掛け、扉を閉めた。


「話というのは、昨日の続きということでいいのかい?」

「そう思っていただいて構いません」


 シアナが応じると皇帝は「わかった」と返事をして、尋ねる。


「で、何を知りたい?」

「例えば……そうですね、皇帝は大いなる真実を知って色々と活動されている。これは仮の話ですが……もし魔族がそうした事情を聞きつけここに着た場合、どう対応するつもりですか?」

「どうするか……私が真実を知っているという事実に基づいて魔族がやってくるとなると、当然その魔族も大いなる真実を知っているということだろう。ならば、交渉するしかないな」

「その中で魔王の城へ来い、などと言われた場合どうするのかと」


 皇帝は一考する。現時点でシアナの言動に怪しむ様子はない……というか、本題に入る前の世間話なのだと思っているのだろう。


「ふむ、そういう可能性もあるのか……リスクがあるのは事実だな。だが相手が話をしたいと主張するのならば、私はそれに応じるべきか」

「罠かもしれませんよ?」

「軽率な行動だと言いたいようだな。それは紛れもない事実だが、魔王側としても大なり小なりリスクを背負っているだろう」

「リスク、ですか?」

「私の前に姿を現すこと……城の中やこの研究所内ということになるだろう。そうした場所を訪れ存在を明かせば混乱が起きる可能性もある。まして私がどういった行動をとるかわからない以上、賭けに違いないわけだ」


 ――確かに、魔族側にとってあまりいい話とは言えないだろうな。


「正直、状況次第しか言えないが……私が言いたいのは魔王としても真実が露見する可能性を考慮して行動するだろう、ということ。そう手荒な真似をされることはないと思う」


 皇帝の推測は当たっている……さて、この返答に対しシアナはどう出るか。


「他に質問はあるかい?」


 皇帝の言葉。というより今から本題だろう、と思っているのか微笑を浮かべ忌憚なく話すよう促している。

 ……沈黙が一時支配する。シアナは皇帝のことをどう見たか。そしてクロエは――


「私が」


 シアナが話し始める。俺は体に力が入る。


「うん? どうした?」

「道筋をつけることは可能です」


 ――皇帝は眉をひそめた。言っている意味がわからないのだろう。


 だが次の瞬間、彼の表情が一変する。


「……何?」


 ザワリ、と肌を撫でるように魔力が俺にも伝わってきた。どういうものか俺にもすぐにわかる。俺やクロエ……そして元勇者であるアゾン皇帝にとって身近に感じられる、魔族の魔力。


「先に言っておきますが、私自身皇帝に危害を加えようという意図はありません。そうであればとっくに実行している……そうですよね?」


 状況が飲み込めないクロエは魔力を感じ動揺するだけ。一方俺は無言を貫き、皇帝は状況を次第に理解してきたか口元に手を当てシアナに視線を送る。


「……なるほど、君は関係者だったのか。そしてどうやらセディ君は把握している様子」


 ――ここで、クロエが俺を凝視する。


「セディ? あなたは――」

「クロエ、状況的に動揺するのは理解できるが……ここは皇帝の判断に任せてもらえないか?」


 彼女からしたら納得のいかない意見のはずだが……途端、クロエはシアナを見据えた。


「あなたが魔族だということは理解できた。ただ、あなたは私の町を助けてくれた経緯もある」

「恩に着せる気はありません」

「こうやって切り出す以上、大いなる真実でもそれなりに権力のある魔族、といったところかしら? そうじゃなければ皇帝に直接話し出すなんて真似はしないでしょうし」


 ……察しがいい。クロエとしても状況を飲み込めてきて推察し始めたか。


「――私のことについては、実際しかるべき話の場で説明した方がいいでしょう」


 そうシアナは述べるに留め、続きを話す。


「皇帝自身がどうお考えなのかは、昨日の説明でわかりました……私達の総意を述べさせていただきますと、事情を勘案し是非とも話がしたいと」

「なるほどな。とはいえ、従者などはさすがにつけられないんだろう?」

「そうですね。お一人で、という形になります」


 さすがにリスクがあるよな……と、ここで皇帝は俺に視線を向けた。


「セディ君は、事情をある程度把握しているのだろう? どう思う?」

「……俺は、クロエとは異なりシアナと深く関わる人間です。決して悪い展開にならないことは、お約束します」

「なるほど」

「悪意のある見方をすれば、洗脳されているなんて可能性があるわよね」


 クロエが言う。まあ、そう疑うのも無理はない。


「……けど、少なくとも町で戦った経緯があるからね。何か理由があるんだと理解できる」

「正直、クロエが反発するものだと考えていたから拍子抜けだな」


 俺がコメントすると、彼女は肩をすくめた。


「一晩考えた結果よ。けど、全て納得したわけじゃない」

「無論、クロエ様が納得されるような形で話をさせていただきます」


 ――そう語るシアナ。俺はその言葉でどういうつもりなのかおぼろげながら察したが、口は挟まないでおく。


「もし私の提案に同意していただけるのであれば、移動しましょう」

「構わないが……時間はどの程度だ?」

「数時間、といったところかと」

「わかった。なら、私に手がある」

「同行頂けるという返答でよろしいんですね?」

「ああ」


 頷く皇帝――さて、ここからが大変だ。


 俺達は部屋を出ると、皇帝が率先して歩き出す。従者などに「彼らを城に連れて行く」と述べ、別の仕事を行うよう指示を出した。


 そこから俺達は、建物を出て城へ――皇帝が研究所まで来るための道は、どうやら特殊なもののようで、城の裏口らしき場所から入り、いくらか階段を上り……豪華な廊下を辿り、部屋に辿り着いた。


「皇帝の、私室か」


 クロエが呟く。内装は赤を基調としたもので、どこか皇帝の性格を反映したような感じだった。


「ここなら何時間離れていようとも問題ない」

「人は来ないのですか?」

「私が呼ばない限りは」

「わかりました。では移動しましょう」


 シアナは腕を振り――床に魔法陣が出現。


「転移魔法です」

「なら、俺から」


 皇帝が率先して入るのは難しいだろうと思い、俺が前に出る。シアナが「どうぞ」と言った後足を踏み入れ――宙に浮くような感覚。


 気付けば荒野。経験したことがあるので振り向くと、そこには変わらず佇む魔王城があった。


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