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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編
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魔王の判断

 オーファスに見送られ、俺達は元の場所まで戻ってくる。ここで視線をクロエに向け、問い掛けた。


「……情報量が多くて頭が混乱しているよ。そっちは大丈夫か?」

「正直、難しい話だったわね」


 肩を回すクロエ。


「けどまあ、言いたいことはわかったわよ。だからといって、皇帝を許すかと言えば別問題だけど」


 頭の処理が追いついていない感じかな。


「……今日はひとまず宿で休むか」

「そうね」


 俺達としても、どうするか話をしたいし……ただなんというか、驚くべき方向に話が進んだな。

 これはある意味チャンスでもある。というより皇帝が俺達の存在を好意的に捉えていたことだけでもかなりの収穫であり、状況としては非常に良いと言えるかもしれない。


 大いなる真実を知るエーレなどからしてみれば、同胞として加えたい人物であるかもしれない。彼自身情報は持っているし、話をするのも容易いだろう。


 ただそうなるとクロエが問題になってくるんだが……考えているうちに宿に到着。俺はクロエとシアナとは別の部屋に入り、ベッドに腰掛け息をついた。


 少ししてノックの音。返事をするとシアナが入って来た。


「……で、どうするんだ?」

「お姉様と相談します」


 微妙な表情のシアナ。皇帝が真実を知っているという状況がいいのか悪いのか、判断つきかねているという感じか。


「色々と予想外の展開ですが……私達にとってそれほど悪い状況ではありません」

「むしろ、話がしやすくなったかもしれないな」

「確かに。とはいえ事情を説明する場合は当然勇者クロエにも話をしなければならない」


 そこがネックか……まあ大いなる真実を聞いた以上、ワンクッション置いているのは事実なわけだが。


「彼女が納得するかどうか……」

「俺は、大丈夫だと思うけどな」


 こちらの発言に対し、シアナは眉をひそめた。


「何か根拠が?」

「根拠というか……クロエ自身、魔王城に踏み込んだ経験から思うところはあったようだし」


 とはいえ、シアナの表情は晴れない。大いなる真実についてはそれこそトップシークレットである以上、慎重になるのは当然か。


「……そうだな、一度クロエと話をしてみていいか?」

「セディ様が?」

「ああ。本音を打ち明けるかどうかはわからないけどな」

「構いませんよ」


 ということで、決定……俺はクロエのいる部屋に。

 ノックして入ると、彼女は窓際にある椅子に座り外を眺めていた。


「大丈夫か?」

「……平気よ」


 視線をこちらに向け、肩をすくめるクロエ。


「拍子抜けしたわね。皇帝がもっと悪党なら、私だって余計なことを考えずに済んだのに」

「むしろ、味方に近かったな」

「そうね」


 認めるクロエ。とはいえニコラが死んだ事実は変えられない以上、気持ちは複雑だろう。


「この感情をどこにぶつければいいのか……という思いはあるけど、どうしようもないのかな」

「感情、か」


 俺はどう話をするべきか……思案していると、クロエから言葉が。


「そっちはどうなの?」

「……なんというか、現実味がないって感じだ」

「そうね。私も同感。けど――」


 と、クロエはため息を零す。


「私は、何のために戦ってきたのかしら。ニコラが聞いたらどう思うかな」


 ……答えられない。彼女は魔族や魔物のみを相手にしていた勇者だ。魔王が味方とわかれば、俺の時と同様戸惑うのは無理もないだろう。

 どう声を掛けるべきか……悩んでいると、彼女はさらに発言する。


「けどまあ、そういう事情ならそういうこととして受け入れるしかないわね」

「……受け入れる、か」

「その中で勇者として自分にできることを考えるしかないわね」


 再度息を漏らす。言葉ではそう言っているが、完全に納得はできないだろう。けど、


「私としても納得がいかないのは事実だし、まだ疑っている部分もある」

「そうだな」

「そっちは冷静?」

「いや、どうかな」


 肩をすくめる。皇帝が大いなる真実を知っていたという点については驚いているし、クロエにとっては演技に見えなかっただろう。


「そっちも色々考えることがありそうね……さて、どうするかな」


 沈黙する彼女。ここで、俺は一つ質問を行った。


「仮に……」

「ん?」

「仮に、もし魔族側から話の席を設けるとしたら、どうする?」

「話、ねえ」


 小首を傾げる。


「難しいところね。皇帝の言うことが正しければ、私達のことをどうするかは微妙なところだけど」

「友好的に接して来たら、俺達はどうするべきかな」

「ま、話をするくらいはいいんじゃないかしら」


 好意的な言い方――と、ここでクロエは笑う。


「きっと、ニコラならそう答えたはずよ」

「……そうか」


 ――その笑みは、内心の複雑な心境を物語るように、ぎこちないものだった


 復讐すべき存在がまったく見当たらず、掲げた拳をただ下ろすしかない。こういう状況である以上、クロエ自身内心ではかなり戸惑っていると考えるべきか。

 なら、どうするのか……皇帝だけに事情を話して、というやり方もあるにはある。クロエの感情が整っていなければ、その手もありだろう。


 部屋を出て、自分の部屋に。そこではまだシアナがいた。


「あ、セディ様。連絡は終わりましたよ」

「どういう結果だ?」


 問い掛けに、シアナは神妙な顔つきで話す。


「結論から言えば、連れてこいと」

「……え、皇帝を?」

「はい。そして、勇者クロエも」

「彼女も、か……けど、頭の整理ができていないと思うけど」

「だからこそ、です。情報が入り混乱している状況であるからこそ、きちんと話をして彼女にも納得させる」


 納得、か。それができるのか疑問ではあるけれど……エーレが決断した以上、俺も従うことにしよう。


「明日、事情を話すことにします。セディ様もご協力を」

「それは構わないけど、どういう方法を?」

「本日と同様、まずは話をするという形で先ほどの部屋に。そこで私が正体を現し、共に魔王城へ」

「……国の騎士とかに見つかったら一大事のような気もするが」

「その辺りは皇帝と話をして、上手くとりなしてもらいましょう。それに、話をするにしても長くて数時間ですし」


 でも、皇帝が施設内からいなくなったことが露見すれば、まずい気もするけど……ま、ここは皇帝自身に対処してもらうしかないか。


「私が魔王の妹であることはひとまず伏せ、魔族として交渉を行います。力の一端を見せれば信用してもらえるでしょうし、魔王城へ同行願うところまでは、特に問題なく進むでしょう」

「けど、クロエの行動が……」

「はい。下手をすれば斬りかかってくる恐れがありますね」

「そんな状況にも関わらず、彼女にも話をするのか?」

「はい」


 ……もし何かあったら俺が援護に入るべきだな。きっとエーレも考慮しているだろう。


「わかった。エーレ達が決めた以上、俺はそれに従うよ」

「ありがとうございます。では、明日行動開始ということで」


 行動方針が決定……色々と状況がコロコロ変わる一日だったが、大きく事が進んだのは確か。

 それを利用し、皇帝とクロエを引き込む……難易度の高い話だと思いつつも、俺は出来る限り援護しようと決めた。


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