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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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皇帝の要求

「まず、この研究所で扱っている力についてだ。これについても、多少面倒な経緯がある」

「面倒、ですって?」


 クロエが聞き返すと、皇帝は頷く。


「そうだ……この研究所で調べている力。これは非常に特殊であり、また情報を提供してくれた人物は、どうやらこの力を悪しきものに利用していたようだ」


 悪しき――俺とシアナはテスアルド帝国がなぜ神魔の力を手に入れるに至ったかを知っているわけだが、この様子だと力を提供した存在と皇帝は仲が悪いのか?


「私はこの力を利用することで、西部統一が早まると考え、迎合する振りをした。その時、とある勇者が来訪した。その者は、この力を提供してくれた人物と関わりのある……言ってみれば、この力の本当の持ち主だ」


 勇者ラダンで間違いない。


「その者は、どうやら私に力を提供した人物のことをあまり快くは思っていない様子だったが……ともかく、私としてはその人物に興味を抱いたため話をした。無論、相手にすり寄って」


 ――勇者ラダンとしても、色々な思惑があって皇帝に近寄ったはずだ。その中で、あくまで彼らに合わせるように動いた皇帝……つまり、彼には確固たる意志がある。この西部を統一するという確固たる意志が。


「その中で、興味深い話をしてくれた」


 皇帝は言う――まさか。


「この世界には、大半の人間、エルフ、ドワーフなどが知らない、大いなる真実というものが存在する」


 ――彼は、知っているのか。


 どうにか驚愕の表情を出さずにできた。正直、奇跡と呼べるくらいだ。

 皇帝の目線がクロエに向いた時点で俺はシアナを一瞥する。動揺はしていない。ただひたすらに皇帝がどういった存在なのかを見定める腹積もりでいる。


「それで?」


 事情を知らないクロエはそう返答する。反応としては至極まっとう。そこで、怪しまれないように俺も声を発した。


「その大いなる真実というのを聞いて、皇帝は何かやろうと思ったんですか?」

「そうだな。けれど話を聞いた時点で考えたは……皇帝として、勇者として自分にできることは何であるかだ」

「ずいぶんと感化されやすいみたいね」


 いまだに敵意を向けるクロエ。そこで皇帝は笑みを浮かべた。


「この話を聞けば、多少なりとも意見は変わる」

「その話が真実であるという保証は?」

「ないな。私としても情報提供者のことを鵜呑みにする他ない……しかし」


 彼は間を置いて続ける。


「勇者として戦っていた時の頃を思い出し……心当たりがないとも言えない」

「……その話は、私達の町を襲ったことと関係があるの?」

「その話を聞き、さらに西部の統一に邁進しようと考えたのは事実だ」


 皇帝とクロエは互いに目を合わせる。俺はただ二人の様子を眺めるに徹し、やがて――


「……いいわ。聞かせなさい」

「ああ。といっても、口で説明する場合、そう難しい話というわけではないんだ」


 皇帝は苦笑しながら――はっきり言った。


「この世界が……魔王と神によって守られている。そういう話だ」






 時間にして、およそ十五分といったところだろうか。


 一連の説明をする間、クロエは何一つ言葉を発しなかった。いや、より正確に言えば口を挟めなかったと言えばいいのだろうか。

 俺もまた、彼女の様子に同調し沈黙を守る。そして皇帝が話し終えた後……俺がまず、声を発した。


「……頭が痛くなりそうな話ですね」

「そうだな」


 同意する皇帝。その顔に、話を聞いた時の苦悩が垣間見れるようだった。


「俺から尋ねることは一つです。その話、どこまで信憑性が?」

「さっきも言ったが、無いに等しい。馬鹿正直に天使や女神に聞くわけにもいかないからな。けれどさっきも言ったが……心当たりがないか?」


 俺は沈黙する――彼はそれを肯定と受け取ったようだ。


「あるみたいだな。勇者クロエ、君は?」


 問い掛けたが反応はなかった……けれど、やがて、


「……私は、つい先日魔王城に踏み込んだ」

「ほう?」

「魔王も出現した……振り返れば、身代わりだったのかもしれないわね。ともかく、その中で私は最後気を失った。その後、この世界に戻されたわけだけど……あなたの説明からすれば、私を殺さずそのままにしておいたのも理屈としては通る」

「信用してもらえるのか?」

「心当たりがあるというだけの話よ」


 切って捨てるような物言い……しかし、完全に否定するというわけでもない。


「思えば、あんた達の手先と比べても魔王の攻撃はどこかぬるかったように思えるわ。私を最初から殺す気なかったということでしょうね」

「……この話を聞いて、どう思った?」

「信じられないけど……私も色々考えないわけじゃない」


 肩をすくめる。とはいえ好戦的な眼差しは宿ったまま。


「正直すぐに理解しろと言われても困るわ。けど、少なからずあなたが単に村や町を焼こうとしているわけじゃない、というのは理解できた」

「ならば、協力してもらえないか?」

「私達に何をやらせるの?」

「西部を統一するための、助力だ」


 壮大な話。ここで俺が口を挟む。


「事が大きすぎて想像できませんが……具体的にどのようなことをすれば?」

「障害となる者達を私達と共に戦ってくれ、というだけの話だ。その相手は人間ではなく、魔族や魔物となるだろうが」

「そうした存在も、あなたを脅かしているというわけね」


 クロエが言う。アゾンはすぐさま頷いた。


 ……戦力強化のために引き入れる、というのはわからないわけじゃない。勇者二人――それも多少なりとも名が知られている人物達ならば是非とも引き入れたいというのはわかる。

 ただ、こればかりは俺の一存で決められない。クロエの考えもあるし、何より――


「質問、よろしいですか?」


 シアナが口を開いた。


「にわかに信じがたい内容ですが……こうやって話をした以上、私達が断れば――」

「そこは心配しなくていい。第一、私がこうした席できちんと話をしない限り、笑われて終わる話だろう。ただ、君達は迂闊に話さない方がいいかもしれない。名が傷つくかもしれないからな」


 ……まあ、馬鹿正直に大いなる真実のことを話しても信用してもらえないというのは間違いないだろうな。


「回答は、この場ですぐに決めてもらわなくてもいい。研究所に来れば中に入れるよう通達しておく。私に会いたければ、研究所内の者に伝えるといい」


 皇帝はそう述べ、俺達に改めて提示する。


「私が勇者であるためか、神や魔王が私のところに現れたことはない。それは即ち、私のことを少なからず警戒しているからだ。だが西部を統一……いや、これは最終目標だが、今以上に領土を拡大すれば、無視することもできなくなるだろう」


 ――決して魔王や神に認められるべく行動しているわけではないだろう。だが、目の前の皇帝はそれもまた一つの目標だとして、領土拡大を行っている。


「それには、君達の協力が欲しい。無論、適切な報酬は用意する」


 願う皇帝。俺達は何も答えられないまま……部屋を出た。


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