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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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221/428

観察者

 結論から言えば、この町の住民は国の研究が繁栄を維持することだと信じて疑わない様子だった。


 まあ帝国が拡大するにつれ暮らしも楽になったそうだから、そう思うのは至極当然というものだろう……ただここで一つ問題が。そういう情報についてはどこで聞いてもわかったが、それ以上の……言ってみれば俺達が欲しい核心部分の情報は出てこない。トップシークレットだと思うので当然と言えば当然なのだが……どこか、不気味さを感じたのは事実。


「――研究のことを公にしているのは、国民にアピールしているのでしょう」


 昼食、一度店に集まり俺達は会議を始める。互いに情報交換をして、最初に発したのはシアナ。


「私達もセディ様と似たような情報しか手に入りませんでした。これは魔法具などを商っている店でも同じことでした」

「一定のレベル以上の情報は、町を回っても出てこないってことだろうな」


 こちらの言葉にシアナは頷く。


「はい。その目的ですが、繁栄のための称している以上民衆達に支持を受けるためだと理解できます」


 そう述べたシアナは、一度周囲を見回す。


「この町……いえ、この国の繁栄は、研究成果の一つであるということをアピールする。侵略国家なので外部で常に火種を抱えている状況です。できるだけ戦争による不満を取り除く必要があるため、研究の話を公にして民衆の不満を抑制しているのでしょう」

「嘘も方便というやつかしら」


 クロエが言う。するとシアナは渋い顔をした。


「……他国から見れば侵略する敵ですが、この国の人々からすれば帝国は大いなる味方というわけですね」

「立ち位置も変われば見方も変わるって話だな……で、その研究内容だけど、クロエの町を襲った敵と関係あるんだろうか?」

「どうでしょうね。何かしら関係ある可能性も十分あると思いますが、現状の情報だけでは判断ができませんね」


 これ以上調べるにしても……まあいつかはリスクを取らないといけないような状況であるのは間違いないが――


「しかし、敵は相当無警戒よね」


 クロエが言う。顔つきは神妙なもの。


「私が国内に入っている情報くらいは保有していると思うのだけど……」

「可能性としては三つあります」


 今度はシアナが意見を述べる。


「一つはエルから連絡を受けていない……ただ、私としてもこの可能性は低いと考えていますが」

「あるいは、まだ監視の目がついていない」


 俺が言うと、シアナは小さく頷く。


「そして最後は、私達でも気付かない技量の持ち主か」


 ……クロエはともかくシアナが気付かないレベルとなると相当な話。以前ならあり得ないと答えたのだが……神魔の力に関する研究をしているとなると話は別だ。

 シアナは懸念を抱いている様子。おそらく最後に述べた可能性が高いと考えているのだろう。


「セディ様の方はどうでしたか?」

「気配の類はなかったけどな……ただまあ、注意は必要だろう」


 答えつつ、次にどう動くかを考えてみる。そうはいっても選択肢は多くない。


 実際調べるとなると相手の懐に潜り込む必要があるわけだが……それができるほど情報が集まっていない。だが現状以上に情報を集めようにも町では限界がある。


「――例えば」


 クロエが語り出す。


「現体制に不満を持っている人物を探す、とかは?」

「……探してどうするんだ?」

「それがもし組織なら、反抗するために色々情報を持っているかもしれないでしょ?」


 レジスタンス的な組織か……ないとは言えないだろうけど、民衆の多くが現体制を支持しているような状況である以上、あったとしても反抗勢力とまではいかないのではないだろうか。


「そういう人物達がいそうなのは、都の端の方でしょうか」


 シアナは言う。顔には厳しいという内面が見て取れた。


「クロエ様、私達は町の外周部も見回りましたが……例えばスラム街などは見当たりませんでしたよね?」

「そうね……これだけ人口が多い場所である以上そうした負の部分があってもおかしくないけど、気持ち悪いくらいないわね」

「例えば東部でエルフが統治する森なのでも、そうした場所が存在していました。けれどここにはありません。その理由について今は語りませんが、少なくともそうした場所がないという時点で、反抗勢力というものがそう規模の大きいものではないと想像できてしまいます」

「……それもそうねえ」


 クロエが応じる……うーん、やっぱり調べるにしても難しいのだろうか?

 何かとっかかりがないと難しいのは自明の理だが……さて、


 俺達が話をしている時、客が来店してくる。男性二人組で取り立てて特徴はなかったのだが……席に座るまでに俺達のことを何度か見ていたのを悟る。ん、これはもしや。


「……二人とも」


 声を掛ける。すると二人は同時に反応。


「どうも俺達のことを観察するような人間がいるみたいだが……とはいえ、見た目は単なる町の人だな」

「好都合ね」


 クロエが言う……って、ちょっと待て。


「騒ぎを起こすようなことは……」

「けれど、ここで私達が行動しない限りは、永遠に進展しないと思わない?」

「まあ、それもそうだけど……」


 ……確かにいつかはやらなければいけないことだ。きっかけとしては十分か。


「その方々は、本当に私達を観察しているのですか?」


 シアナが問う。やや疑わしげな態度。


「たぶんそうだと思うぞ。あ、そっちの方向に顔はやるなよ」


 釘を刺しつつ、俺は言う。


「東部で勇者として色々活動していた時、魔族と手を組む人間の刺客に幾度か狙われたことがあってさ。そういう視線と似ているんだよ。多少離れているけど、俺にはわかる」

「……中々の修羅場を潜っておいでで」

「私はなかったけどね」


 クロエが言う。それに俺は肩をすくめる。


「クロエはトラブルを起こしている人間だから、むしろ関わり合いになりたくなかったんじゃないか?」

「……いいのか悪いのかわからないわね」

「ま、西部は東部と事情が異なるから、西の方では単に魔族と手を組んでいるような輩が少ないだけかもしれないけど……ともかく、俺達の存在をマークし始めたのは間違いなさそうだ」


 俺の言葉にクロエもシアナも口をつぐむ。どう動くか迷っている様子。


 しかし……向こうから動き出したということは、少なくとも俺達にとっては朗報かもしれない。ただ騒動を起こしていきなり牢に入れられてしまうなんて可能性もゼロではないわけだが。


「……セディ、その監視の目、ずっと察知できる?」


 クロエが訊く。俺は即座に頷き、


「ああ、わかるぞ」

「なら……店を出て路地にでも向かいましょうか」

「そこで穏便に話でもするのか?」

「まさか」


 クロエの瞳に攻撃的なものが宿る。俺は小さくため息をつき、


「……罠にはめて牢屋に入れるなんて可能性もあるからな?」

「城に入れるじゃない」


 こいつは……まあいいや。どちらにせよ策がない状況だ。立ち回り次第でどうにでもなるような状況だし、動くしかないか。

 なんだかクロエに毒されているような気がしないでもないが――


「シアナはどうだ?」

「これ以上動ける手がないのならば、干渉してみるのもありだと思います」

「決まりね」


 クロエは意味深な笑みを見せる。俺は彼らと話をする時一抹の不安を抱いたりもしたが……。


「わかったよ。でも彼らが俺達を追って来るかどうかもわからないから、ひとまず外に出て様子を窺うことから始めるということで、いいな?」

「構いません」

「わかったわ」


 ……とはいえ、敵が動き出したのは間違いない。俺達が都に入り込んだことは城側にとっては周知の事実ということだろう。

 さて、どうなるのか……内心どう話が転ぶかわからないため不安もあるが、俺達は観察者と接触してみることにした。


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