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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
神魔と帝都編

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帝都の様子

 ――俺達がその都に辿り着いた時、雨が降っていた。長旅でこれまで雨に降られたことはなかったのだが……最後の最後でびしょ濡れになったというわけだ。


 俺達は宿をとり、部屋へと入る。合羽代わりの外套を乾かそうとしようとした時、ノックの音が聞こえた。


「どうぞ」


 その音は旅で聞き慣れたものだったので、返事をする。扉が開く。現れたのは――


「話があるの」


 勇者、クロエ――彼女の方は予備で持っていたと思しき外套を着込んでいる。


「ああ、何だ?」


 俺は僅かに熱を発する魔法を使い、外套を乾かし始める。


「都に入ることはできたけど……ここから、どう動くの?」

「……それについては、食事の時にでも相談しよう」


 答え、俺はクロエから滲み出る態度に気付く。


「気持ちはわかるけど……何度も言っているように、俺達は――」

「調査、でしょう? 私だってここがどういう場所か理解している。無茶な行動はしないわ」


 言いつつクロエは部屋を出ていく。それを見送り、俺はため息をついた。


「……正直、無茶な行動をしないなんて、そんな顔つきじゃないんだよな」


 果たして制御できるのか……不安を抱きつつ、俺はため息を吐いた。






 テスアルド帝国首都、アリクザンルス――今俺達は、帝都と呼ばれる場所に来ている。


 テスアルドの首都でありまた交通の要所でもあるため、旅人である俺達も簡単なチェックで入り込むことができた。その目的は神魔の力を保有するこの国の調査なわけだが、この国には大いなる真実を知っている魔族や天使はいない。よって自力でどうにかしなければならない。


 課題は山積みであり、これからどうするか悩みどころなのだが……食事の時間、俺とクロエ、そしてシアナの三人で話し合いをすることになった。


 酒場の雰囲気は帝都ということで人も多いのだが、馬鹿騒ぎするような人間が見られない。談笑の声は聞こえるが、酒場特有の荒くれ的なものが見受けられないのは――何かしらあるのだろうか。


「都に入ったわけだが……ここから、気合を入れ直さないといけない」


 料理を待つ間に俺が口を開く。クロエは険しい表情で応じ、対するシアナは首肯する。


「最大の問題は……ここからどうやって調査するかだけど」

「まずは情報を集めないといけませんね」


 シアナが語る。


「あのエルという人物がどのような力を持っていたのか……それ以外にも、私達は都の状況を知らない。その辺りから確認するべきでしょう」


 僅かだが笑い声が聞こえる。酒場にしてはおとなしい声。


「……ちなみにクロエ、都についての情報は?」

「持っていないわ。今までこの国に入るようなこともなかったから」


 クロエはそう答えると、小さく息をついた。


「それに、商人とかもあまり話したがらないのよね……よくよく考えると、人が多い場所なのに情報があまり出回っていないというのは、おかしな話ね」

「情報統制しているということですか?」

「わからないけど、話さないという暗黙の了解でもあるんじゃない?」


 例えば、もし下手な話を口外したら身の危険がある……とかか。これだけの人がいて、よく情報統制できているな。


「どちらにせよ、私が知っているのは当たり障りのない情報だけよ。例えばこの国の内情とかはあまり知らない。ただ――」


 クロエは周囲を見回す。談笑を繰り広げている様子を眺め、


「一般的な人の暮らしは、悪くなさそうね」

「……そうだな」


 俺は同意し、二人へ改めて提案する。


「今後のことだけど……ひとまず明日明後日くらいは情報を集めることに終始しよう。城に入り込むにしても、俺達には知識が無さすぎるし」

「そもそも城には入れるのでしょうか?」


 シアナの疑問。俺は「わからない」と答え、


「それについても、情報を集めればいいだろう……ということで二人とも、明日は頼む」

「わかったわ」

「わかりました」

「それとクロエは、シアナと一緒に行動してくれよ」

「……信用されてないみたいね」

「釘を何度も刺しているけど、顔には不満って書いてあるぞ」


 俺の言葉にクロエは肩をすくめる。悪びれた様子はない。


「わかったわ」

「一度昼にここで集合することにしよう……それとクロエ、下手に動かないこともあるが、周囲には気を付けてくれよ」

「さすがに白昼襲われる可能性はないと思っているけど……注意するわ」


 というわけで、決定。こうして、神魔の力に対する調査が始まった。






 翌日は昨日とは一転晴れ模様。情報収集するにもいい日和であり、俺はシアナ達と分かれ行動を開始する。

 目抜き通りはかなりの人であり、さすが帝都というイメージを俺に与える。ただ、ここでも俺は他の町とは異なる印象を受ける。


 人々がどこか、理路整然としているような――


「……法律とかで何か縛っているのかな」


 だとすると窮屈そうな顔を見せてもいいはずだけど……まあいいか。とりあえず聞いて回ってみよう。

 俺は手近の武器屋に入る。店主に声を掛けると「自由に見てくれ」という返答だったので、店内を物色する。


 魔法具のような力はない、ただの剣。それを眺めていると、店主が俺に声を掛けてきた。


「兄さん、剣を買い替えるのかい?」

「ああ、俺のじゃないんですよ。仲間の剣が少しばかり破損して……その仲間は現在別の場所で鎧とかを見て回っているんですけど」

「ほう、そうなのか。見た所、傭兵というよりは勇者って感じだな」

「……自称ですけどね」


 店主は笑う。反応は上々。


「なるほどなあ。しかし魔物とかと戦うんだったら、魔法具の力を持っているやつの方がいいんじゃないか?」

「高価ですからね」


 店主は「なるほど」とまたも笑う。そこで俺は、少しばかり装飾が綺麗な剣を見つけた。それにはテスアルド帝国を象徴する紋章が彫られている。

「……ここの店は、兵士などに剣を供給しているんですか?」

「一部はな。それなりに品質がいいってことで、国から評価して頂いている」


 嬉しそうに語る……よし、これなら話の流れで本題にもっていける。


「兵士達に魔法具は提供していないんですか?」

「全部というのは難しいみたいだな。場合によっては剣を購入し城で色々と魔法を付与するなんて話もあるが」

「城で……そういう研究を?」

「みたいだな。詳しいことは知らないが、色々と研究しているみたいだぜ」

「……そうした研究をしていることは、周知の事実なんですか?」

「ああ。何でも『帝国の繁栄を維持』する研究だそうだ」


 ……その中に神魔の力に関する研究も含まれるのだろう。で、民衆はそうした研究があることは認知している。


「俺達としては暮らしが楽になったし、その研究でさらに栄えるというのなら、こんなに嬉しいことはないよ」

「そうですね……剣はよさそうなので、仲間と相談してみます」

「おう。兄ちゃんもよかったら利用してくんな」


 店を出る。ふむ、一軒目からそれなりに当たりだったようだ。


 しかし帝国の繁栄か……他の店を回って似たような文言が飛び出してきたら、研究自体は公のものだという認識でいいだろう。

 そう考えると、研究自体は公的なものと解釈してもいいのか……とはいえさすがに一般人にそれらを見せているわけではないだろう。


 なら、どうやって調べるか……考えつつ町を歩む。


 まあいい。ひとまず今は、情報収集を優先しよう……俺は雑貨店に目をつけ、そちらへと歩んでいった。


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