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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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二人の勇者

 ニコラはクロエと共に相当な功績を持った人物……よって町をあげての葬列となり、さらに国の政治に関わる人物まで訪れた。そうした光景を、俺とシアナはそれをただ黙って眺めることとなった。


 同じ勇者として知り合ったとはいえ、町の人間でも国の人間でもない俺達はどちらかというと部外者……どこか他人事のような感覚を抱きながら、ニコラの葬式が終わるのを待った。


 その間に、新たな魔物の襲撃はなかった。シアナも調査を行いもう魔法陣が存在しないことは確定。いよいよ俺達は町を離れることにした。

 ニコラのこともあったためか、出立の朝に見送りはほとんどなかった。ただ唯一、正規軍の騎士団が挨拶をしに待っていた。


「出立されると聞き……無事を祈っている」

「そちらも……今後、あなた方はどうするつもりで?」

「今後、この場所はしばらく観察対象になると思う」

「そうですか。また、他の町の調査も行うべきでしょう」

「それは国もわかっているようだ。当面テスアルド帝国に対する警戒は強まるだろう」

「……どうか、町の人を守ってください」

「無論だ。あなた方も気を付けて」


 指揮官に見送られ、俺達は歩き出す。悲しみに暮れる街並みを眺めながら、俺達はゆっくりとした足取りで町の入口を目指す。

 方角は、南の入口……戦いの最初、口火を切った場所であるためか、少なからず考えることはあった。


 だが、ここからは調査を開始する以上、冷静にならないといけない……そう決意を新たにしつつ入口に到達した時、人影が目に入った。

 シアナはその姿に、少なからず驚いた様子。だが俺は違った。


 きっと彼女は、この場に現れるだろうとなんとなく察していた。


「おはよう」

「おはよう……クロエ」


 相手――勇者クロエを見返しつつ、俺は挨拶を行う。


 完全武装の出で立ちであり、これからどうするつもりなのか、俺には容易に想像できる。


「……一緒に来る気か?」

「ええ」


 頷くクロエ。その様子だと、俺達がどこへ行こうとしているのかわかっているらしい。


「……あのな、俺達は――」

「誤魔化さないで」


 クロエが言う――ただその声音は、叱責とは異なる、どこか懇願の色を滲ませている。


「二人がテスアルドで行くという確証はなかった。けど、二人ならそうするんだろうなと予測はしていた」

「それで、この入口で待っていた?」

「ええ」


 首肯するクロエ。そこで俺はシアナに視線を移した。


「……だそうだけど」


 シアナは難しい顔をしていた。彼女にしてみれば、イレギュラーな存在だろう。


 そもそもテスアルド帝国を訪れる理由は、神魔の力の調査をすること……クロエの場合は違うだろう。それに彼女が帝国の領土に入ったならば、相手に警戒される可能性が極めて高い。逆に調査を難しくさせる恐れもある。

 ただ、今からエーレへ判断を仰ぐようなことをするわけにもいかない……それに彼女はきっと、俺達が断っても一人でテスアルド帝国に乗り込むだろう。


 彼女をあえて放置し、その混乱を利用して調査を……いや、ここで戦った事実は俺達も同じ。となれば俺達だって領土に入れば警戒される可能性もある。クロエが動くのならなおさらだろう。なら下手な行動をしないよう同行させるというのも、一つの手ではある。


 どうするべきか……考えていると、クロエが口を開いた。


「二人にとって、テスアルドへ行く理由は私とは違うと思う」

「……そうだな」


 俺は同意し、簡単に事情を説明。


「あの不可思議な力……それが一体何なのか、疑問に思い調べようと思った。もしかするとあの力は……何か恐ろしいものかもしれない」

「もしそうだとしたら、どうするの?」

「……東部がその影響を受けないとも限らないため、警告しに行くくらいかな」


 クロエは煮え切らない表情。


「そう……」


 俺達と共に行動して、自身の目的が達成される可能性は低いと考えたのかもしれない――彼女の目的は、間違いなく復讐。


「……正直、クロエ一人でどうにかできる相手だとは思えない」


 俺は語る。一方のクロエは無言。


「相手は国そのものだ。喧嘩を売るにしたって危険だ。もし逃げることになった場合、クロエ自身どうにかなるかもしれないが、この町だってタダでは済まないかもしれない」

「そこは兵士さんに任せておけば、心配ないと思う。国も今後警戒するだろうし」


 クロエは言う……まあ確かに、この国も警戒するだろうし、今後似たような事例が発生する危険性はないかもしれないが。


「でも、テスアルドに入り込んだらどうなるかは予想している……その辺りは、私だって自重する気でいるし、認識している」

「……それでも、行くのか?」


 問うと、クロエは深く頷いた。

 決意は固い――いや、当然だろう。だが、


「俺達は……正直、テスアルド帝国に喧嘩を売るわけじゃない」

「ええ」

「あくまでどのような力なのかを調べるだけだ……本当なら、無駄な戦闘はしない」

「もし、セディ達の望まないようなものだったら、どうする気?」

「……そこまでは、わからない。力の全容を把握できていないからな」


 肩をすくめる。一方クロエは押し黙る。


 しばし、視線が重なる。クロエの姿はこれまで見た中で一番悲哀に満ちているようにも見えるし、それでいてこれまでにないくらいに深い決意を秘めているようにも見える。


「……どうやっても、ついてくる気みたいだな」

「ええ」

「……わかりました」


 シアナが承諾する。様々なメリットとデメリットを勘案した結果だろう。


「しかし、セディ様が仰ったように本来は戦わずどのような特性なのかを調べるだけです。あなたの意向に沿うようなことはできません」

「ええ」

「その中でもし無茶をやったら……」

「無茶はしない。約束する」


 何か――今まで無茶していたことを後悔しているような素振りだった。もしかすると最後の戦い――あれもまた、クロエが無茶をした結果なのだとしたら、自分を戒める意味合いから無茶しないと決意しているのかもしれない。


「……わかった。それじゃあ行こう」


 俺が言う。歩き出し、シアナが左隣を歩く。

 そしてクロエが俺の右隣を歩き始める……並び歩く俺達に会話はない。けれど、間違いなく意志は一つだった。


 テスアルド帝国――そこに眠る力を、絶対に許すことはできないと。


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