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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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最後の抵抗

 エルがクロエに宣言した刹那、俺達が見ている光が大きく揺らいだ。クロエ達の姿も歪み、異変が起こったのだと理解する。


「魔力が、室内に満たされ始めているんです」


 シアナが語る。それは一体……?


「私達はクロエさん達の魔力を検出することによって、その姿を確認できています。しかし濃密な魔力が周囲に発生すると……質や量によりますが、場合によっては魔力を捕捉できなくなり、見れなくなる場合が――」


 その時だった。クロエ達の状況が大きく変化する。


 突如、背後にいるニコラがクロエへ向け迫る。まるで体当たりでもするような所作であり、俺は思わず声を上げた。

 だがクロエは反応。即座に身を捻り彼女を避け――刹那、


 ニコラの姿が、消えた。


「なっ……!?」


 これはクロエも予想外だろう。俺にとっても予想外の出来事であり、一体何が起こったのか理解できない。


「魔力探知が下手だというのが、仇となったね」


 嬉しそうに……おそらく魔力を噴出させながら、エルは語る。


「最初の攻防の時、あなたが魔物に集中している時、彼女を取り込んだんだよ。あの時以降、あなたと共にいたのは単なる幻さ」

「……ニコラを、どこにやったの!!」

「それは、俺を殺してゆっくり調べればいいんじゃないかな?」


 俺はここで直感する。エルは完全にこの場で死ぬ気でいる。そして最後の抵抗として、クロエにダメージを負わせようと策を――


「さあて、最後の仕上げといきますか」


 両手を広げるエル。それと同時にさらにクロエ達の姿が歪む。


「全身全霊……俺の残る魔力を使って魔物を生み出す。場所は、できるだけ町に近い方がいいかな?」

「貴様……!」


 クロエが吠える。それと共に彼女が剣をエルへ差し向ける。


「あの勇者に倒せるのかどうか……地獄で楽しく観戦することにするよ」


 クロエの刃が振り下ろされる。それが届く寸前に――とうとうクロエ達の姿が、光と共にかき消えた。


「……今の」

「まずい、ですね」


 シアナが言う。互いがしばし視線を合わせた後――宿の外から、咆哮のような声が聞こえてきた。


「……エルが最後に召喚した魔物か」

「の、ようですね。あれだけ歪む程魔力が濃密であったのならば、警告周辺に存在していた魔力を無理矢理引き出した可能性があります。となると――」


 ここで宿の廊下を進む仰々しい靴音。振り返ると扉がノックもせずに開き、兵士が息を切らせ俺達へ言う。


「ま、魔物が……!」

「わかりました。どの方角ですか?」

「み、南です……! どうか……!」


 俺は頷くと同時にシアナと共に歩き出す。

 おそらくこれが最後の戦い。俺は気を引き締めつつ、シアナと共に戦地へと向かった。






――その魔物は、森を覆う木々すら凌駕する高さを持った巨人だった。


「古竜を討伐した時を思い出すな……」


 俺が呟きに、シアナは反応。


「古竜とどちらが大きいですか?」

「それは……断然、こっちだな」


 見上げるくらい高いというのは同じだが、それでも古竜よりも遥かにでかい。

 最後の最後で、敵もとんでもないものを生み出してきた。


「やるしかないな……シアナ、大丈夫か?」

「対処自体はそれほど難しくないでしょう。セディ様の攻撃を受ければ間違いなく倒せます。しかし」

「しかし?」

「問題は、この巨体が消滅させられずに町へと倒れ込んだ場合です」


 倒れ込む……なるほどな。彼女が懸念することはすぐに理解できた。


 魔物を倒す場合、基本塵と化すわけだが極端に魔力量が多い場合、この限りではない。魔物を絶命させることができたとしても、体に残る魔力を消し飛ばすことができずに残る場合がある。それは生命を絶てていればいずれ消滅するだけなのだが……これだけ巨大である場合、質量自体しばらく残り続けるのは間違いない。結果、シアナが懸念しているような状況に陥る。


 つまり倒したとしてもしばらく質量が残るため……その状態で町へ倒れれば、建物を破壊。大惨事になるというわけだ。

 住民の避難は完了しているので、建物に被害が出たとしても一般人には影響ないと思うが……周囲で巨人を見上げ警戒している兵士達はひとたまりもないだろう。


「足を狙うか?」

「……人間で言う所の心臓部から魔力を感じます。どれだけの魔力が込められたのか推計しかできませんが、もしかすると足を狙っても瞬時に再生する可能性があります」

「となると、心臓部を……いや、そこを狙っても、倒れ込んで来たらおしまいか」


 とはいえ、長々と話している暇もなさそうな雰囲気……もしかするとこの巨人は町を破壊する目的で生み出したようにも感じられる。


「おそらく、町から遠ざけようとしても無駄でしょうね」


 シアナは言う。それと共に大きく深呼吸をした。


「私が魔法を行使し、動きを封じ込めます。これだけの質量を封じるとなると、少しばかり時間がかかります」

「どの程度だ?」

「およそ三分」


 それ、俺が考える少しばかりという時間より遥かに短いんだけど……まあいいや、これこそ魔王の妹の力だろう。俺は「わかった」と答え、


「なら、その間俺が食い止める」

「お願いします」


 シアナの小柄な体が疾駆する。おそらく巨人の周囲に魔法を構築するのだろう。


 ここで巨人本体が町へ迫ろうと動く――そこへ俺が前に出た。巨人はそのまま突き進むかと思いきや、こちらに反応。俺を見てなのか、それとも単なる障害だと感じたのか……腕を伸ばす。


 それに対し、俺は容赦なく斬撃を見舞った。白波の剣……それが腕を弾き飛ばし、肩から先を消失させる。

 だが巨人は魔力を収束させる。やはり再生能力が……考える間に足を一歩踏み出そうと巨人は動く。


 巨体の一歩は相当なもので、あっという間に町へ近づいてしまう。だから俺は即座に白波の剣を放つ。結果、歩き出そうとした右足部分を吹き飛ばすことに成功。膝から先が完全になくなり、巨人は動きを停止する。


 左足に体重が乗っていたため、倒れ込むようなことにはならなかった。すぐさま足を再生させようとする巨人。俺は続けざまに左腕を狙って剣を放つ。それによって左手の先も消滅。兵士が歓声を上げる。


 とはいえ、瞬時に再生されてしまえば時間稼ぎにもならない。巨人はまた進んでいないが、全力で歩き出せば町へ到達するのは一瞬。再生する様を見て、一瞬も気が抜けないと心の中で断ずる。


 俺はさらなる剣を放ち、巨人の部位を破壊する。心臓や頭部を狙おうかとも思ったが、それをして動きを停止させると倒れ込んでくる可能性がある。それだけはまずい。


 だが……考える間にも腕が再生される。間髪入れずに俺は剣を放つ。再生した瞬間即座に剣を放つを繰り返し……ここに来て、とうとう疲労が生じ始めた。


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