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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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勇者の様子

 俺は綺麗に魔物を片付けた後、周囲に残っている魔法陣がないかを確認しつつ……歩き出した。

 町の周辺はシアナが例外なく片付けているはずなので大丈夫だろう。あとは指揮官と合流し現状を整理し、クロエの帰りを待つだけだ。


 そのクロエがどういう状況になっているのかが気になるのだが……シアナに言ったら様子を見ることとかできるのだろうか?


「ちょっと訊いてみるか」


 そんなことを呟きつつ町へと戻る。北部の入口前には、兵士達と戦いを終えたシアナが立っていた。


「シアナ、無事か?」

「はい。セディ様は?」

「俺も平気だよ……あとはクロエ達の方が気掛かりだが」

「もし異常があればすぐに連絡がくるようになっています……相手は待ち構える以上罠も用意しているはずですが、警戒心の強いニコラさんもいますし、大丈夫でしょう」


 シアナとしてはニコラの存在を一目置いているようだ。まあクロエをサポートしていることに加え、彼女の制御を行っているのもニコラなのでそういう評価になるのは当然と言えば当然か。


「なら、一度指揮官の人と合流して……」

「はい。町の全体状況を把握したい所ですね」


 というわけで移動開始。程なくして町の大通りに指揮官を発見した。

 呼び掛けると彼は俺達に向き直り、


「魔物達を見事討伐してくれたようだな……感謝する」

「いえ、当然のことをしたまでですから。それで、状況は?」

「南部には回り込んだと思しき魔物がいたが、現在兵士達が対応を行っている。数は多くないようなので、直に倒すことができるだろう」


 それなら安心。とはいえ――


「まだ脅威が去ったわけではないでしょう。警戒だけはお願いします」

「うむ。勇者クロエが戻って来るまでは現状維持だろうな」

「俺達はどうすれば?」

「しばし待機していてくれ」

「わかりました。少し見回った後宿に戻り待機でいいでしょうか?」

「それで構わない。もし何かあったら……また、頼みたい」


 告げた指揮官も警戒の色は見せている。この様子なら敵に後れを取ることはないだろうと思いつつ……俺は指揮官に頷いた。

 一応、南部の様子は見に行くだけ行こう……そう思いつつ俺達はこの場を退散。シアナに言って、南部へと向かう。


 途中、魔物と交戦するような音が聞こえてきたのだが、それもやがて収まった。到着すると、町の入口から多少遠くに複数人の兵士がいた。なおかつ入口付近には戦士団の姿。


「……あ」


 ナクウルが気付き声を上げる。そこで俺は一行を安心させるために、話し掛けた。


「魔物は出現地点を含め全て潰した。あとはクロエの方だけだ」

「まだ、襲い掛かってくる可能性は?」


 ナクウルの問いに俺は「あるかもしれない」と答えつつ、


「けど、兵士達も残って警戒するようだし、相手の準備していたものをほとんど潰したから、これ以上の猛攻はないと思うぞ」


 ……ふと思ったんだが、町中にああした魔法陣が組み込まれている可能性はないだろうか。その辺りシアナに一度訊いてみるか。


「わかりました……それで、俺達は」


 ナクウルは兵士達に目を向けつつ言う。おそらくだが、これまで何もしていない状況に少なからず思う所はあるのだろう。


「なら、そうだな……」


 指揮官に尋ねるのが一番なんだろうけど……あ、そういえば。


「なら、避難している人を安心させるようにするというのはどうだろう」

「安心?」

「兵士に言われるより、見知った人から問題ないと言われる方が住民も安心するだろうし」

「わかりました」


 承諾するナクウル。不甲斐ない結果に終わり不満の一つもあるだろうけど、それを押し殺し彼は活動しているようだ。

 俺の助言が聞いているのだろうか……そんなことを思いつつ彼らと別れ、宿に戻る途中でシアナに質問する。


「シアナ、最初の襲撃の段階で町を色々と回っていたと思うけど、魔物の気配は?」

「ありませんでした。魔法陣なども見受けられませんでした……が」

「が?」


 聞き返すと、彼女は難しい顔を示す。


「東西南北と魔法陣が構築されていたという事実……勇者クロエと共にこの町を訪れた段階で、気付くことができませんでした。あの魔法陣は私達が来るより前に存在していたのは明らかであり、ここから考えられるのは――」

「発動する前より判断するのは無理、ってことか?」

「神魔の力による要因が大きいのだと思います」


 悔しそうにシアナは語る。


 調査や研究を行えば、短時間で魔法陣を暴く手段を見つけられるかもしれない。だがこの場で遭遇した魔法陣は解析などする時間もなく、破壊するしかなかった――未完成である神魔の力とはいえ、魔王の妹を欺くだけの力を有しているということが、この一事で理解できる。

 これは間違いなく問題だろう……エーレに報告する必要もありそうだな。


「せめて残存する魔力を調べたいですが、今は兵士達の目もありますし調査に入るのも難しいでしょう……宿で待機ならば、勇者クロエの様子を見ましょうか?」

「見れるのか?」


 魔王軍幹部の砦では設備により遠くのものを見ることができたのだが、この町には当然そうしたものはない。


「私が様子を見ることのできる魔法を使えますのでご安心を……といっても、特定の人物の魔力を捕捉して、その人物の周囲がどうなっているか把握するという魔法ですけれど」


 ということは見知った人物にしか使えないというわけか。どちらにせよクロエを観察できる以上非常に有用であることは間違いない。だから俺は彼女の意見に承諾し、宿へと戻る。

 部屋に入り、シアナが魔法を発動させる。少しして俺達の目の前に光が出現し――やがて、光が収まりクロエ達のいる場所が映し出された。


「ふっ!」


 クロエが魔物に対し剣を振り下ろす。エルが生み出したものではなく、おそらく渓谷に元々存在している魔物だろう。


「……さて、そろそろね」


 周囲に魔物がいなくなった状況でクロエが呟く。どうやら決戦が近いことを予感しているようだが……俺達にはわからないが、周囲には魔力などが漂っているのかもしれない。


「ニコラ、準備はいい?」

「うん、もちろん」


 頷くニコラ。彼女は今日の戦いにあまり参加していなかったとはいえ、動き回っていたのは間違いない。体力的に大丈夫なのか少し不安に思ったのだが――まあ、二人だけで魔王城に乗り込むような無茶もやってきたのだ。このくらいのことでへこたれるような体ではないか。


 クロエが歩き出す。気配を掴んでいるのかその歩みはしっかりとしており、俺は相手のいる場所は把握しているのだろうと理解する。

 やがて、崖に到達した。クロエ達は渓谷の断崖の手前に立ったのだが、その真正面――反対側の断崖に大きな洞窟が存在していた。


「ニコラ、あの場所?」

「うん、そうだよ」


 頷くニコラ。彼女はすぐさま片膝をつき、地面に右手を押し当てる。


「準備はいい?」

「私はいつでも」


 声と同時にクロエの周囲に風が取り巻き始める。さらにニコラ本人も――やがて、


「飛翔せよ――!」


 言葉と共に、二人の体が浮いた。高速移動魔法――風を利用し空を飛ぶような魔法だろう。

 両者の体が断崖の上に浮き上がり、跳ねた。恐ろしい程高い場所から二人は平然と風を使って移動し――程なくして洞窟へと足をつけた。


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