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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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東と北の魔物

 俺が足を止めナクウル達を待っていると、彼はこちらへ向かってきながら声を上げた。


「魔物の方は……どうなりましたか!?」

「西側は片付けた! 今から東へ行く!」


 声と共にナクウル達は接近し立ち止まる。


「お、俺達はどうすれば!?」


 訊かれるが――彼らが戦うにしても、おそらく足手まといにしかならないだろう。兵士だって、現状魔物達を押し留めることしかできていない……いや、兵士達はきちんと連携がとれれば魔物を押し返すことだって可能かもしれないが、町の周囲から突如魔物が湧き始め混乱しているのだろう。


 そして戦士団は……兵士達と連携をとることも難しいだろう。となれば魔物の攻撃に対応できない可能性が高く、戦線に加えることは危険だろう。ならどうするか――


「君達は、南側へ頼む」


 そこで発言したのは、指揮官だった。


「情報によると、勇者殿により南側に魔物はいない……が、その分守りを手薄にしている。東や西の魔物が回り込んでいる可能性もあり、そちらに協力してもらいたい」

「わ、わかりました!」


 ナクウルは指示に従い、他の戦士団と共に移動を開始する。その姿が多少小さくなった時、俺は指揮官に尋ねた。


「先ほどの言葉、本当ですか?」

「手薄なのは本当だ。しかし魔物が回り込んだという情報は入っていない」


 厄介払いの意味合いもあるのだろうか……多少訊きたかったけれど、これ以上ここに留まる暇はないだろう。


「俺は、東側に」


 指揮官は「頼む」と言い頷いた。そこで俺は全速力で駆け出す……遠くから兵士の喚声などが聞こえてくる。どうか無事であってくれと祈りつつ、俺はひたすら走る。

 町の人間は既に避難を済ませたかその姿は完全に見えない。その辺りについてはきちんと兵士達が対応してくれたのは間違いなく、それが現状の中で救いだった。


 そして現場に到着する。町の入口で魔物と迎え撃つ構えを見せる兵士。だが彼らはまだ交戦していない。原因は――


「シアナ!?」


 驚いた。シアナが単独で魔物と戦っていた。


「勇者殿!」


 兵士の一人が俺に声を掛ける。


「そ、その。私達は彼女に町を守れと言われ……」

「わかりました。彼女は俺が助けに入ります。このままの態勢でお願いします」


 指示を出して駆ける。すぐにシアナの近くまで到着し、俺は手近にいた魔物を斬った。


「――セディ様! 西側の魔物は?」

「魔法陣も潰した。こっちはどうだ?」

「近場にあった魔法陣は潰しました。神魔の力と言えど多少ながら解析に成功した私ならば、破壊可能だとわかりました」


 この状況下で微笑を浮かべる。シアナにとっては余裕の戦いであり、検証できる暇があったということだろう。


「とはいえ、後方の兵士の数を考えると魔物を通すことはできず……さらに魔法陣を破壊しようとした時、その勢いが増したので――」

「おそらく、西側の魔法陣を破壊した余力を北や東に向けたんだろうな……」


 ならば、なおさら急がないといけない。シアナ単独でも魔物の処理はできるだろうけど、人目がある以上全力は出せない。この状況ではさすがに召喚速度が増した魔物の対応で手が一杯らしい。

 おそらくここまで体術だけで応じていたのだろう。ならば膠着状態は仕方がない……俺はシアナへ「わかった」と応じ、指示を出した。


「シアナはここでしばし耐えていてくれ。俺が魔法陣を破壊する」

「わかりました。ご無事で」

「ああ」


 走る。正面にいた魔物を一撃で滅し、気配を探り魔法陣を探す。それほど経たず発見し、問答無用で破壊する。


 シアナという後ろ盾があるので、周囲の状況を窺うくらいの余裕もあった。魔物が生まれるペースは確かに早いように思える。とはいえ現状シアナが食い止められるだけの量しか出現していない。最初の防衛戦だって、彼女がいたらもっと楽に戦えただろう。


 この辺りはさすが魔王の妹といったところか……と、そんなことを考えながらさらに魔法陣を破壊。ものの五分でその全てを撃破することに成功した。

 驚くほどのペースだが、町全体を守るためにはさらに速さが必要かもしれない――そう思いながら俺は周囲にいる魔物を倒しつつシアナの所へ戻った。


「シアナ!」

「はい!」


 言わんとしていることを理解し、彼女は踵を返し走り出す。兵士達が呆然とする中で俺達は町へと入り、


「ここで魔物の見張りをお願いします!」

「わ、わかりました!」


 兵士の言葉を背に受けながら俺達は駆ける。俺もシアナも身体強化を用いて移動しているが、シアナの方が圧倒的に軽やかな走り。改めてさすがと思いつつ、指揮官のいた大通りに到達する。


「勇者殿、魔物は――」

「倒しました。出現地点も封鎖を」


 これだけの短時間で――という心の声が驚愕となって指揮官の顔に表れる。けれどすぐに我に返り。


「わかった。残るは北部だな」

「俺達が急行します。他の場所の状況把握をお願いします」

「了解した」


 指揮官の言葉を聞いた後、俺達は同時に走る。驚く兵士達を縫うようにして突き進み、やがて北部に到達した。


「く、おおおぉ!」


 雄叫びにも似た声が響いた。見れば多数の魔物が北部を守る兵士達の防壁を突破しようとしているところだった。


 指揮官は北側から最初に報告が来たため戦力を振り分けたと言っていた……彼の言う通り、確かに兵の数は多かった。しかし魔物の数も相当なもので――おそらく最初から相当な数が押し寄せてきていたのだろう。それをどうにか食い止めていたが、俺達が東西の魔法陣を破壊したため、後続からもさらに押し寄せてくるような状況。


 俺とシアナは無言で戦場に飛び込んだ。白波の剣が複数の魔物を飲み込み、シアナの極めて正確な拳が一突きで魔物を容赦なく滅していく。


「あ、あなた方は……!」

「態勢を整えてください!」


 兵士の言葉に俺はそう告げ、さらに押し寄せてくる魔物を斬っていく。

 そして周囲にいなくなった時点で、左手をかざした。


「来たれ――煉獄の聖炎!」


 金色の炎。それが一直線に放たれ後続の魔物を一気に消し飛ばしていく。

 後方の兵士達からは驚愕によるどよめき。この時点で町の入口周辺から敵は消えていた。体力も魔力もまだ十分ある。北部の魔法陣を破壊するくらいの余力は十分だ。


「シアナ、俺は魔法陣の破壊に向かう……ここは任せていいか?」

「お任せください」


 自信を含んだシアナの言葉。俺は勢いよく頷くと、彼女を残し走り出した。


 魔法陣の場所はすぐに見つかり、俺は即座に破壊する。周辺に魔物がいてもお構いなし。むしろ剣で魔法陣を破壊すると同時に魔物を吹き飛ばすような形だった。

 さらに別の魔法陣を見つけ破壊にかかる。魔物もどうやらそれをさせまいと俺を狙ってはいるのだが……地力の差はいかんともしがたいらしく、俺の一振りで例外なく消滅した。


 やがて、俺は町の北部にあった魔法陣を全て破壊する。ここまででおよそ十五分くらいだろうか。時間が東部や西部より掛かったのは、魔法陣の数も多かったから。おそらくこの北部の襲撃が軍勢の中における主軸だったのだろう。


 こうした魔法陣は間違いなく事前に仕掛けられていたものであり、俺達が来ていなければどうなっていたことか……クロエがきっかけで始まった戦いだが、ここで発覚していてよかったということだろう。勇者クロエもなんだかんだ言って「持っている」のかもしれないと思った。


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