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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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213/428

防衛戦第二幕

 ざわめきのある方向へ進んだ結果、町の西側に辿り着く。そこでは兵士達が騒いでおり、どう対応するか言い合っているような状況であった。


「持ち場を離れるな! 直にさらなる増援が来る!」

「し、しかし魔物の進攻速度はそれよりも――」


 対応に苦慮しているのか……考えながら俺とシアナは兵士達の横をすり抜け街道に目を移した。そこには――


「……あれだけの数を、どこから生み出した?」

「森の他に、事前に仕込まれていたのでしょう」


 シアナが冷静に語る。前方、街道の先に、軍勢と呼んでも差し支えない多数の魔物が存在していた。

 見た目は勇者として行動していた時相手にしていたような魔物と酷似しているため、能力はそれほどでもないだろう。だがその数はこの場にいる兵士の数では間違いなく対応できない。


 現在兵士達は町中に分散している……情報を取りまとめて迎撃する態勢を整えようとする間に、魔物が襲い掛かってくるのは間違いない。


「……南の召喚とは異なり、今回は間違いなく遠隔でしょう」


 シアナが魔物を見据えながら言う。


「本拠に戻ったことで魔法が使えるようになり、元々仕込んでいた魔物を生み出すことができた……そんなところでしょう」

「シアナ、敵はこちらの状況を把握して色々やっていると思うか?」

「その可能性はありますね」


 兵士が分散している状況を狙ったのだとしたら、敵は相当な策士だ。


「さて、私達はどうするべきか……」

「といっても、情報を取得する暇はなさそうだな」


 魔物の進撃は続いている。兵士達が右往左往している間に近づいてくるのを見れば、こちらに考える余裕を与えないつもりなのだとわかる。


「……シアナ、他の場所の様子を見に行ってくれ」

「セディさんは?」

「聞かなくともわかるだろ?」

「わかりました……御武運を」

「ああ」


 剣を抜く。シアナが走り去り――そこで俺の所作に驚いたか周囲にいた兵士達が注目する。


「あ、あなたは……」

「ここは俺がどうにかします。他の場所にも魔物が現れている可能性がありますので、まずは状況把握を」


 どうにかする――その言葉に異論を挟もうとする兵士の姿もあったが、俺は構わず足を前に進める。

 さて……魔物は一定のリズムでゆっくりと進んでいる。下手に刺激すれば突撃してくる可能性もゼロではないが、距離を詰められた状態で一斉に仕掛けられたらさすがにマズイ。


 よって、距離のある段階だが仕掛けることにする……剣に魔力を込め、魔物を見据える。

 同時、魔物達は僅かに反応を示した……が、俺は構わず剣を縦に薙いだ。


 白波の剣――古竜や様々な悪魔を討ってきた剣戟が一直線に魔物へと向かう。

 魔物に衝突した瞬間、弾けた。爆散し周囲の魔物を飲み込み……後方から兵士達のどよめきを聞きつつ、俺は剣を構え注視する。


 先頭付近にいた魔物はそれなりに弾き飛ばしたはずだ。後続の魔物がどの程度が判別できなかったが、さすがに全滅というわけにもいかないだろう――

 直後、真っ直ぐ突っ込んでくる魔物の姿。それも一体や二体ではない。先ほどまで列を成して行軍していたのとは異なり、一刻も早く俺へと迫ろうとするような突撃。


 周囲にいる兵士達ならばその迫力に尻込みしてしまうのだろうけど、あいにく魔物と散々やりあってきた俺にとっては鴨が鳥かごに突っ込んでくるようにしか見えない。


「ふっ!」


 剣を振る。刀身から放たれた白き刃が先陣を切る魔物をまず消し飛ばす。

 後続の魔物も同じように剣を振り迎撃。威力に対し魔力は言う程消費していない。南部の防衛戦から連戦だがこのくらいの戦いは魔族との戦いで経験してきた。精神的にもまだまだ余裕はある。


 すると今度は魔物が数体まとめてかかってくる。さらに左右に散開するような気配を見せる。エルがこの状況を把握して実行しているのかどうかわからないが、さすがに一辺倒な動きというわけではなさそうだ。


 ここで俺は左手をかざす。本来なら風や炎などを使って押し留めるのが一番なのだろうけど……絶対に突破されてはならない状況。ならば使う魔法は一つしかないと思った。


「来たれ――煉獄の聖炎」


 金色の炎が周囲に舞った。それは俺から放射状に放たれ、町を覆う壁のように形成されていく。

 魔物はそれに突撃を試みる――が、天使の操る炎によって魔物は少し触れただけでも消滅する。それほど力を入れて使用したわけではないが、威力は十分だった。


 しばし魔物が突撃する姿を眺めていたわけだが……その中で魔物の数が最初と比べ少なくなっていることに気付く。新たな魔物をまったく生み出していないわけではないだろうけど、どうやら生成のペースが落ちているらしい。


 ……おそらくだが、他の場所で召喚を始めたからだろうか。いくら遠隔で大量に魔物を生み出せるといっても、魔法の使用者が人間である以上、一度に生み出せる量には限度があるはずだ。聖炎によって魔物があっさりと消滅し、その生成ペースを上回っている……これなら魔物を生み出す魔法陣を破壊するチャンスがあるかもしれない。


「来たれ――煉獄の聖炎」


 再び魔法。さらに魔物が数を減らすことに成功する。これなら魔法陣のある場所へ急行し破壊できるのではないか……そういう考えが頭に浮かぶ。


 再度同じ魔法を使用し、周辺にいた魔物を全て滅した。後続の魔物はなおも出現しているだろう。今しかない――そう判断し、俺は駆けた。

 後方から俺を呼ぶ声が聞こえたが、無視。気配を探り、魔物の出現地点を発見する。


 森とは異なり、魔法陣の形もはっきりと見える。俺は周囲に魔物が出現するのを目で確認しつつ神魔の力を用いて地面に剣を薙ぐ。結果、魔法陣が消滅し、さらに襲い掛かって来た魔物を一撃で倒す。

 さらに気配を探り同様のことを繰り返す。魔物の出現速度はやはり森と比べ鈍く、十分対応できた。それから十分程度の時間で周辺にあった魔法陣の破壊に成功する。これで西側は問題ないだろう。


 体の方は……うん、魔力を含めまだ大丈夫。俺は身体強化を体に施しつつ、町の入口へと素早く戻った。


「勇者殿! 魔物は――」

「倒した! たぶん残っていないだろうけど、魔物がいないか監視を頼みます!」


 兵士にそう告げると、俺は町の中へと駆けだす。そこに再び兵士の声。


「どちらへ!?」

「他の場所へ救援に!」


 南側はおそらく最初の戦いで潰したはずなので、残るは北と東――俺は全力疾走で町の中央まで走る。まだ混乱が続いている町の中ではあったが、それでも確か中央部には指揮官がいたはずで――


 大通りに到着する。そこに兵をまとめる指揮官の姿があった。彼は俺の姿に気付くと、声を上げる。


「勇者殿……!」

「状況は!?」


 すぐさま問い掛ける。すると厳しい表情を伴い、答えた。


「北、東、西と同時に魔物が侵攻している。戦力がバラつきなおかつ兵も混乱しているため、対応に苦慮し――」

「西側は魔物をほぼ滅し、なおかつ魔物を生み出す魔法陣も片付けました」


 その言葉で指揮官は驚愕した様子だったが――すぐに表情を改める。


「わかった……ならば北と東。ただ北側は最初に報告があったため、そちらに戦力を集中させている」

「わかりました。ならば東側を先に」


 俺は言うとすぐさま駆け出そうとする。しかし、


「セディさん!」


 ナクウルの声だった。振り向くと戦士団の面々が駆け寄ってくる姿が見えた。


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