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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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210/428

勇者の意志

 俺達は戦士団の拠点前に辿り着く。そこにはニコラに加え、シアナがいた。


「シアナ、状況は?」

「町の中を探しましたが、どこにもいませんね」


 首を振るシアナ。彼女でも見つからないということは、相手は相当な力を持っている考えていいのか。それともただ単純に町の中にいないだけなのか。

 彼女の力量を考えれば後者である可能性が高いような気もするが……ともかく、敵が攻撃を止めたとは到底思えない。何か対策を考えないと。


「ひとまず魔物の出現については止まったようです」


 ニコラが言う。するとクロエは大きく頷いて彼女に質問。


「ナクウル達は?」

「ひとまず住民と話をして……点在する避難所に向かってもらっているような段階」

「そっか。町にまだ被害はないし、魔物の出現も止まっているから、とりあえず脅威は去ったと考えても――」

「さすがにそうはいかないなぁ」


 男性の声。見れば戦士団拠点入口に、先ほどの男が立っていた。


「それにしても、驚いたよ。勇者クロエだけでなく、共に戦っているそっちの勇者も相当な手練れとはね」

「そう思ったんなら、さっさと降参したら?」


 クロエは剣の切っ先を相手に向けつつ問い掛ける。出現の仕方から考えて、今回は幻影か何かだと断定していいだろう。


「いや、さすがにここまで事を起こして成果一つなしだと怒られる」

「帰ってあんたのリーダーにでも伝えなさい。私がいる限り、誰一人殺させやしない」


 男性は笑う。クロエの実力を認めた上で、それでもなお戦う意志を見せているのがわかる。


「……ま、出来合いの策じゃあ通用しないというのがわかったよ。それなら、こっちだってやり方を変えるさ」

「何?」

「町から南の森をさらに進むと、渓谷があるよね? そこには天然の洞窟がいくつも存在するわけだけど……その場所に森と同じような魔法陣を設置している。俺はそこで待ち構えているよ」

「行くと思っているの?」


 クロエが問う。すると男性はクスリと笑い、


「あなたは来るよ。その場所は俺達が実験で色々とやっている場所であり……生成する魔物の能力も、通常と比べて遥かに高い。それらがまたこの町を襲い掛かったら……どうなると思う?」


 ――国の軍隊であっても、あれだけの数の魔物が押し寄せれば苦戦するし犠牲者だって出るだろう。町に近づけなかったのは、あくまで俺やクロエが女神の武具を所持し規格外の力を手に入れていたからだ。

 今度はあれ以上の魔物が……もっともその数は先ほどより少ないかもしれない。しかし質で勝負された場合さらにどうなるかわからなくなる。生み出した魔物が俺達が想像するような能力を超えているとしたら、取り返しのつかないことになる可能性だって考えられる。


「なるほど、つまり自分の有利な場所で戦いたいというわけね。ずいぶんとまあ、チキン野郎なのね」


 クロエが告げると。男性はそれを認めるように頷いて見せた。


「そうだよ。さすがに魔族幹部を倒しているような人と、直接戦うわけにはいかないからね」

「ふん……だったら話が早いわ。首を洗って待っていなさい」


 その言葉に男性が笑みを見せる――あと一瞬で消えようとする時、さらにクロエから質問が飛んだ。


「そういえば、名前を聞いていなかったわね」

「名乗る程でもないよ」

「あっそ。それなら変態クズ野郎とでも命名しておくわ」

「……いやあ、さすがにそれは勘弁願いたいな」


 と、男性は苦笑。


「そうだね……よく仲間内ではエルと呼ばれている。もし本名が知りたければ、俺のいる所まで来るといいよ」

「あっそ。なら遠慮なく踏み込ませてもらうわ」


 宣言と同時、彼の姿がまるで霧のようにかき消える。それを見た俺は歎息し、同時にクロエが問う。


「で、あの変態クズ野郎をどうする?」


 おいおい……彼女の言葉に肩を少しコケさせつつ、返答。


「いや、さすがに罠である以上は……だけど、あいつを倒さない限りこの騒動が解決しそうな雰囲気はなさそうだな」

「じきに駐屯地から軍が来る以上、守りについては心配いらないし……敵がああやって誘って来てくれるのだから、決着はつけないとね」


 そうは言っても……クロエは知る由もないが、今回の戦いには神魔の力が関わっている。森での戦いは俺の能力でどうにか対処できたが、相手の本拠であるならばさらに厄介なこととなるだろう。

 加え、先ほどの変態……じゃなかった。エルにしても神魔の力を利用した技術や魔法を習得していたとしたら、それが未完成であってもクロエでは対処できない可能性がある。ここは俺が行くべきか……?


「クロエ、俺達はどう動けばいい?」

「セディはここに残ってもらえればいいわ。私達を誘い出す間に魔物を生み出し町を攻撃する可能性だって考えられる」


 もっともな意見。というより彼女としてはそれこそが一番の懸念と考えているだろう。

 俺もまたそれには同意なのだが……おそらく、俺かクロエのどちらかがこの町に残った方がいいだろう。


 で、彼女が行こうとしている。ここで「俺が行く」と言い出しても、例えば「渓谷の場所を知らないだろう」と返されたり、また「さっきの男性は自分に来いと言っている」と主張するだろう。相手のエルにしても俺が来ているのを確認したらどう動くかわからない。となればクロエに向かわせることが無難な回答と言えるのは間違いないのだが――


「セディ、これは私が招いた戦いである以上、最後まで責任は持つ」


 確固たる意志を含んだ言葉が、クロエの口から放たれた。


「だから、私に行かせて……もちろん危ないと思ったら引き返すし」


 ――逃げられるような状況になるのかどうかもわからない。とはいえ町の防衛のために動く必要だってある以上、ここはどうしようもないか。


「……わかった。ただしさすがに単独行動はまずい」

「わかっているわ。ニコラ!」

「うん」


 ニコラは首肯。彼女が同行するなら、引き際だってある程度見当が……いや、魔王城の戦いぶりを見れば不安が残る。ましてや今回の場合は彼女の故郷が脅かされている状況。魔王城との戦い以上に特攻しかねないような状況だろう。


 そうした不安を感じ取ったのか、クロエは肩をすくめてみせた。


「大丈夫よ。セディの方は町の方を守るように……頼むわよ」


 俺へと要求。こちらとしては頷く以外の選択肢はなかった。






 クロエ達が出発したのは、軍が到着してから。これで万全の状態だとクロエは思ったか、ニコラと共に町を出た。

 俺はナクウル達に指示を出しつつ、兵士達と話をしつつ警戒を行う。その途中でシアナと会話も行う。


「クロエ達だけど……大丈夫かな?」

「先ほど宿に戻りお姉様と連絡を行いました。もし危険なら、神側で援護してくれるそうです」


 ああ、そういう手があったか……俺も対処法としては納得。それと共にシアナはなおも続ける。


「不安がないわけではないですが、少なくともエルという人物を倒せなくとも勇者クロエ達は無事でしょう」

「そうだな……じゃあ俺達はこちらでできる限りのことをしよう」

「はい」


 返事と同時に動き出す。道中で俺は状況の整理を開始。

 ともかく、今回の敵であるエルを倒さないことには終わらない。だが彼を倒すことで間違いなく彼を動かしているテスアルド帝国そのものが動く可能性がある……この辺りの対処をどうするべきか。


 また、帝国の実験施設をどうするかも問題となる。神魔の力を相当なレベルで開発しているとしたら、天使や魔族でも手を焼く存在となるだろう。彼らをどうするか……それもまた、今後の課題で間違いなかった。


 今後は神魔の力を所持した敵が相手となる……どう転ぶかは正直見当がつかない。こちらは魔王や神々がいる以上負ける要素はないと思うけれど、彼らに有効な攻撃手段を所持しているのは厄介だ。


 まあ、対抗手段があるというだけで魔王や神々の力が揺らぐようなことはないとは思うけど……それに開発しているとはいっても勇者ラダンが所持していた神魔の力とは別物。杞憂だと思うのだが――


「セディさん」


 ふいに、呼び止められる。視線を転じると、ナクウルの姿があった。


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