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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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森の中

 森に入った直後、町の前で魔物を待ち構えていた時よりも深く濃密な魔力が肌にまとわりついた。

 魔法陣か何かを形成している可能性が高そうな雰囲気ある……それを探すのはそれほど難しくないだろうと思いつつ、森の中を突き進んでいく。


 途中魔物と遭遇し、剣で撃破。俺の存在に気付いた魔物は迷わず向かってくるのだが、全て返り討ち。クロエの援護にもなるし、倒していくのはいいだろう。

 そこで、正面から魔力。どうやら目的地が近い――そんなことを思った時、


「驚いた。あなたが率先して来るとはね」


 先ほどの男性の声――見れば、魔法陣と思しき淡い光を発する上に、男性が立っていた。


「さすがに勇者クロエが来ないと思っていたけど……というか、僕としては戦士団の誰かが来ると思っていた」

「さすがにそれは、見立てが甘いんじゃないか?」


 好都合――ここで目の前の人物を倒せば、万事解決する。とはいえ、目の前の存在が幻か人形である可能性は高い。

 俺はじっと目の前の相手を観察。魔法陣の魔力が存在するため魔力的に本物かどうかはわからないが……気配がまったくないわけじゃない。仕掛けてみる価値はありそうだ。


「そういえば、名前も聞いていなかったな」

「喋るような人間だと思う?」


 斜に構えて問う男性。まあ当然かなどと思いつつ、俺は剣に魔力を加える。


「できれば倒す相手の名前くらいは知りたいと思ったんだが」

「残念だね」

「そうか……まあいいさ!」


 声と共に仕掛ける。対する男性は一歩後退し、俺の攻撃をかわそうという動きを見せる。

 魔法陣に何か仕掛けが、という可能性は否定できなかったのだが――罠が発動したら瞬間的に対応できるよう心構えをしておく。


 だがそれは杞憂に終わった。魔法陣の上に踏み込んでも変化はなく、俺は容赦なく男性に剣戟を放った。


「それだけの動きをするということは、あなたは勇者クロエの付き人というわけではなさそうだ」


 しかし、彼の俊敏さが一歩上回った――いや、剣戟が到達しそうになった瞬間、彼の動きが一際速くなった。瞬間的に速度を上昇させ、かわした。その動きについては、俺も見覚えがあった。身体強化系魔法の一種だ。

 ただ俺やクロエのように恒常的に身体能力を上げるのとは違う。魔力を一気に体に加えることによって瞬間的に力を上昇させる――ただこれは俺がやるような身体強化とはやり方が大きく異なるもので、なおかつ魔法使いなんかが窮地に陥った時使うようなやり方だ。


 なおかつこの手法は魔力をずいぶんと消費する上、乱発すると体にもダメージが跳ね返ってくる……デメリットの多い技であり、魔法使いにとって戦士に迫られた時の最終手段というわけだ。


「おっと、そんなに怖い顔をしないでくれよ」


 男が言う。俺はその所作と一瞬の魔力噴出から少なくとも幻でないことはわかった。とはいえ操り人形で本人は別という可能性は十分ある。

 もし俺が敵の立場で町に押し寄せる魔物の動向を理解しているなら、ここで時間稼ぎをしてクロエの所に戻るのを遅らせようとするだろう……本物であれ偽物であれ、ここは目的を優先した方がよさそうだ。


 俺は相手が攻撃する気配がないことを察すると、剣を地面に振った。地面を薙ぎ、魔法陣を破壊しようとする――


「残念」


 だが、魔力を込めた刀身でも光は消えなかった。地面は抉れたが、魔法が起動しているためか効果がない。


「通用しないよ。この魔法陣は特別製だからね」


 ……となると、もしや神魔の力を応用したものか? こういう手法が開発されているということは、この力に関して相当研究が進んでいると考えていいだろう。

 となれば――俺は刀身に注ぐ力の入れ方を変えた。勇者ラダンから写し取った本物の神魔の力。それを利用する。


 剣を振る。次の瞬間俺は土以外の確かな手ごたえを感じた。


「……何?」


 男が呻く。同時に魔法陣に亀裂が入り、少しして魔力が途切れた。

 だが、まだ他から魔力を感じ取ることができる。魔法陣は一つではないらしい。


 すぐにそちらにも向かうべきか――思っていると、男が俺を阻むようにして立った。


「ずいぶんじゃないか……どういう手品で壊したんだ?」


 ――特別製と語った通り、魔法陣には自信があったのだろう。とはいえこちらが神魔の力そのものを把握していると感じられては厄介……ということで、


「単に、この魔法陣にあった魔力を真似ただけさ。そういうのが得意なんだよ」


 咄嗟にそう返答。直後、俺は走り出した。目標は魔力の存在する方向。

 対峙した人物は追随しなかった。もし追って来たら反撃する構えだったのだが――偽物で動けないのか、それとも本物で俺の魂胆がわかっているためか。


 ともかく、俺はさらに移動を重ね新たな魔法陣を発見。それを叩き壊すがまだ魔力が感じられる。森の中に充満している魔力はこれだけある魔法陣が原因だというのがここで確信した。


 できれば一気に破壊したところだが……俺は町の方が気に掛かり一度戻ることにした。草むらをものともせずひたすら走り森の外に出る。その途中男性がいた場所を一瞥したが、その姿は消えていた。


 森を出る。クロエは相変わらず魔物と切り結んでいたが、どうやら突破された形跡はない。なおかつ彼女の周囲には撃破されようとする魔物しかいない。

 よし、これなら――俺は再び森の中へ。さらに魔法陣を見つけ破壊を繰り返す。


 最初の魔法陣で遭遇した男はやはりいない。逃げたかやっぱり偽物だったかはわからないが……俺は、魔法陣破壊を優先し、ひたすら森の中を動き続けた。






 それから全ての魔法陣を破壊し戻ってくると、周囲を見回しているクロエがいた。俺は彼女に近づき、事の顛末を話す。


「魔物は魔法陣を形成したことによって生まれていた。それを破壊した結果、とりあえず出現しなくはなったみたいだな」

「の、ようね。それに他の場所から魔物が来たという連絡もないわ」

「なら、ひとまず終わりだな」

「そうね。けど……」


 クロエは疑問を抱いている様子。


「敵は、森の中に魔法陣を形成して、町を襲撃したことになるわよね?」

「そうだな」

「他の場所に作らなかったのが疑問だけど……」

「ずいぶんと目立つ魔法陣だったから、森のように視界が効かない場所じゃないと露見したからかもしれない」

「露見、ねえ」

「数的にも事前に準備していたと考えていいと思う。ただ男の口ぶりからすると今こうして起動させたのは予定外と考えてもいいだろう」

「今回私達がいる時に遭遇して、良かったと考えることもできるか」

「かもしれないな」


 もしナクウル達だけだったら対処しきれなかっただろう。クロエの軽率な行動から始まった戦いだったわけだが、結果としては彼女の言う通り良かったのかもしれない。


「状況はわかったわ。けれど、これで終わりなのかしら? 正直拍子抜けなのだけれど」


 彼女の顔には余裕がある。そう感じるのも無理はないが――


「クロエ一人なら、魔物が大群となって攻め込めば勝てると踏んだのかもしれない」

「ああ、なるほどね。けど、セディという予定外の人物がいたと」

「あくまで推測だけど……つまり、俺と連携したから楽に対処できたというわけ。ただ、これで終わりとは思えない」

「私も同感」


 この調子だとさらなる攻撃を仕掛けてくる可能性がある……それに対する備えをしないといけない。


「犯人を捕まえるまでは警戒モードは解かない方がいいだろうな……クロエ、これからどうする?」

「魔物の出現自体は止められたみたいだし、一度ニコラの所に行って状況を報告しましょうか」

「わかった」


 というわけで、俺とクロエはこの場を見張りに任せ一度町に入ることにした。

 魔物を倒した以上これで終わりであって欲しかったが、むしろここからが本番かもしれない……俺は心の中で思ったりした。


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