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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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205/428

商人への詰問

 現場に駆けつけると、道端に倒れている商人を発見。俺は思わず額に手を当てた。どういう経緯でこうなったのかよくわからないが、とりあえずクロエが「やらかした」ことだけは確定だ。


「……ああ、セディ」


 来たのを察し話を向ける。そこで俺はクロエに尋ねた。


「……経緯を説明してもらえないか?」

「先ほど聞いた商人を聞き込みの最中に発見して、少し話をしただけよ」


 倒れている人物は、俺達が探していたブルークという商人らしい。ただ現在の彼の姿を見て、話しただけとは到底思えないんだが……とはいえ頭を抱えていても仕方がない。


「話って言っても、彼はノビているけど」

「明らかに真面目に話そうとしないから、少し懲らしてただけじゃない」


 これが少しなのか一考の余地があるのだが……やめよう。話が進まない。

 とはいえ、ここには商人から剣を購入したナクウルもいる。さすがにこの場で話すのはまずいと思い、俺は別所で話そうと提案しようとした。だが、


「武器に関して変に誤魔化そうとしていたから、少しばかりお灸をすえただけよ」

「……は?」


 ナクウルが呟く。あ、これはまずい。


「ちょっと待て。武器?」

「ナクウル、あんたの持ってる剣」


 おいおいおいおい。いいのか? 話してしまって?


 いや、どっちにしろここまで喋ったのならもう隠すことはできないか……どうするか考えつつ、俺はクロエ達の会話を聞く。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺の剣がどうかしたのか?」

「その剣からは、ずいぶんと変な魔力を感じるのよ。ニコラもそう思うでしょ?」

「う、うん……」


 面と向かって話していい状況なのか判断つきかねているのか、ニコラは微妙な表情で頷いた。

 なんというか、彼女は本当に猪突猛進なんだとこの一事だけでもわかる……あらゆる予定が狂ってしまった。これはどうするべきか。


「……ふむ」


 シアナは一連の光景を見て口元に手を当て考えている。まずい状況になったという雰囲気ではない。というか「これはこれで仕方がない」といった感じか。動揺する暇があったら別の策を考える――そんなところか。


「お前……それはいくらなんでも」


 対するナクウルは反発する。返答としては当然だろう。俺達は「商人が武器を販売した」という情報だけしか入手していないのであって、気絶している商人が深く関与しているのかもわからないわけで、なおかつナクウルとしてはそういう経緯すら知らないので意見するのも当然だが――


「ナクウルは気付いていないかもしれないけれど、腰に差しているその剣は不気味な魔力を持っているのよ」


 クロエは硬質な口調で告げる。至極真面目に語っており、その言葉にナクウルも非難の言葉を止めた。


「どういう、ことだ?」

「詳細はわからない。けど、普通の武器とは違う……魔族や魔物に関与しているのかはわからないけれど、その武器自体が怪しいってこと」

「怪しい……」


 腰にある剣を見据え、ナクウルは考え込む。


「持っていると、危ないってことか?」

「そこまではわからないわ。というかその辺りのことを訊こうとしてふざけた返答をしていたからこの状況があるわけだけど」


 無茶苦茶だと思いつつ、俺は気絶する承認を眺める。仰向けでノビている人物は男性かつ中肉中背でさらに中年。ヒゲなんかは生えていないが皺もそれなりにあり、パッと見四十半ばくらいかなと見当をつける。


「う……」


 呻き声。やがて彼はゆっくりと目を開け、


「あ、起きた」


 クロエの呟きに、彼はすぐさま起き上がり彼女と距離を置いた。


「なんだ! 突然! 私が何をしたって言うんだ!?」


 怯えている……演技ではなく本物のような気がする。


「知らんの一点張りで話そうとしないから少し体に尋ねただけじゃない」


 クロエが言う。それに対し商人――ブルークは顔を大いにこわばらせた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 本当に知らないんだ! 私は単に仕入れた武器を――」

「私が最初に尋ねた直後、ずいぶんと意味ありげな視線を見せたじゃない。あれは誤魔化そうとする気だったってことじゃないの?」


 問い掛けにブルークは無言。ほう、何か知っている可能性があるのか。クロエはそれを目ざとく発見し、力技に出たと。

 彼女は間違いなく「喋らないともう一発ぶん殴る」と態度で警告している。やり方は強引極まりないが目の前の商人は何か隠しているような雰囲気。だからこそ彼女は行動に出たのだろう。


 まあ、どう足掻いてもクロエの行動は性急という結論に至ってしまうのだが……ともかく、


「正直に答えるのなら、私はこれ以上何もしないわ。けど、もし嘘をついたり誤魔化したりしたら――」

「わ、わかったよ! 話すよ!」


 とうとう観念したらしく、ブルークは言った。こうなると彼はナクウルに怪しい武器を売ったということになり――ナクウル自身、表情を硬くしていた。


「といっても、俺が言えるのはこの武器を仕入れた先だけだぞ?」

「どこで手に入れたのかわかれば殴り込みに行けるから、それでいいわよ」


 物騒な……ブルークも同じように考えたらしく頬を引きつらせ、


「か、勘弁してくれよ!」

「仕入れ先が無くなるってこと? それは相手次第だからどうとも言えないわね」


 かなりキツイ言動。俺は改めてクロエはトラブルメーカーなのだと認識しつつ、会話を聞く。


「ただ一つ疑問があるんだけど」

「な、何だ?」

「仕入れ先を言うだけなら最初の会話の時点で言ってもおかしくなかったはず。商売が成り立たなくなるとか、話せなかった理由はいくつもあるけど……あなたの場合、何か後ろ暗い理由があるような気がしてならないのよね」

「そ、それは……」


 図星らしい。少しずつ外堀を埋めていくように会話を進めており、このままクロエに任せておけばブルークから情報を聞き出せそうだった。

 まあ、ナクウルなどにもバレてしまった状況なのでこの展開が一概にいいとは言えないんだけど……。


「彼に……武器を販売する際、この剣についての詳細は話すなと、指示されていたんだよ」

「指示? それは誰?」

「仕入れ先……というより、この武器を提供した人間って言えばいいのか?」

「ナクウルに売った武器には、仕入れ先以外に別の人間が関与していると?」

「そ、そういうことだ」

「そいつは何者かわかる?」

「深くは詮索してねえよ……雰囲気が怖かったからな。けど、商売していてどういう人間かくらいある程度経験で推測できる。そいつは――」


 と、ブルークは身震いした。


「騎士……さすがにどこの手の者か紋章とかはなかったが、空気感としてはテスアルドの連中みたいな感じだった」

「なるほど、テスアルドね」


 クロエが険しい表情をした。


「あの国はこの周辺で小競り合いくらいのことはしているし……そういう人間からの武器だから、後ろめたくて言えなかったってところ?」

「そ、そうだよ。悪いがここだけの話にしてくれよ。近辺で商売できなくなっちまう」

「嘘を言っているようには見えないし、別にいいわよ……で、ナクウル」


 剣をなおも眺める彼にクロエは告げる。


「あくまで商人の推測だけど、テスアルド関係の武器である可能性が出てきたわね」

「あいつら、この町で何かするつもりで……?」

「そんなことまで考えているかどうかわからないけど、何か目的があって私達の国に武器を販売していると考えてもいいんじゃない?」


 この国出身でない俺からするとあまりピンと来ないのだが……領土拡大を推し進めるテスアルドに対していい感情は抱いていないのだろう。

 ともかくこれでエーレ達が調べた情報について、クロエもある程度入手した。これから先どうなるか――


「――ここに来て、正解だったようだ」


 直後、まったく聞き覚えのない声が耳に入った。


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