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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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騒動首謀者

『まず、武具に関してだが……大いなる真実を知るとある王族が、似たような武器を所有していた。訪れた商人から買い取った物で、武器庫に保管されていた』

「となると、無差別にバラまいているということか?」


 確認の問いに、エーレは頷いた。


『おそらくそうだ。加え、その犯人もわかった。名はイダット=ガルマン。勇者ラダンが潜伏していた砦で発見した資料の中に存在していた人物だ』

「イダット……」

『その人物は、現在勇者として活動している。だが、勇者クロエのように魔物に対し行動しているわけではない。当該の人物は戦争をメインに活動している、言わば人間相手の勇者だ』

「クロエとは対極に位置すると言ってもいいな」

『だろうな……さて、イダットが今回の件に関わっている詳細だが……奴はどうも勇者ラダンから手に入れた情報を、とある研究機関に横流ししたらしい』

「研究機関?」


 嫌な予感がするんだけど……言葉を待っていると、エーレは深刻そうな顔をした。


『この西部でも、特に大きい国……テスアルド帝国。そこの中枢とコネクションを彼は持っている』

「その場所で実験、か……」

『ああ。武器をバラまいているのは間違いなくテスアルド帝国主導の行動だ……勇者ラダンから力を貰った主だった勢力は全部で四つだが、霊術師や騎士団と比べ、こいつらの行動はずいぶんと密かに行われている。厄介さだけを見れば、トップクラスかもしれん』

「つまり、そいつらを倒せば武器の流通は止まるということでいいのか?」

『おそらくな……だが、テスアルド帝国潜入はジクレイト王国潜入と同等くらい面倒な話だ』


 エーレは肩をすくめた。彼女が語る以上、その難易度は相当なものだろう。


『ジクレイト王国と同等クラスの結界網が張られていることに加え……この国は、西部の中に存在する三つの例外の一つに含まれている』

「例外?」

「――大いなる真実を知る存在が、いないんです」


 エーレではなく、シアナが語り始めた。


「テスアルド帝国は、ここ十数年で急速に領土を拡大した国家です。西部全域を統一できるかどうかは不明ですが、それでも現状それができる可能性がある国を挙げるとするならば、この国が筆頭になるくらいの武力と国力があります」

「それと、大いなる真実を知る存在がいないというのは、何か理由が?」

『十数年という歳月が、新興国であるのはセディも理解できるだろう?』


 今度はエーレが発言。当然俺は頷く。


『そもそも、この国の建国者は勇者なのだ。そうした人物に真実を教えるわけにもいかず……手をこまねいている間に、これだけ国がでかくなってしまった』

「なるほどね……とすると、国側の協力を得ることもできない中で対処する必要があるってことか」

『そういうことになる……ちなみにセディ達がいる国と国境に面している。行くのはそう難しくないな』

「……エーレ、確認だけど」


 ここで俺は一つ質問。


「国境に面していると言ったな? もしかしてそういう武具は、国境に面している国々に対して流通しているのか?」

『流通規模がどの程度が調べなければ確定的なことは言えないが……確かに、隣国で出回っているケースが多いな』

「それ、実験目的という以外の役割もあるんじゃないか?」

『どういうことだ?』


 ――根拠は、ないに等しい。けど、俺は勇者としての勘というか、そういうもので尋ねてみる。


「今いるこの町に魔物が多く出現している……推測だが、もし出回っている神魔の力の剣が魔物を引き寄せる効果を持っているとしたら……」

『……隣国に多く流通しているのなら、その可能性は十分考えられる』


 エーレは険しい顔。俺の推測を聞いたことにより、さらに厄介な話だと思ったのかもしれない。


『やはり、この一件は相当根深いな……しかしよくよく考えれば、勇者ラダンは自身の目的のためにずいぶんと前から活動していたのだ。それを踏まえれば大がかりなことをしている人間がいても不思議ではないか』

「西部はラダンの活動によって、相当無茶苦茶になっているようだな」

『悲観的になる必要はない。対処のしようはある』


 励ますようにエーレは言う。俺が頷くと、彼女はなおも続けた。


『ではセディ、指示を与える。ひとまずセディが調べた当該の商人に対し接近し、可能な限り情報を収集すること』

「わかった……場合によっては帝国に入り研究施設の破壊、とかか?」

『現時点ではそこまで考えていない。だがどの程度研究が進んでいるのかなど、相手が神魔の力についてどこまで研究しているのかを知りたいな……その辺りをどうするかは今後の検討課題だな』

「わかった」

『ああ、それと……怪しまれないように頼むぞ」』

「わかってる……ちなみにだが、エーレ」

『どうした?』

「俺の存在は、イダットという勇者に認知されていると思うか?」

『……勇者ラダンから情報が漏れている可能性は否定できない。勇者ラダンは身を隠してはいるが、それとなく彼らにセディに関する情報を伝えている可能性はあるだろう』

「となると、商人と接触しても……いや、商人だって何も知らずに武器を販売している可能性もあるのか」

『さすがにイダット本人に情報がいっていたとしても、商人にまで警戒するよう言うことはないだろう。勇者ラダンが消えた時から今はそれほど経っていないし、商人はセディのことを警戒することはないはず』


 なら……俺はシアナと顔を見合わせる。彼女は頷き返し、


「それじゃあエーレ。これから行動を開始するよ」

『頼むぞ』


 会話が終了。そこで俺はシアナに声をかける。


「ひとまずブルークという商人が来たら情報を探ってみることか……ただ問題は」

「勇者クロエをどうするか、ですよね」


 初めて仕事をした時と同じように、本来の目的とは脱線しつつある状況。


「お姉様は、ひとまず保留にしておいてもいいとは仰っていましたよ」

「まあ、それしかないよな」


 今回の件がどれほど進展するかはわからないし、もう少し彼女の事を観察してもいいけれど……。


「お姉様としては、合格点だと仰っていましたが」

「合格、ねえ。まあいいや。その辺りの最終的な判断はひとまず置いておこう。とりあえずクロエ達は魔物の調査にあたっている。もし神魔の力を持つ武器と魔物が関係あるとしたら、厄介だ。対応策を決めておかないといけないかな」

「難しい所ですね。とはいえまだ小規模なレベルに留まっているため、町についてはそれほど心配しなくてもよさそうな気もしますが」

「そうかもな……魔物についてはクロエに任せて、俺達は商人を探ってみよう。まあ、来るかどうかもわからないけど」

「商人を待つより、テスアルド帝国へ先に行った方が早いかもしれませんね」


 そうは言うが、大いなる真実を知らない国相手に行動するのもリスクがある……いや、エーレ達はそのリスクよりもイダットとやらの所業を放置できないと考えているかもしれない。

 ともかく、基本方針としてはイダットの目論見を潰すということでいいだろう。それを行うにはどうするべきか……エーレの調査やこちらの情勢を見て判断するべきだろう。


「ひとまず、外に出ようか」

「はい」


 シアナと共に宿を出る。頭の中で今後のことについて色々と算段を立てつつ、ここに滞在している間に商人が来ればいいかなと考えた時、


「――セディさん!」


 俺を呼び掛ける声。そちらへ向くと、ナクウルの姿だった。

 何か慌てているようだが……こちらが話し掛ける前に、彼が口を開いた。


「すいません、突然。その、クロエについてなんですが」

「どうした? 何かあった?」


 問い掛けると、彼は頷き、


「クロエが……その、商人と揉めているんです。俺やニコラでは止められなくて、無粋なお願いですけど、セディさんに頼もうかと――」


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