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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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203/428

勇者の勘

 ナクウルは複雑な表情だったが、他の戦士団の面々は俺とクロエの戦いを見て驚いた感じだったが……そこでクロエが声を発した。


「そろそろ警備の時間じゃないの?」


 声に、ナクウルは思い出したかのようにはっとなり、戦士団に告げる。


「全員、仕事に戻ろう」


 ナクウルを除いた三人は指示を受け建物の中へ。そして残った彼だけは俺へ近づき、


「ご協力、ありがとうございました」

「ああ、いえ……また必要であれば、いつでも言ってください」

「はい」


 そしてナクウルはこの場を歩き去った。残った俺やクロエ達はしばし沈黙していたのだが、


「……ねえ、勇者セディ」

「何だ?」

「もしかしてそっちは、気付いている?」


 気付く――何を、と問い掛けるよりも先に、クロエが発言した。


「ナクウルの剣、明らかに普通の剣とは違うわよね? あれ、なんだか怪しいと思わない?」


 ――まさか彼女から水を向けられるとは。俺は驚き彼女を見返す。


「あくまで私の勘だけどね。武器としては強いのかもしれないけど、変な物掴まされたんじゃないかしら」


 ……鋭い。勘とは言っているが、彼女なりに経験から導き出した結論なのかもしれない。

 ふむ、ここは誤魔化してみてもいいと思うのだが……こうやって言い出している以上、放っておくと彼女自ら色々と行動する可能性は高そうだ。ならば――


「……確かに、ずいぶんとおかしな魔力を発する物だとは思っていた。けど、西部ではああした武器があるのかなと勝手に思い込んでいたんだが」

「黙っていたのはそのせいか。けど、あれは西部の私から見ても変な剣ね。少し調べてみようかしら」


 やっぱり動き出すらしい。そうなると、俺が言うべきことは一つしかない。彼女だけに調べさせるのはいくらなんでもまずいので、


「なら、俺も気になるし協力する」

「本当? なら、早速だけど調べよう。ニコラもいい?」

「うん」


 ニコラは多少顔を曇らせながら頷いた。クロエの言葉に不安を感じている様子。彼女が「怪しい」と言い出す場合、何かある――共に戦ってきた経験から、そんな風に思っているのだろう。

 かくして、俺達はナクウルの持つ剣について調査を開始したわけだが……まずクロエが向かったのは、町の武器屋。


 話によると武器屋はここ一軒しかないらしく、なおかつ商人達もここを通さないと武器を売れないらしい。となれば当然、情報を持っているはず。

 クロエを先頭にして入店すると、ひげの濃い男性店主が陽気な笑顔を浮かべ迎えてくれた。


「おお、クロエ! 昨日の酒は抜けているのか?」

「おかげさまで。ちょっと訊きたいことがあるのだけど、いい?」

「なんなりと。けど、武器とかを購入するなら都とかのほうがいいんじゃないのか? 俺が用意できる物なんてたかが知れてるぞ」

「残念だけど、今日は買いたいわけじゃないの。ほら、ナクウル達が持っている武器だけど」

「魔法剣のことか? あれについては俺も専門外なんだよ。ここを訪れた商人を紹介しただけだからな」


 頭をかきつつ店主は返答……確かに店内を見回してみれば、魔法剣らしき物は何もない。とはいえ品ぞろえはそこそこで、近くに駐屯地があるためその辺りに色々と武器を納めているのかもしれない。


「その商人というのは?」


 クロエが尋ねると、店主は腕を組み、


「うーん、戦士団に紹介した人は結構いたからなぁ……」

「ちなみに、そうした商人と会うことは難しい?」

「どうだろうな。近くを通りがかったら来るみたいな感じだからな……」


 その商人が根本的な原因なのか……クロエに視線を送ると口元に手を当て思考している様子だった。


「何かあったのか?」


 店主が訊く。するとクロエは店主と目を合わせ、


「ナクウルが持っている剣、あるでしょう?」

「ああ」

「ちょっと彼と訓練して、あれが結構特殊な剣だとわかったから、どういう出自なのか興味があったのよ」

「特殊、か……うーん、ちょっと待ってくれ」


 店主は唸り始めた。どうやら思い出そうとしているようだ。


「――あ、そうだ。思い出した」

「本当? どういった人?」

「ナクウルの剣は、よくここを訪ねる商人の一人が提供したんだ」

「その人の名前とかは?」

「ブルークという名前だったはずだ。一定の周期でこの町に来ていたはずで、時期からするとそれほど経たずして来ると思うんだが」

「もう来ているという可能性は?」

「ゼロじゃあないな……そこまでするのか?」

「ああいう武器に興味があるというだけよ。それに旅をしている商人なら、近い所にいる時に会わないと見つからないでしょう?」


 そんな感じで言い訳をして、クロエは店を出た。追随した俺とニコラはクロエが進むままにしばし任せていたが、


「……ひとまず、宿を調べましょう」

「いいけど、クロエが動くとなると目立たないか?」


 言及するとクロエは俺を見返した。


「確かにそうね……変に行動して怪しまれるのも……それに、私が色々動いているとナクウル達が知ったら、余計に話がこじれるかも」

「なら、ここは俺に任せてくれ」


 率先して言う。クロエはそれに驚いた様子で、


「いいの?」

「ああ……とはいっても何もしないのは落ち着かないだろ? 俺の方は魔物の出現について気になっていたから、代わりにそっちを調べてもらえないか?」

「魔物の?」


 聞き返した彼女に、俺は小さく頷いた。


「魔物の出現が多くなっているという点が少し気になった。そうした情報は町を良く知るクロエの方が効率いいかと思ってさ」

「確かにそうかもね……ふむ、問題が二つか」


 クロエは街並みを一度見回した後、ため息をついた。


「帰って来た直後は何も変わっていないと思ったけど……色々と問題はあるようね」

「みたいだな……ナクウルの件はこちらが少し調べてみるから」


 ――クロエを深く関わらせるかどうかは、一度シアナやエーレに訊いてみないとわからないので、とりあえず俺が主導で調べるということにしておいた方がいい。そういう判断だった。

 で、俺としては気になった魔物についてクロエが調べる……両者が関連しているとは思えないので二手に分かれるのが効率良いし、役割もベストなはずだ。


「わかったわ。私は少し魔物について調べてみる……最悪の状態になっては遅いし」

「ああ。こっちは何かわかったらすぐに連絡するよ……頃合いの時間で集合でもするか?」

「そうね……ならこの町は昼を越えて数時間経過したら鐘が鳴るの。それが鳴ったらあなたの宿に集合ということでどう?」

「ならそれで」


 約束し、クロエやニコラと別れた。一人になった俺は、まずシアナに一連の報告を行うべく歩き出す。

 宿に戻り、部屋に。するとそこにはシアナがいた。


「シアナ、どう?」

「お疲れ様です、セディ様。ある程度調査は済みました。少々厄介な問題のようです」


 シアナの言う厄介となると、結構大変かもしれない……考えつつ俺は、クロエについて話を始める。


「――というわけで、クロエについてもナクウルの剣に興味を持ったんだけど」

「そうですか。魔物の話で遠ざけたのは正解ですね。この案件についてどうするから話し合う必要がありますから」

「エーレとは相談しなかったのか?」

「セディ様が戻って来てから結論を決めるということにしていたので……まずはお姉様から話を聞くとしましょうか」

「わかった」


 シアナが準備を始める。勇者を見定めるのが目的だったはずなのに、結局騒動に足を突っ込む形となってしまった……なんだか宿命的なものを感じなくもない。

 やがて魔法によりエーレの姿が見える。どうやら玉座のようで、彼女は座り傍らにはファールンがいた。


『ご苦労だ、セディ。それでは話し合いを行おう』


 前置きの後、エーレは説明を始めた。


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