戦力分析
自己紹介を済ませた後、俺達は建物の外に出た。訓練ということなわけだが……ナクウル以外は変わった武器を所持しているようではないので、とりあえず技量を確認するような感じになるだろうか。
まあ戦士団としてこれからも活動していく以上、能力を判断してもいいだろう……もしナクウルの持つ剣を調べる際、騒動が起きないとも限らない。できる限りのフォローはエーレ達もするはずだが、手数が足りない場合彼らにも協力してもらう可能性はありそうだし。
「では、始めさせてもらっても?」
「ああ」
ナクウルの言葉に俺は返事し、剣を抜く。その所作を見てナクウルを含めた戦士達は少々驚いた様子。
何気なく抜いたはずなんだけど……俺の持っている名声なんかを思い出し、堂に入るような感じに見えたのかもしれない。
「それじゃあ、俺から」
そこで手を上げたのはホンク。剣を抜き、俺と真正面から相対する。
気配的には、言う程のものではない……って、当然か。俺の基本魔族とか勇者ラダンのような猛者を基準に見ているので感覚がマヒしているが、彼らのような戦士がむしろ普通なのだ。思い直し、呼吸を整え待ち構える。
「どうぞ」
俺はあくまで受けるつもりで告げると、ホンクは走り出した。小太りの戦士だが動きはそれほど悪くない。ただ踏込の仕方は熟練の戦士なら虚を衝いて間合いを乱すことのできるくらいではあった。
まず一撃俺とホンクは衝突する。剣の威力も魔物を倒すには十分だとは思う……こういう真正面からの激突はどれだけ剣術を学んできたかおのずと理解できる――いくら魔力が高いといってもそれを扱う技量がともわなければ意味がない。料理に例えれば魔力は材料、剣術などは道具とでも言うべきもので、さらにそれらが優れていてもきちんとした使い方を体に覚え込ませなければならない。
彼らの場合はどうだろうか。ここから二度三度打ち合ってみるが、俺のように明確な師を持って訓練したという風には見えない。基礎的な部分はおそらく騎士のような剣術を習得している人物なのは間違いない。ただ攻撃の際重心移動などが甘く、あくまで剣術を教わっただけで使いこなせていないというのはなんとなく理解できた。
ただまあ、魔物と戦う場合はこれでもいいとは思うが……考える間にホンクは引き下がった。剣の感触からまったく当てられないと推測したのかもしれない。
「さすが、ですね」
横にいるナクウルが声を上げる。単純なやり取りではあったが、こちらの技量についてある程度把握できたらしい。
そこから俺は言われるがままにマルセラとガロとも剣を交わす。技量的にはホンクとそれほど変わらない。全員が横並びといった感じであり……おそらくこの場にいない戦士も似たようなものだろう。
武器についてはやはりナクウルのような一品ではなく、あくまで普通の魔法剣の範疇を超えていない。例えば剣の実験をするというのならば他の戦士団にも与えるような気がするのだが……いや、こうした戦士団に大量に販売できるとしたら、既に戦地などで活用されていてもおかしくない。そうであったならばエーレ達が調べ始めた段階でおかしいことに気付くだろう。となれば、量産というのはまだできていないということなのか。
それとも、何か他に目的があるのか……考えていると、戦士達は一度ナクウルの所に集合した。
で、何やら話を始める……作戦会議というわけではないだろう。俺と戦ってみて、色々意見交換している様子。
「……どうです?」
その間に俺の所にはニコラが近寄ってくる。
「セディ様から見て、技量的には――」
「魔物相手ならば十分だと思うよ。魔族と渡り合っている人と比べればさすがに見劣りはするけど……魔物は基本人間を見つけたらまっすぐ突撃するようなケースも多いから、ある程度受け流す術を持っている彼らは大丈夫だろう」
そこで俺はニコラに目を向ける。
「そっちも、こういう感じの見立てじゃないのか?」
「……正直、魔力の多寡はわかりますけど剣術の方はまったく……」
ああ、それもそうか。俺はそれ以上語ることはせずナクウル達に視線を戻すと――こちらを見ていた。
「どう、でしたか?」
「良いと思いますよ」
ナクウルの質問にそう返答すると、彼らは「ありがとうございます」と礼を述べ、
「では、次に私が」
と、今度はナクウルが前に出た。
よし、ナクウルの力をある程度計ることができる……俺は「いいですよ」と返答した後、真正面から対峙。彼も剣を抜き――正面から対峙すると、その剣の気配が特殊であることが改めて理解できる。
とはいえ、ナクウル自身に神魔の力が宿っているわけではないので、強烈なインパクトがあるわけではないのだが……沈黙しているとナクウルは短く「いきます」と告げ、駆け出した。
それと共に刀身から魔力が発せられる。やはり感じられるのは神魔の力。とはいえこれを感じたことのない――というより直に勇者ラダンの力を感じていない人からすると、少し特殊な武器という程度の認識のはず。
俺はまずナクウルの剣を真正面から受けた。すると先ほどまでの三人と比べてずいぶんと重い感触。やはり戦士団団長ということで一味違う。しかし、俺のような勇者の範疇には至っていないような――
瞬間、刀身に生じていた魔力がさらに増える。どうやら力で押そうと言う魂胆のようだ。俺の実力をある程度理解したなら、こうした戦法が通用するとは思わないはずだが――訓練だからどの程度通用するのか、という意図があるのだと俺は解釈した。
感触としては、魔力強化を施した俺なら易々と受けられる……神魔の力を用いても魔力強化面は身体強化の魔法と変わりない。結局の所、使用者がどう扱うか、という話なのだろう。
それに、どれだけ強力な武器であっても所持している人物が並の戦士であるとしたらある意味当然なのかもしれないが。
「ふっ!」
俺はナクウルを押し返す。相手の彼は僅かながら苦しそうな表情を見せた後、後退した。
「さすがに、無茶だったようですね」
一度打ち合っただけの結果、彼の感想……全力かどうかはわからないが、先ほどの行動で力押しは通用しないと判断しただろう。
さて、ここからどう動く……俺が待ち構えていると、
「――なんだか、面白そうなことをしているわね」
途端、ナクウルが肩を震わせた。俺はそちらに首を向ける――
とある道から、武装したクロエがこちらへ向かって歩いていた。
「私もできれば混ぜて欲しいんだけれど」
「……クロエ」
ナクウルが呻く。態度からあんまりこうした場所には来てほしくなかったのだろうか。
「ま、ちょっとだけだよ。訓練の成果を見せてもらいたいというわけ」
と、彼女は俺へと目を向ける。
「変わってもらえる?」
「……ああ」
断る理由もなかったので引き下がる。そこで俺はニコラがまずい、という顔をしているのが目に入った。
「……どうした?」
「見ていればわかります」
引き合わせるのはまずかったということなのか? 疑問に思っている間にクロエは腰の剣を抜いた。そして、
「さあて、どれだけ強くなったか見せてもらおうじゃない」
「……あ、ああ」
たじろぐナクウル。俺の時はそれこそ胸を借りて――という感じだったのだが彼女と対峙して一片、ずいぶんと動揺している。
「何かあるのか?」
クロエに対し色々と感情を持っている、というだけでは説明のつかない雰囲気。なのでニコラに質問してみると、苦笑を伴い答えが返ってきた。
「……見ていればわかります」
先ほどと同じ言葉。どういう――さらに尋ねようとした矢先、クロエ達の戦いが始まった。




