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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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異常な事

 月明かりに照らされたナクウルの剣は、ずいぶんと特徴的なものだった。

 まず、目を見張るのが青い刀身。空のように水色であり、なんだか不思議な魔力をまとっている。確かに普通の魔法剣とは違うようだ。

 また、柄の部分などもそこそこ装飾が成されており、町の戦士団が持つ物にしてはずいぶんと高級そうな一品だった。


「切れ味はかなりよく、なおかつ剣を持つ人間に多少ながら身体強化を施す効果がある剣です」


 へえ、それは……商人は戦士団に期待でもして、身体能力を高めるような剣を渡したというわけか。うん、魔物相手にするのであれば強力そうだ。

 その時、森から僅かだが魔物の唸り声が聞こえた。人間が近づいてきたのを察知したか、警戒し始めたらしい。


「では、行きましょうか」

「ああ」


 俺もまた剣を抜き、ナクウルと共に森へと近づく。

 やがて俺達は街道を逸れ森へと足を踏み入れる。先ほどのような唸り声は聞こえないが、ここにきて魔物の気配ははっきりと感じられた。


「セディさん、明かりよろしいですか? さすがに暗闇では対処できませんし」

「ああ。ただし魔物が飛び掛かってこないか注意してくれ」

「はい」


 返事をした後、彼は左手を振る。よくよく見ると彼の左手首には銀のブレスレットが一つ。そこから白い光が生み出され、俺達の周囲を照らした。

 刹那、こちらを見つけたらしく魔物の声が聞こえた。吠えるのとは少し違う、様子を見つつ威嚇するような唸り。


 気配の方向は真正面から……ナクウルもそれを察したらしく、進行方向を見据え剣を構えた。


「ここは、私に」


 彼が言う。俺も同行したが、やはり町の事なので自分が……ということだろう。


「……唸り声は一つだけだが、その周囲に他の魔物もいるだろう。気を付けた方がいい」

「はい」


 彼は頷きつつ、ジリジリと魔物に近づいていく。彼が握る空色の刀身を持つ剣は、白い光に照らされキラキラと輝いている。それに誘われたかどうかはわからないが、真正面に存在する魔物が近づいてくるのがわかる。

 正面衝突までそう長くはないだろう……ナクウルはどうも真正面から相対する気のようだが、大丈夫だろうか?


 あの剣を用いて戦うこと自体はきっと経験があるはず。身体強化で正面からでも大丈夫だと判断しているのだろうけど……思考する間に魔物が近づいてくる。俺達の気配――いや、この場合はナクウルが握る剣の魔力にでも引きつけられたのかもしれない。

 同時、魔物の後方からも気配があるのを察知。数体という報告は正しかったというわけだ。二体か、それとも三体か……危なくなったら援護に入ることにしよう。


 考えている間に、魔物が動いた。ナクウルは迎え撃つつもりのようで、剣をしっかりと構える。

 この辺りは、戦闘経験が浅い感じがある……まあ俺の基準は魔族と戦い続けてきた経験から考えたものなので、普通に魔物を相手にするなら十分な技量だと思うが――


 魔物の体当たりを、茂みで足を取られる中ナクウルは右に動き避けた。同時、剣から魔力が生じる。

 ナクウルが体の奥から発した魔力とは違うだろう。となると剣の力のようだが――その時、俺は背筋がゾクリとなった。


 剣の魔力が凄まじかったというわけではない……それは、以前感じたことがあるような、特殊な魔力。


 ――神魔の力。


「そんな……」


 俺は驚き思わず口にする。だがナクウルには聞こえなかったのか、そのまま交戦を続ける。

 魔物の横から剣を薙ぐ。しっかりと一撃は魔物の横っ腹に入り、魔物は雄叫びを上げた。斬撃は魔物に致命的なダメージを与えたようで、動かなくなった。


 同時、もう一体が迫ってくる。気配的にその後方にはいないようで、合計二体。一方は斬撃を受けもう動かないが――果たして。

 ナクウルがさらに剣の力を引き出す。よくよく感じれば、ラダンが使っていた力とは違う……いや、表面部分はそれに近いものだったが、その奥に感じられる性質は別物だと言ってよく、なおかつどこか粗い。


 おそらく、神魔の力を表層だけ真似た偽物……そう結論付ける間に、ナクウルは二体目へ斬りかかる。この時点で一体目は既に形が消失し始めた。二体目も同じような猪突猛進であったため、この時点で勝負はついたと俺は考えることができた。


 だからこそ、俺はナクウルの剣をしかと見据える……手にしていた武器が神魔の力を秘めた物だとすると……戦士団の目的はあくまで自衛。ならば故意にこんな武器を手に入れたとは思えない。商人から購入した物なので、その商人が何かしら神魔の力を所持している面々と関わりがあるのか……それとも、知らずして剣を売っているのか。


 ここに来てまた問題が発生したと思いつつ、俺はナクウルが二体目を倒したのをこの目で確認する。周囲から魔物の気配は消え、平穏な夜が訪れる。


「……これで、終わりですね」


 ナクウルは嬉しそうに告げる。そして剣を鞘にしまうと、その刀身に存在していた魔力も消えた。


「何はともあれ、宴に影響なかったのは幸いです」

「……そうだな」


 俺は頷き、戻るべく来た道へ足を向ける。ナクウルもまた歩き出し、俺達は町へ戻ることとなった。






 帰って来ても当然ながら宴は続いている……ナクウルは「ありがとうございます」と礼を述べ俺から離れた。こちらとしては何もしていないんだけど……まあいいか。

 ともかく、報告をしなければならない。俺はシアナを探すべく歩き出そうとして、


「こちらです」


 彼女の声。横に目をやると、彼女が立っていた。


「魔物がいた方面の気配を探っていたのですが……」

「……わかったか?」

「はい。セディ様のそれと比べて力は大きく劣っているようですが……神魔の力のようですね」

「さっきの戦士……ナクウルの持っていた剣に、その力が存在していた」

「商人、ですか。ナクウルという方は、単に購入しただけですか?」

「話を聞く上ではそんな感じだ」


 互いに深刻な顔をしているのは、傍から見ると奇異に映るかもしれない……そう考えた俺は、場所を移すことを提案する。


「宿で話をしないか?」

「構いません。さすがにここではまずそうですからね」


 というわけで移動。程なくして宿に到達し、泊まる部屋に入った後話し合いを始めた。


「まず、ナクウルという人物は?」

「クロエの幼馴染……かつ、彼女が語っていた『風の戦士団』の団長だ」

「彼以外にも同じような武器を持っているのかはわかりませんが、少なくともああした剣が一本以上はあるということですか……こうなると、見方も変わってきます」

「あの剣、どういう意味でここにあると思う?」


 商人がああした剣の力を推し量るためバラまいているという可能性もある。一方、神魔の力を感じるとはいえ、何か別の技術に転用されて広く流通しているとか、そういう可能性だってゼロではない。


 けど……俺としては、単純な理由でここにあるとは思えなかった。沈黙していると、シアナが言った。


「ふむ、他に似たようなケースがあるのか少し調べないといけないでしょう。お姉様に連絡して調査するよう頼みます。私もそちらについて調べようかと思います」

「ああ、わかった。というよりそうした方がいいだろうな」

「もし密かにああした武具が売買されているのだとしたら、その大元を叩く必要があるでしょうね」

「……勇者ラダンの砦で見つけた資料の、大きな勢力の一つだろうか」

「広範囲にわたって武具が存在していたのなら、その可能性は極めて高いかと」


 勇者クロエに関する調査だけだと思っていたが、どうやら勇者ラダンとの戦いに関連する件になりそうだ……大変だが、やるしかないな。


「わかった。それじゃあシアナ……頼んだ」

「はい。セディ様は調査が終わるまでクロエさんの方に集中してください」

「そうさせてもらうよ」


 明日から、調査を再開することにしよう……そう頭の中で決め、長い一日が終わった。


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