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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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宴の途中で

 近づいてきた男性は、中肉中背の茶髪の剣士。優男、という風貌で正直剣の腕は良さそうには見えない……が、不思議と存在感はある。


「勇者セディ様」

「……様付けは勘弁してほしいな」

「そうですか、では勇者セディ……クロエをここまで連れてきて頂き、ありがとうございます」

「俺は何もしていないけど……そちらは?」

「あ、はい。申し遅れました」


 姿勢正しく礼を示し、彼は告げる。


「私はこのオールゾで戦士団を率いている、ナクウル=フロンバーと申します」

「率いているということは、団長さんか……クロエとの関係は?」

「幼馴染です」


 俺とミリーのような間柄かな……俺が「どうも」と答えると、彼はどこか申し訳なさそうに、


「……大変だったでしょう?」

「性格は、元からのようだな」


 ラッキーだ。これはクロエのことに関して色々聞くことができる……内心喜びつつ、会話を進めることにする。


「えっと、彼女についていくつか訊きたいんだけど……いいかな?」

「どうぞ」

「まず、クロエのご両親とかは健在みたいだけど……何か、魔物や魔族について憎んでいるとか……そういう話はないのか?」

「……恨み、ですか?」

「ほら、噂で聞いているはずだけど……彼女は功績を上げているわけだが、結構無茶もやっている。そうした猪突猛進な部分は、何かあったからかなと適当に推測していたし、気になっていたんだけど」

「いえ、そういうことはありませんでしたよ」


 とすると、特別負の感情があるわけではないらしい。


「なんというか……俺も再会してまったく変わっていないクロエに驚くくらいですよ」

「昔と変わらないと」

「はい。まったく裏表のない性格で……きっとクロエは、物語の中にいる伝説の勇者に憧れて勇者となり……その延長線上で、今まで戦ってきたのかもしれません」


 ……ずいぶんと、変わり者だと思った。勇者であるなら、俺のように魔族などに対し恨みを持っているなど、内心複雑な感情を抱えている人間も多い。だが、彼女にはそれがなさそうな雰囲気。むしろ何もないということ自体、変わっていると言ってもいい。

 加え、彼女は魔族や魔物専門に戦っている……特に戦乱が生じている西部では、非常に稀有な勇者と言えるかもしれない。まあ、だからこそ魔王城に踏み込んだと言えるか……そもそも、変わり者でなければ二人で魔王城に踏み込んだりはしないか。


「なるほど、話してくれてありがとう」

「いえ、他にご質問は?」

「そうだな……ああ、このプロジオン王国の現状についてとか聞いてもいい? クロエなんかに聞いても要領を得ない回答だったから」

「構いませんよ。といっても、さして特徴のある国というわけではありません。西部の中で戦争も少なく、比較的穏やかな国です。主要産業が農業である上、戦略的な価値もほとんどないので、侵攻されるなんてこともありませんでした」

「へえ、そうなのか」


 戦乱吹き荒れる場所と言えど、国ごとに差があるといった感じか……考えていると、今度はナクウルが質問をしてきた。


「東部の方は、どうですか?」

「……人間同士の戦いはないけどな」


 色々ある、という感じのニュアンスで俺は応じる。簡単に実情を説明すると、ナクウルは興味深く聞いていた。


 それから少しして、俺は戦士団について言及した。


「ところで、実はクロエから戦士団については聞かされていたんだけど……現状、戦士団として魔物なんかに対応できているのかい?」

「成果としては、上がっています。現状町周辺の治安は私達が維持しているという感じです」

「そうなのか……ちなみに、国の正規兵は?」

「もちろんいますが、今は私達が主軸となって動いている感じでしょうか……兵士達は少数なので仕方のない面もありますけど」


 力関係で戦士団が上をいっているのなら、そういう状況も仕方がないかもしれないな……考えていると、さらにナクウルは言及する。


「戦士団は、経験なども蓄積してきて現在ではこの周辺で仕事をする商人達からも支持を受けるような状況にもなっています」

「なるほど……」


 魔物相手なら敵なしといったところなのだろう。クロエが在籍していた時と比べてどれほどのものか判然としないが、現在はそこそこの戦力を持っていると考えてよさそうだった。

 こんな調子で俺はナクウルと質疑を繰り返す――まだまだ宴は終わる気配を見せず、これからさらにもう一盛り上がりしそうな気配さえ漂わせた頃、ナクウルに近づく男性が一人。


「団長」


 一般的な服装だが、どうやら団員らしい。その声はやや深刻なものであったため、何かあったのだと予想できる。


「どうした? 泥棒か何かか?」

「いえ、その辺りは問題ないのですが……町の郊外に、魔物が数体出現しているの話が」

「魔物か……」


 ナクウルは周囲を見回す。まだまだ宴が続きそうな気配の中、魔物が出現したと言えば水を差してしまう。彼自身、それはよくないと考えているのだろう。


「南の森に出現したと見張りの人間が報告しています。もっとも、夜でも人のいる町に踏み込むようなことはなかったのはご周知の通りなので、たぶん大丈夫だと思いますが……」

「今日は相当騒いでいるからね。魔物がおかしな行動をしないとも限らないな」


 ナクウルは呟くと、静かに立ち上がった。


「わかった。俺が行こう」

「すみません」

「魔物数体くらいなら一人でも問題ない。他の団員には言わなくてもいいよ」

「わかりました」


 ふむ、一人で行く気なのか……とすると、俺が取るべき行動は、


「手伝うよ」

「え?」

「クロエが聞けば我先にと突撃しそうな気配だけど……ああまで町の人と騒いでいる以上、水を差したくはないし」

「良いのですか?」

「ああ。それに、こういう時こそ勇者の出番だと思うし」


 その言葉に、ナクウルはちょっと沈黙する。感嘆、といった感じだろうか。


「……ありがとうございます」


 ナクウルは礼を述べ、俺達は町の外に出るべく歩き出す。途中、俺はシアナを発見し事情を伝え、もし何かあったら町の人を守るよう伝えておく。

 そして俺とナクウルは町の入口へ。俺達がこの町を訪れたのは東の入口で平原が広がっていたのだが、南は真正面に森が存在している。街道は、森に突き当たると沿うようにして進んでいる。


 幸い今日は月明かりもそれなりにあり、視界に困らない。俺達は見張りの報告を聞いた後、輪郭が見える街道を森へと進み始めた。


「夜にも魔物が頻発しているのか?」


 なんとなく問い掛けてみると、ナクウルは小さく頷いた。


「最近ですけど……何が原因なのかはっきりしません。魔族の侵攻があるのではという推測なんかはあります」


 ふむ、それがこの町の抱える問題といったところなのか……とはいえ、魔物が頻出しているというのはあまり穏やかではない。俺は確認を込めて尋ねることにする。


「大丈夫なのか?」

「今の所駆除できているので……それに、魔物が町まで来ることもなく被害も出ていないので、多少警戒しているというくらいです」


 うーん、何かの予兆じゃなければいいんだけど……不安を抱いていると、ナクウルはこちらが何を言いたいのか理解したらしく、俺を安心させるべく笑みを浮かべた。


「仰りたいことは理解できますが……我々戦士団も魔物の出現に応じ戦力強化も行っていますので」

「戦力強化……魔法具とかの取得?」

「ええ。西部は戦乱が続いているため武具を売りまわる商人なんかも結構多い……そういう方々から剣を買い、個々の戦力を強化しているのです」


 強化か……そこでナクウルが腰に差す剣を見た。


「それも?」

「はい。これは結構大枚はたいて購入した物となります。高いかなとも思ったのですが、防衛するためには必要だろうということで、団長である私が使うことになりました」


 そう告げて、彼は剣を抜き放った。


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