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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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女勇者の故郷

 その後、俺達は予定通りにクロエ達の郷里に辿り着いた。農村地帯ではあるのだが、そこそこの規模の町も見える。クロエは片田舎などと言っていたが、俺の郷里と比べれば相当都会だ。


「そういえば、町の名前を聞いていなかったな」

「オールゾよ」


 こちらの言葉にクロエは答え、先んじて歩み出す。それにニコラが続き、俺とシアナは後方で追従。

 向かっていくその姿は凱旋……という風にも見えなくもなかった。もっとも周囲に人がいないためあまり様になっていないけど。


「そういえばクロエ、家は?」


 根無し草である以上、彼女自身が保有する家なんてないと推察できるが……少し間を置いて、答えが返ってきた。


「両親の家が町の中にあるけど……放蕩娘だからね。勇者になることも反対していたくらいだから、帰っても迎えてくれなさそう」

「……名は通っていて有名なんだろ? 鼻高々じゃないのか?」

「どうなのかな」


 淡泊な答え。何か理由があるのかと思ったが……感じられる雰囲気は、ちょっとばかり硬い。


 彼女自身、おそらく勇者として名が売れて初めて帰郷するのだろう。俺もそうだったが、名が色んな人達に知れて戻る時は、どういう反応を示すのかドキドキしたものだ。ちなみに俺の場合はカレンが事前に根回ししてあったためか、相当な歓迎が待っていた。まあそれがなかったとしても、きっと歓迎されていただろうけど。

 クロエはきっと、緊張の真っただ中にあるのだと思う。俺としてはそんなに気にしなくても大丈夫だろうと思いつつも、なんとなく声をかけ難い雰囲気からそれ以上言及することはなかった。


 そして――町の前に到着。


「……さて、まずは戦士団に会うべきかしら」


 クロエは呟く。町の入口近くには行商人らしき人物が馬車で移動する姿などを始め、旅人も見える。話によると都や地方都市の中継路となっているらしく、宿場町というわけではないが、そこそこ人の往来はあるらしい。

 で、クロエは入口付近で立ち止まって動かない。少し経っても止まったままなので、さすがにここは声を掛けようとかと思った。しかし、


「……あれ?」


 前からではなく、後方から声が聞こえた。ちょっとだけクロエは肩を震わせた後、振り向く。

 俺もまた確認。そこには、この町の人間らしき男性が一人、クワを肩に携え立っていた。農作業の帰りだろうか。


「……クロエ」

「お久しぶりです」


 ニコラが挨拶。どうやら知り合いらしい。


「や、やあ、久しぶりね」


 そしてクロエも手を上げ告げる。しかし、緊張はまったく抜けていない。


「い、いやあ……あれよ。ちょっと近くを通りがかったから、色々と様子を見に来たってわけだけど」


 そこまでクロエが言った時、男性は俯いて肩を震わせた。


「……お」


 ん、どうした? クロエやニコラも俺と同じように不審に思ったか、男性に問い掛けようとした。だが、


「お……おおおおおおっ!」


 次に発せられたのが場違いなくらい大音量の雄叫びであったため、俺を含めた四人全員ビクリとなった。

 そして男性は突如走り出す。何事かとクロエとニコラが視線を合わせた時、


「クロエと……クロエとニコラが帰って来たぞおおおぉ!」


 町全体に響き渡らせるような大音量。それと共に、通りに広がる店先から様々な人が外に出てくる。

 シアナですら目を丸くする中で、俺は心の中でこれは大丈夫そうだと確信。同時、外に出た町人達がクロエとニコラを見つけ、怒涛の如く押し寄せてくる。


 そしてなおかつ、クロエ達を称えるような歓声――クロエ達は最初呆然としていたのだが、自分達の活躍が知れ渡っていると認識すると、ちょっとばかり顔を赤くしつつ喜び始めた。


「……大丈夫そうですね」


 シアナが俺の隣に立って言う。ちなみにこちらは完全に蚊帳の外……まあ部外者なので当然か。


「人間達と戦っているなら、こうまでならなかったとは思う」


 俺はクロエ達を見ながらそう発言。するとシアナは首を傾げた。


「どういうことですか?」

「例えば人間同士の戦争に勇者として参加したとか……そういうことであれば、反発を持つ人が出たかもしれない。けど彼女の場合は魔族……つまり、俺達人間にとって絶対悪の存在とだけ戦ってきた人間だ。人に恨まれるようなことをしていない以上、こうなってもおかしくなかったってことだよ」

「なるほど……確かに人間同士の戦争で剣を振っていたのなら、憎む人がいてもおかしくないですしね」

「まあもちろん、彼女は国……この国のために戦っている以上、そうであっても歓迎はされていたと思うけど……ともかく、二人の功績はしっかりと町の人に届いていたというわけだ」


 歓声が上がる中で、クロエとニコラ達は満面の笑みを浮かべる。今までの戦いが報われた……もちろんこうやって出迎えられるように戦ってきたわけではないだろう。けれど自分達の戦いの功績がこうやって目に見える形で現れたわけだから、嬉しくて当然だ。


「――クロエ!」


 そこで、また新たな声。見ると、人波をかき分けて近づく年配の女性。

 なんとなくクロエに似ている気が……母親か。


「か、母さん……」


 ちょっと狼狽えるクロエ。怒られるとか思っているのかもしれないが……俺には次の展開が予想できた。

 動揺するクロエを他所に、母親が近づいていく。そして、


 彼女はクロエと対面すると、娘を思いっきり抱きしめた。


「良く帰って来たわね……嬉しいわ」


 歓声。さらにニコラが「良かったね」と声を掛けると、クロエは小さく頷いた。


 周りが「今日は宴」だと色々言う間に、町の人間達はそうした準備でも始めるのか散らばり始める。どうやら今日は町を上げての大騒ぎになるらしい……そして俺達は完全に無視されている状況だが、まあ後でクロエ達にどうすればいいか話をして――


「……ところで、後ろの二人は?」


 誰かが俺とシアナのことに言及した。するとクロエはこちらに振り返り、


「そうね……彼もまた勇者。しかも、東部で名の知れたセディ=フェリウスという――」


 おおお、と()き立つ声。ふむ、この辺りにも名前は伝わっているらしい……ちょっと嬉しい。


「セディ、町に歓迎するわ。今日は楽しんで」

「……なら、遠慮なく」


 俺が返事をすると、今度はこちらに向かってくる人の姿も。シアナはこういう状況にあんまり慣れていないせいかちょっと緊張してはいるが、俺は「行こう」と彼女に告げ、歩き出す。

 間違いなく盛大な宴になるだろう。俺は興奮する人々を見つつ、シアナと共に町へ入る事となった。






 その夜は、まさしくクロエ達を主役として大いに盛り上がった。


 収穫祭でもここまで盛大にやらないだろうというくらいの、町の中央で行われる大規模な宴。主役のクロエやニコラは多くの人に囲まれて見知った人達と会話を重ねている。

 なおかつ俺達もそのおこぼれに預かる形……しかも宿なんかが解放されたらしく、この町を偶然立ち寄った旅人や商人も、宴に参加することになった。


「ずいぶんと、盛大ですね……」


 シアナが皿に取ったローストビーフを口に入れつつ告げる。俺は頷きつつ、一つの推測を口にした。


「もしかすると、帰って来た時こうやって宴をするべく準備していたんじゃないかな」

「え、そうですか?」

「じゃなければ、ここまですぐに……なおかつこれほど豪勢にやれないだろうし」


 そんなことを呟いていた時、俺の事を見据える人物を発見。男性だったのだが、偶然目が合い、彼は近寄ってくる。

 見た目、革鎧に腰に剣という出で立ちであり……俺はなんとなく予想がついた。


 おそらく、クロエの語っていた戦士団の団員だ。


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