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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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戦う理由

 結論から言えば、クロエ達は翌日には宿を出て出発することになった。


「いいのか? 本当に?」

「郷里に帰ると決めたのだから、さっさと帰るに限るわよ」


 クロエは俺の質問にそう返答する――検査だって起きたその日に色々と調べ、翌日異常がないとの結果が出たことで町を離れる決心がついた様子。

 その行動の早さは、ちょっと驚くくらいで……というか従者のニコラについてはまだ疲労が抜けきっていないのか、ちょっと疲れた顔をしているんだが。


 そちらを一瞥すると、彼女は苦笑を伴い首を左右に振った。自分の事は何も言わなくていい。彼女の好きにさせてあげて欲しい――そう主張しているようだ。

 確実に、ニコラはクロエに振り回されているのだろう……気苦労が絶えないだろうなと思いつつ、俺は彼女の希望通り何も言わないことにして、彼女達と共に宿場町を出発した。


 距離にして、町から彼女の郷里はおよそ一日程度とのことで……その間に俺達は情報交換を行うことにした。その内容は、もっぱら魔族に関することだった。


「なるほど、東部でも魔族の動きは変わらないのね」

「率いているのが魔王である以上、俺達人間が戦争しようがどんな政治をしようが関係なく、神々との戦いに備えて色々動いているということなのかもしれない」


 基本、俺達は勇者としてどういう魔族と戦ってきたかを話し合うような形となっていた。これだけで話のネタとしては十分であったし、また彼女がどういう意図で魔王と戦っているのかを推し量る材料ともなった。


 彼女は元々腕っぷしも強く、また勇者に憧れていたからこうして自分も勇者になったそうだ。理由としては単純明快。そこに他意や俺のような復讐心があるようにはまったく見えなかった。


「――というのが理由だけど、あなたはどうなの?」


 勇者になった経緯に関する話の時、クロエは無邪気にこちらへ話を投げた。すると事情を知るシアナは少し慌てた様子を見せたが……俺は構わず答えた。


「一言で言い表すと、復讐だよ」

「復讐……?」


 不穏なものを感じ取ったのか、クロエは眉をひそめた。同時、後ろ暗い理由を悟ったのかニコラもシアナと同様慌て出し、別の話題を口にしようと声を上げようとした。


 だがその前に、


「ふうん。結構暗い理由なのね」


 クロエはあっけらかんとした態度でそう答えた――とはいえ、それ以上追及するつもりはないらしい。

 興味がないのかと思ったが、おそらくこちらを配慮してのことだろう。彼女は話題を変えるなどというよりは、さして興味のない態度を見せて対応するといった感じだろうか。これがいい方法なのかは人それぞれなので判断できないが、俺としては不快となったわけでもないので「ああ」と返事をして適当に流す。


「で、クロエ。一つ質問なんだが」

「ええ、どうぞ」

「郷里に帰ってから、その後どうするつもりだ?」

「そうねぇ。特に予定があるわけでもないのよねぇ……平和なら、静養してもいいかも」

「……西部は人間同士の戦いも多いと聞く。そういう戦いに加わるようなことはしないのか?」

「あいにく、興味ないわ」


 バッサリと一言。彼女は勇者となった動機が憧れなので、人間と戦うということに意味も見いだせないのだろう。

 と同時に、この情報で彼女が人間の勇者と密に関わっていなさそうなのはなんとなくわかった。もしいるとしても、魔物を討伐するような面々だろう……そんな風に思っていると、


「そうね、一度『風の戦士団』の調子を観察してもいいかな」

「……ん? 戦士団?」


 新たな単語が出てきて眉をひそめると、クロエは解説を始めた。


「そ、戦士団。以前私が所属していた、魔物討伐を専門にやる戦士団」

「魔物討伐専門……それ、別に魔物討伐専門とかいう言葉必要ないんじゃないか? 基本戦士団って、魔物と戦うものだろ?」

「東部ではそうかもしれないけど、戦士団の中には戦争を生業とするのもあるから」


 ああ、そうか。区別するためにそんな言い方をしているのか。


「強いのか?」

「んー、元々自警団が発展してできた組織だから、正直個々の能力はそう高くないわね」

「クロエはなぜその戦士団から脱退を?」

「私とニコラの技量が、戦士団の活動領域を大きく超えていたから……彼らなりに言うと、『こんな戦士団に収まるような実力じゃない』と」


 なるほど、送り出されたということか……俺が言葉を待っていると、クロエはさらに続けた。


「片田舎の戦士団だから、周辺の魔物さえ倒せればそれでいいって感じの牧歌的な戦士団だよ。けどまあ、今は少しくらいみんなの腕が上がっていてもおかしくないかな。脱退して結構経つし」

「そうなのか……」


 その戦士団についても調べた方がよさそうだな。まず間違いなく、クロエの勇者としてのルーツが眠っている……記憶に留めておくことにしよう。


「ちなみにだけど」


 そこで俺は話を変える。


「西部は戦乱が続いているような状況だけど……その中で嫌な噂とかはないのか?」

「嫌な噂?」

「ほら、戦争に勝つために魔族と結託しているなんて可能性もゼロではないだろ?」

「ああ、そういうこと……魔族達が介入しているというのは、まあ確実だとは思うよ」

「そういった魔族に、興味はないのか?」

「正直、そういうのと戦っても面倒だし」


 これもあっさりと返答。だが、この話には続きがあった。


「ほら、国とか王様とか、そういうのに関わるのは大変じゃない? 私、名はそこそこ売れているけどそういう所に出向いていないから、あんまり顔が割れてないのよね。その方が動きやすいし、戦争とかの関係から変に関わるとしがらみに捕らわれる可能性もあるから……行きたくない」

「そうか」

「それに、そこにいる魔族って基本、砦で構えている魔族の部下とかでしょう? なら、直接本陣攻めた方がいいじゃない」

「……なるほど」


 実力があるからこそ言える話だな……実際、彼女は国と関わりのある魔族とかを倒すという過程をすっ飛ばし、本拠地に乗り込んで戦うのだろう。だからこそ、アミリースなども調査するくらいだったというわけだ。


 ここまででわかったのは、魔物や魔族専門に戦う勇者であり、また国と大きく関わっているわけではないということ。国としては彼女の腕が欲しいと思っていそうだけど……その辺りどうなんだろうか。もしくは、人と戦うことが面倒だと避ける勇者の需要は低いのかもしれない。


 それなら、変に関わらず魔物などを倒し国に貢献してもらった方がいいと考えるかも……ただ内通している魔族を直接滅ぼしに行くとなれば、国にマークされていてもおかしくはない。その辺り、判断が難しい。


 ただ彼女の場合、城と関わらなければ問題ないと考えていそうだ……ちょっと楽観的に考え過ぎな所はあるだろうな。


「わかった。西部には西部の問題だってあるってことで」

「そう言ってもらえると嬉しい。ちなみに、東部ではその辺りどういう感じなの?」

「魔族と手を組んで私腹を肥やす、とかかな」

「最悪ね」

「そうだな……まあ、基本手を組んだ人間は悲惨な結末を迎えているから、自業自得かもしれない」

「そっか」


 興味を失くしたか、そんな風に呟くクロエ。とりあえず、こんなところか……と俺は考え、隣を歩くシアナに目を移す。

 彼女も、頷いていた……よし、次は彼女の過去などについて調べる段階。これは彼女の郷里に到着してからだろう。


 そういうわけで、俺達は以後適当な雑談を行いつつ、彼女の郷里まで行くこととなった。道中で二三トラブルがないこともなかったが、基本クロエの直情的な性格が原因であるため、面倒ではあったが次第に慣れることに――いや、慣れてしまう羽目になったことは、付け加えておく。


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