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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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勇者との会話

 俺はクロエの表情を見ながら彼女について思考する。やはり恨みつらみで戦っているという感じではない。例えば郷里がどうにかなって、という雰囲気ではなさそうだ。

 この辺りの理由を少し調べないといけないかもしれない……そんな風に考えつつ、俺はクロエに対し言及した。


「勇者として、そちらの対応は正しいとは思う……けど、そうなると城に入らなかった俺は勇者失格ということかな」

「そうは言っていないわよ。けど、そうねぇ」


 と、彼女は悪戯をする子供が見せるような笑みを作る。


「踏み込んだ私の方が、一枚上手かな?」

「……そこまで口が達者なら、大丈夫そうだな」


 俺は息をつきつつ語る……と、ここで演技上釘を刺しておかないと。


「とはいえ、何をされたかわからない……一応、体の検査はしておいた方がいいんじゃないか? 魔法か何か掛けられているのだとしたら、危険かもしれない」

「そうね。こうやってあなたと喋っているけど、突如魔族に変身するかもしれないし」

「……怖い事言うなよ」


 そこで、ニコラが小さな唸り声を上げた。クロエは反応し、首を向ける。


「ニコラ?」

「……あれ? ここは?」


 目覚めたらしい。首を左右に向け、俺とシアナに対し目をぱちくりとさせた。


「あなた方は?」

「あ、えっと――」


 とりあえず、自己紹介とクロエに話した内容をかいつまんで説明。結果彼女はベッドの上で礼を示す。


「助けて頂き、ありがとうございます」

「いや、いいよ。町の近くでそれほど手間にはならなかったし……それに、魔王城から直接救い出したわけでもないからさ」


 手を振りつつ返答。すると、今度はシアナが俺に対し一つ提案した。


「セディ様、ひとまずお二人の様子を見るべきではないでしょうか?」

「ん? 二人の?」

「はい、最近色々と魔族に関して噂もありますし」


 お、そういう理由で同行しようとするのか……俺はクロエ達に視線を送る。クロエの方はさして気にしている様子はないが、ニコラについてはやや不安げだった。


「ちなみに噂って?」


 クロエが問い掛けると、シアナが答えた。


「勇者を……魔法によって操り尖兵とするという噂が」

「なるほど、だから私達が生かされたと?」

「あくまで噂なので真実かどうかはわかりませんが」

「不安ですね」


 次に声を発したのは、ニコラ。


「何しろ私達は魔王の城へ乗り込んだわけですし……実力的にも申し分ないと判断したでしょう」


 そこで彼女は口元に手を当てた。


「あの魔王城での戦い……もしかすると、私達をそうするための意図があったのかも――」

「その辺り、確かめようにも難しいけど……体をしっかり調べることで、そういう目論見があるのか判断はできそうね」


 明るめの口調で、クロエは語る。あくまで楽観的――結構重大な事を言っている気がするのだが、元の性格がそういう感じなのか、さして悲壮感はない。

 いや、これはむしろ俺達の会話が理解できていないだけなのかもしれない……もしそうならさらに面倒そうだな。


 ま、どちらにせよ俺達が彼女達と行動する口実はきちんと整ったし、これで共に行動するという点は問題ないだろう。


「それじゃあ、俺達は君達に少し付き合うってことでいいか?」


 確認のために問う。するとクロエはこちらを見返し、


「用事はどうなの?」

「二人を町に連れてきた時点では、既に終わっている。このまま東部に帰るかしばらくこちらにいるか迷っていたんだが……」

「そう。けど、もし魔族となってしまったら……」

「一応、それなりに名が通っている勇者ということで信用してくれよ」

「ふうん、そう……ま、いいわ。そこまで言うのならセディ=フェリウスの実力を見せてもらいましょうか」


 なんだか好戦的な物言いだな……二人で魔王城に踏み込んでくるくらいだから、そのくらいの反応は至極当然か。


「できれば見せなくてもいいようにしてもらいたいもんだけどな……で、ガレットさん達はこれからどうするんだ?」

「私のことはクロエでいいわ。その代わり、こちらも名前で呼ばせてもらうけど」

「わかった……で、どうするんだ?」

「まずは体が問題ないか検査をして……次は、決まっているじゃない」


 笑みを浮かべる。こちらとしては予想通り。


「別の魔族幹部の所に行くわ」

「ひょっとして、また転移魔法を使うの?」


 ニコラの確認。するとクロエは「当然」と応じた。


「次は絶対に勝つわ。それに、こっちには新たな勇者もいるし」

「ちょっと待てよ。俺はそこまで付き合うとは言っていないぞ?」

「何よ、勇者である以上魔王城に踏み込むくらいの勇気は見せなさいよ」


 初対面の人間に無茶言うなあ、この人……ニコラは苦笑し俺に申し訳なさそうにしている。ただその表情にはどこか慣れた雰囲気もあり、こうしたやり取りが日常茶飯事なのだと予想できた。

 これは付き合うのが大変そうだ……改めて思いつつ、俺は彼女が告げた言葉に対する反論を述べる。彼女がどう動くか予想できたので、この点については予め回答を用意しておいたのだ。


「……今から別所に向かっても、無駄足になる可能性が高いと思うぞ」

「え? どうしてよ?」

「考えてもみろ。クロエは魔王城に踏み込んだわけだろ? しかも原因は魔族を倒し、そいつが保有していた転移魔法陣を利用して……魔王にとって俺達の存在がどれほどの価値かわからないけど、さすがに魔王城に何度も踏み込まれていい気はしないはずだ。となれば、対策を立てられていておかしくない」

「だから別の所の魔法陣を利用しようとしても、使えないと?」

「そういうことだ」

「うーん、一理あるわね」

「ここは、検査のこともあるし少し腰を落ち着かせてもいいんじゃないか?」


 提案に、クロエは唸り始める。不服と思っている様子だが、俺の言っていることについては納得しているようだし、また魔族の拠点に向かうようなことはないだろう。

 よし、ここで駄目押しを……俺はさらに言及する。


「魔王所に踏み込んだということで、少しばかり休息してもいいんじゃないか? 確かに魔王達の動向は気になるし、嫌な噂もある……だが、焦ってばかりでは奴に勝つことなんてできないだろうし」

「……そうね」

「郷里とかはどこになるんだ? 場合によっては遠くに?」

「いえ、ここが私の国だから……故郷もそれほど遠くない」

「あ、そうなのか」

「……なんだか、不気味だね」


 そこで、ニコラがクロエへ口を開いた。


「戻って来たのが私達の国だなんて」

「偶然なのか、それとも故意なのかってことか?」


 俺が問うと、ニコラは頷いた。


「もし故意であったとしたら、私達の素性は調べられていることになりますけど……」

「その辺りは、確かめようがないな……まあ、見た所女神の武具なんかも持っているようだし、魔王側もチェックしていたということじゃないか?」

「……そういう意味でも、一度故郷に戻るべきかもね」


 クロエが言う。魔族にマークされているのだから、故郷に異常がないか確かめたいといったところか。


「わかったわ。ここは勇者セディの進言に従いましょ」


 よし、まずは故郷に行くことに決定した。これで多少なりとも彼女の内面について調べることができるだろう。掴みとしては上々だ。

 そこから俺達は簡単な打ち合わせをして、俺とシアナは一度部屋を出た。


「……とりあえず、接触は成功だな」


 小声で告げると、シアナは黙って頷いた。

 ここからが大変そうだが……ひとまずクロエがどういった人物なのかを計るには必要な情報集めには苦労することはなさそうだ。


 その途中で、ニコラについても調べよう。むしろ、彼女について優先した方がいいのか……頭の中で色々と段取りをしつつ、俺は出発に備え準備をすることにした。


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