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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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初対面

 俺は魔界から元の世界へと戻り……到達した場所は、森の中。人目がつかないということでこうした場所を選んだのだろう。近くの茂みに、勇者クロエと従者ニコラが横たわっていた。


 シアナの解説によると、特殊な魔法を使いある程度の時間が来ないと絶対に起きないようになっているらしい……とりあえず俺達は彼女達を抱え、森を抜ける。ちなみにシアナが従者を軽々とお姫様抱っこしている光景は、なんだか奇妙だった。


 そうして街道に到達し、タイミングよく馬車が通りがかった。目立つのでここからはシアナも抱えるようなことはせず、俺は馬車を止め近くの街まで連れて行ってもらうよう交渉。商人らしき人物だったのだが、俺達が勇者一行だと認識したためか快く承諾してくれた。ありがたい。


 そうして俺達は最寄りの街へ到達し……宿に入った。


「よし、これでいいな」


 俺はクロエとニコラをベッドに寝かせ、窓際にあった椅子に座る。ちなみにクロエが窓側で、ニコラが部屋の扉側。後は目覚めるのを待つだけという状況で……ここでシアナは簡単に情報収集をこなし、ここがどういった場所なのかを俺に説明した。


 現在地は大陸西部の中で北東に位置するプロジオン王国の宿場町、ライソンという場所だった。話によるとこの国は勇者クロエの郷里であり、なおかつ幹部を倒したのもこの国らしい。ちなみにこの場所は彼女達が魔族を倒した地点からは結構遠い。他の魔族の砦に向かうのも困るが、同じ場所に何度も訪れるのも良くないということで、こういう措置となったらしい。


 なるほど、郷里……クロエとしては相当必死に当該の魔族を倒したのではと思う。理由はどうあれ故郷のために戦っている……それはきっと、人々のためとかそういう理由なのかもしれない、復讐から始まっている俺とは、大違い――


「……ん」


 クロエが声を上げる。お、目覚めるのか……思いつつ俺は椅子を彼女が眠るベッドの傍らに移動して着席。覚醒するのを待つ。

 一方シアナはニコラの方を診ることにしたらしく、彼女の近くに椅子を用意していた。そして、


「……ん」


 再度クロエが声を上げると同時、目が開いた。俺は一瞬声を掛けようか迷ったが……少し静観する。

 少しの間ぼーっとしていた彼女だったが、天井を見上げ数度瞬きをした後、声を出す。


「ここは……」

「ライソンという宿場町だよ」


 俺が答えた瞬間、クロエは目を大きく開けると即座にベッドの上で立ち上がった。聞き覚えがない声だったので警戒したのだろう。まあ魔王城に踏み込んだ後なので仕方がないといえば仕方がない。

 で、剣を抜こうと背に手を伸ばした――が、当然ながらそこにはない。さらに胸当ても具足も外されているのを彼女は認識し、その上で俺を見据えた。


「寝かす以上、装備はさすがに外させてもらった」

「……あなた、誰?」


 不審げに問うクロエ。ちょっとどころじゃなく警戒感剥き出しの彼女を見て、俺は演技として大きくため息をついた。


「ちょっと待ってくれよ……そっちに何があったのかは知らないが、倒れていたところを近くの町まで運んだ身としては、その対応はあんまりだと思うぞ」

「……え?」


 理解できなかったのか、彼女は聞き返す。そして室内を見回し、


「……さっき、ライソンと言ったの?」

「ああ。俺はこの町の近くを通りがかった人間。一応勇者をやっている」

「私は、どこに倒れていたの?」

「町の郊外にある森の茂み。ちなみに気付いたのは俺じゃなくて、俺の仲間」


 そう言って俺は彼女の後方を指差す。すると彼女は振り向き、シアナと、ベッドで眠っているニコラに目を向ける。


「……ニコラ!」

「眠っているだけです。体の方に異常はありません」


 シアナは丁寧に返すと、小さくお辞儀をした。


「初めまして、シアナ=ランテルと申します」

 ちゃっかり偽名……ま、さすがにシャルンリウスの姓を使うのもまずいだろうし。


「……クロエ=ガレットよ」


 彼女も自己紹介。俺もこのタイミングでしておくかと思い、クロエの後ろ姿を見ながら声を掛ける。


「俺はセディ=フェリウス……よろしく」


 すると、反応があった。再度こちらに体を向け、


「……セディ=フェリウス? 聞いたことがあるわね」

「東部の方で色々活動していた人間なんだけど……西部の人間にも耳には入っているのか?」


 問い掛けると、クロエは思い出したようにはっとなった。


「セディ……そうか、幾多の高位魔族を倒した、東部でも指折りの勇者……!」

「どんな噂を聞いているか知らないけどさ……今回西部の方に用事があって、この国に来たんだ。で、偶然俺達は君を見つけた」

「……そう」


 クロエはそこでベッドから下りた。


「礼を言うわ……倒れているところを助けてもらい、ありがとう」


 礼とかはすんなり言えるらしい……ここで「本当に勇者セディか?」などと問われそうな気がしたのだが、そうした言葉は来ない。内心で疑っているのか、それとも俺の言葉を鵜呑みにしているのかはわからないな……直情的な性格であっても、相手に気持ちが悟られないように構えているようだ。この辺りは、しっかりしている。


「で、訊きたいんだが……何であんなところに倒れていたんだ? 怪我もなく二人とも眠っているような感じだったが、魔物と遭遇したわけではないんだろ?」


 とりあえず、本題に入る……さて、どう答えるか。


 クロエはこちらとシアナを一瞥し、どう答えるか思案し始めた。さすがに魔王城に向かったなどと言って信用してもらえるか――果ては、気付いたらここにいた、などと言ってしまえば逆に色々と警戒されるのでは――そんな感じだろうか。


 けれど、色々考えた結果、彼女は正直に話すことにしたようだった。


「……この国を拠点にしている魔族を倒し、その砦内にあった魔法を、そこで寝ている従者のニコラ=スミスが起動させた」

「起動……それで?」

「その結果、魔王の城に到達した」


 一時の沈黙。無論これは、わざとだ。


「……信じてもらえないかもしれないけど」

「……ふむ、魔王の城か」


 ここで俺は話を合わせるか、合わせないかで少し考える。例えば額面通り「信じる」と言っても話としては通用すると思う。

 ただこの場合、もっと効率よく話を進展させる方法がある。よし、ここは――


「……それは、見上げるくらいの大きさを持った漆黒の城か?」

 問い掛けに、クロエは目を見開いた――その間に、俺は続ける。

「周囲は草木が存在していない荒れ果てた荒野……そして、堅牢な門が真正面にあった……違うか?」

「どうして……まさか、あなたも?」

「俺は城に入ることなく退散した人間だけど……そっちは、どうしたんだ?」


 城の詳細を言う事で、俺が噂通りのセディ=フェリウスだと暗に主張しつつ話を合わせる……するとクロエは乗って来た。


「そっか……ちなみに、あなたはどうやって戻ったの?」

「手持ちにあった魔法具をどうにか活用して、かな。正直戻って来れたのは運だよ。もしあのまま残っていたとしたら……」


 その先は何も言わなかった。だがクロエは言わんとしている事を理解したらしく、つばを飲み込む。


「そう。なら、私の場合は――」

「悪いが現場を見ていない以上判断できないな。君はどうしたんだ?」

「まず、城に踏み込んで――」

「二人で、か?」


 俺はニコラに視線を送りつつ問い掛ける。


「ずいぶんと無茶をやっているな」

「勇者である以上、当然でしょ?」


 その言葉は、ずいぶんとあっさりとしたものだった。魔王に強い執着……例えば復讐心があるようには見えなかった。


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