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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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試練の結果

 おそらく、この攻撃で決まる――そんな予感が心の中を駆け抜けた。


「はああああっ!!」


 クロエの、全力。刀身が白く発光し、持てる全てを出し切るといった様子で、魔物へ一閃する。

 対する堕天使を象った魔物は――四本の腕を利用し防御の構えを取った。おそらくだが、攻撃を防ぎ切って反撃で片を付ける……そんな目論見が俺にはなんとなく理解できた。


 剣と剣とが、激突する。先ほど打ち合った以上の轟音が室内に満ち、そして、

 クロエの斬撃が、四本の腕を突破した。


「――ああああああっ!!」


 絶叫に近い声と共にクロエの斬撃は魔物へ縦に入る。部屋で観戦をする俺でさえ、その勢いは目を見張るものがあり、彼女の一撃は途轍もないものだと、強制的に認識させられた。


『……ほう』


 ノヴォクが興味深そうに呟いた矢先、魔物が崩れ落ちた。クロエの一撃に耐えられなかったという形であり……彼女の潜在能力の一端が垣間見ることができた。


「能力的には、間違いなく合格ですね」


 シアナが評する。彼女が言う以上、クロエの実力は本物と断定してよさそうだ。


「とすると、予定通り俺達は彼女と接触するわけか」

「はい」

「で、その方法は?」

「今のでノヴォクも判断したでしょう……見ていればわかりますよ」


 シアナがそう言うので俺は観戦を再開。魔物が塵と消える中、クロエは不敵に笑みを浮かべた。


「さあて、次は誰が来るのかしら?」


 しかも、ずいぶんと余力がある……全力で攻撃を仕掛けているにも関わらず、だ。


『ふむ、確かに貴様は私と戦える力を持っている……のかもしれない』

「かもしれない、じゃないわよ」

『しかし、残念だがその願いは叶えられないな』

「どういう意味よ?」


 問い掛けた直後、ノヴォクは右手を突き出した。


『既に準備は整った』


 刹那、クロエ達の足元に魔法陣が浮かんだ。


「っ……!?」


 これにはクロエも驚愕し、少し慌てた様子でニコラへ告げる。


「ニコラ!」

「うん!」


 応じた彼女は片膝を立てるようにしてしゃがみ、両手を床に押し当てた。おそらく陣を解除しようとする肚なのだろう。

 だが、魔法は完全にクロエ達を捉えようとしていた。ニコラは何か魔法を使って陣の効力を打ち消そうとしているらしいが、それでも発光が強くなる。


『無駄だ。どれだけの魔力を保有していようとも、この魔王城に眠る魔力量には勝てまい?』

「くっ……!」


 ニコラは呻きながらも、どうにか魔法を打ち崩そうとする。だが彼女の健闘むなしく、さらに魔法陣が発光する。


「――このおおっ!」


 するとクロエは走り始めた。どうやら魔王に仕掛けつもりの様子……最後の抵抗といったところか。


『最後まで抗う気があるのは、見事としか言いようがない』


 対するノヴォクは冷静に語る。


『だが、残念だったな。ここにたった二人で来た時点で、勝負は決まっていたのだよ』


 クロエが跳躍しようとする。だがその直前に異変が。突如、後方にいたニコラが倒れた。

 そしてクロエも力が抜けるのか、体を揺らす。どうやら魔法陣によって発揮していたのは眠らせる魔法らしく、やがてクロエも耐え切れずに床に倒れ込んだ。


「……単に眠らせるだけで、こんな仰々しくしなくても」


 倒れた二人を見ながら、俺は感想を述べる。すると、


「だって、魔王を相手にしているわけですから、少しは派手に演出しないと」

「それもそうか……で、これからどうするんだ?」

「まずは、お姉様と話をしましょう。ただ彼女を仲間に加えるとしたらすぐに任務でしょうから、準備もしないと」


 シアナが語った瞬間、城がほんの僅かに揺れた……気がした。


「うん?」

「お城の構造を戻しているんですよ」


 ああ、なるほど。ひとまず勇者との戦いはこれで終了、というわけだ。


「では、準備の後改めてお姉様に話を伺いましょう……私達がどうするかは、それからです」






 俺とシアナは玉座に赴く。すると既にファールンやノヴォクが控えており、


「結論が出た」


 エーレは腕を組みながらこちらに告げた。


「彼女の能力は、間違いなく神魔の力を得て扉を開くに足ると思われる……ここから、次の段階に入る」

「ということは、彼女の内面を調査することになるのか」

「そうだ」


 こちらの意見にエーレは頷く。


「ここから彼女がどう動くかだが……性格的に、間違いなく他の魔族の拠点に向かい、転移を試みようとするだろう。ここまで足を踏み入れた彼女だ。また来ようという気になるのは至極当然だろう」

「……ああ。その姿が想像できるな」

「セディ達は、それを上手く制御しつつ、彼女達のことについて調査してくれ」

「制御、か」

「そこはお任せください」


 するとシアナが手を上げた。


「私が対応します」

「なら、シアナに頼んだよ……で、俺達は気絶したあの二人を介抱した、とでも言う形で接触すればいいのか?」

「それでいい」


 頷くエーレ……ふむ、色々と不安もあるが、やると決まった以上は俺もそれに従うべく思考を始める。


 性格的に説得するのは大変かもしれないが、非常にわかりやすくもあるので行動の制御は言う程難しくはないだろう……そして、もしクロエについて知ろうとするなら、聞くべきはクロエ本人ではなく、従者であるニコラの方だろうな。助けた形で色々と話を聞き、その中でニコラ自身についても色々聞き出すというのもありだろう。


 ただ、深い部分を知るためには多少なりとも親交がなければいけない……諸所課題があるのに加え、時間が掛かりそうだ……勇者ラダンのこともあり焦ってしまいそうだが、敵の一派を味方に加えてしまうのはあまりにまずい。ここは焦りたくなる衝動を抑え、じっくり腰を据えてやるべきだろう。


「さて、これからセディ達には行動を開始してもらうわけだが……シアナ、定期的は報告は頼んだぞ。相手もそう警戒はしないだろうし、問題ないはずだ」

「はい、わかっています」


 エーレの言葉に頷くシアナ。カレンの時はずいぶんと警戒されていたので連絡も難しかったのだが、今回はそういうわけではないだろう。まあ、そう考えると気が楽と言えば楽かもしれない。


「正直、私としてもどこまで調べればいいのかわからないという点もある……その辺りの裁量については、セディとシアナに一任したいと思っているのだが……」

「俺達に?」

「報告だけ聞いているだけの私では、おそらく判断がつかないだろうからな……特にセディ。同じ人間かつ勇者として、期待している」


 う、そうきたか……確かに人間かつ勇者とくれば俺の方が判断できそうな気もするが……。


「まあ、そうだな……最低限勇者になった経緯とか、どういう戦歴だったのかくらいはまず把握したいところだな」

「アミリースが名を知っていてくらいだから、その辺りについて調べることも可能だが……セディ、どうする?」

「うーん……予備知識があってもいいけど……俺としては知識の無い状態で接する方が直感とかで判断できそうな気もするんだよな」

「それなら、こういう形ではどうでしょうか」


 横槍を入れる形で、シアナが告げた。


「アミリース様には事前に色々と調べて頂きまして、私の方に報告してもらいます。セディ様は何も知らない状態で接してみて判断してください。私の方はアミリース様から得た情報を基にして、嘘をついていないかなどを総合的に判断します。セディ様は、勇者として直感でご判断を」

「役割分担というわけか……わかった。変に情報があると先入観持ちそうな気がするし、俺はひとまず何も情報は得ずにやってみることにするよ」

「なら、決まりだな。では二人とも、移動しよう」


 エーレが言う。俺達は頷き、玉座の間を出る。そして廊下を進んでいる間に、エーレに尋ねた。


「なあエーレ。今勇者クロエ達はどうしているんだ?」

「現在、眠らせてとある部屋で寝かせている」

「そうか……俺達が移動するタイミングで彼女達も?」

「そうだ。介抱するところから始めてもらおうかと思っているが」

「それでいいんじゃないか? シアナはどうだ?」

「私はそれで構いませんよ」


 やがて玉座下の転移の広間まで到達し、俺達は魔法陣の上に乗った。


「さて、セディ……任務続きで申し訳ないが、頼んだぞ」

「ああ……何かあったら連絡してくれ。さすがに今回は色々とやり取りできそうだし」

「無論だ……そちらも何かあったら言うように。シアナ、いいな?」

「はい」


 頷いた瞬間、俺達の足元で転移魔法が起動する――こうして俺達の、新たな任務が始まった。


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