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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者襲来編

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現れた勇者

 ファールンから魔王城の前に勇者が出現という報告を受け――エーレと俺はすぐさま玉座へと赴いた。


「現在はどうしている?」

「魔王城を見上げ、周囲の様子を窺っているところです」


 ファールンが報告すると同時に、エーレは「わかった」と返事。


「まだ中に入り込む様子はないようだな……ではファールン。迎撃モードに城を組み替えろ」

「畏まりました」


 ファールンは指示を受け玉座から退出。俺はエーレの横で、質問を行う。


「えっと……どうするんだ?」

「まずは勇者がどういった存在なのかを調べなければならないな」


 エーレは告げると、右手を指揮棒を振るかのように動かす。すると突如白い光が生み出され――


『エーレ?』


 光の中から声……これは、女神アミリースだ。ただ姿は無く声だけだが。


「突然、すまないアミリース。今は大丈夫か?」

『ええ、大丈夫だけどどうかしたのかしら?』

「幹部を倒し、勇者が私の城の前にやって来た。もし何か心当たりがあるのなら教えてくれ」


 言いながらエーレは左手を振る。すると白い光の横に、新たな光が。


『今からその姿を見せる』


 新たな光はやがて像を結び……魔王城正門前が映った。


 そこには、二人の女性がいた。一方は黒いローブに杖を持った茶髪の人物。髪はずいぶんと短く、多少胸が膨らんでいることに気付かなければ女性的な顔立ちを持つ男性、と判断されてもおかしくない。

 体格は小さく、一目見て典型的な魔法使いだとわかる。遠目から見てもはっきりとわかるくらい、魔王城を見上げオタオタとしている。


 もう一方の女性は――波打つような銀髪と身の丈に匹敵するような大剣を持ち、上半身は胸当て、下半身はスカート状の衣装で覆われているが足なども具足を身に着けているのがわかる。

 装備品の色は髪と合わせるように銀色。顔立ちは綺麗というよりは天真爛漫といった雰囲気で、魔王城を見上げ好戦的な笑みを見せている。身長はもう一方の女性よりも高い……平均よりも少し高いくらいだろうか。


 女勇者……か。魔力強化があるとはいえ、やはり男性と比べ非力な女性は魔法使いや、俺の仲間であるミリーのように男性とは少し違うやり方で戦ったりするものだが、彼女の装いを見れば、魔物の群れに正面から向かっていくようなスタイルであると推察できる。


『ちょっと待っていて』


 アミリースはそう告げると、何やらゴソゴソと音を出し始めた。


『えっと……勇者の名前はクロエ=ガレット。西部出身の勇者で、大剣と鎧の二つの武具を駆使して戦う戦士系勇者ね』

「情報があるのか?」

『成長株の一人だったから。その実力は魔族の幹部を倒したことにより証明された、と言ってもいいでしょうね』

「そうだな……」

「俺と比較してどうかな」


 アミリースに問い掛ける。するとアミリースは『あら』と反応。


『セディもいるの?』

「ああ」

『アイナの件は私からも礼を言うわ』

「いや、大それたことはしていないし……ともかく、その強さは?」

『彼女の能力は何よりその圧倒的な魔力による力押し……これは彼女が生来魔力量を多く保有していることも関係している。その一点だけを考えると、確かにセディの方が劣っているかもしれない。けど、瞬間的な力を見ればセディの方が優勢でしょう』

「私を倒した程だからな」


 エーレが言う……まあ、そう考えることもできるか。


『実力自体は、相当なものであることは間違いない……けど、彼女には二つの欠点がある』

「欠点?」

『一つは、その攻撃手段。彼女はそれこそ一騎当千と呼んで差し支えないくらいの力を有しているのは事実だけど……逆を言えば、ひどく直情的なのよ』

(から)め手に弱いと」

『ええ……とはいえ魔王城前まで到達したのだから、高位魔族であってもその力の程は十分であり、罠なんかを強引に突破できる実力を有していると言えるのかもしれない……けど』

「けど?」

『二つ目の欠点は――』


 その時、エーレが左手を振る。すると魔王城の外の声が明瞭に聞こえ、


『ク、クロエちゃん! 突撃なんて危なすぎるよ! ここは退かないと――』

『何言っているのよ! 目の前に魔王城がある……これは、私に魔王を倒せという天の思し召しに違いないわ! 今こそ魔王に鉄槌を! この世界に平和と希望を!』


 どこか芝居がかったクロエの声。それは間違いなく、現状に酔っている感がある。


『……聞いての通り、場の雰囲気に流されやすいというか』

「熱血漢、と言い換えてもいいかもしれないな」


 アミリースの意見にエーレがそう評した。


「ふむ、私としてはわかり易い性格で結構好きなのだが」

『……まあ、こうやって猪突猛進でも成果を上げてきたのだから、彼女としては間違っていなかったのでしょうけど』

「けど……彼女がここまで来るってことは、転移魔法とかを使ったんだろ? 見た目、魔法とかを使えるようには見えないけど」

『それは、横にいるもう一人の女性が関係しているわ』


 アミリースが解説。俺はそれに耳を傾ける。


『名前はニコラ=スミス。クロエの従者かつ、彼女が唯一心を許せる幼馴染かつ親友といったところかしら』

「幼馴染ってことは、二人でずっと活動しているってことか?」

『そういうことになるわ。そもそもクロエは万事猪突猛進な性格だからいざこざが絶えないのだけれど、彼女がその緩衝役になっているという感じかしら』

「私から言わせれば、苦労人だな」


 エーレの評価。まあ、その言葉はわからなくもない。


「で、彼女の功績によって転移魔法が発動したと?」

『彼女は魔法を独学で学んでいたのだけれど……攻撃魔法はそれほどでもないにしろ、クロエを補助する支援魔法をずいぶんと鍛えている……その能力だけなら、西部でも三本の指に入るのではないかしら』

「とすると、ニコラという女性がクロエの力をずいぶんと補強しているということだな……だからこそ二人でどうにか立ち回れている」


 俺のコメントにアミリースは『そうね』と同意した。

 ニコラは縁の下の役割を持っているようだが……確かにクロエの能力もあるのだろうが、こういった場合ほぼ確実に彼女よりも傍にいるニコラの方が役割としては大きいだろう。


『実際の所、クロエは作戦もなしに突撃することが多くて……それでも魔物を倒し続けているのは、ニコラの影響が大きいでしょうね』

「……そちらに女神の武具を与えた方がいいのではないか?」


 アミリースの解説に、エーレはそう告げた。


「支援系魔法中心とはいえ、その能力は抜きんでているのだろう?」

『さすがにクロエという勇者を差し置いてというわけにもいかないし……ただまあ、エーレの言う通り彼女の方が目立ってないだけで相当活躍しているのは認めるわ』


 結構辛辣(しんらつ)だな、アミリース……まあいいや。ともかく、中々の実力者が訪れたことだけはわかった。


『今回の件はおそらく、ニコラが魔族の利用する転移魔法を解析していたところ、発動してしまったという感じではないかしら』

「ふむ、その解析能力ぜひとも欲しいな……と、さすがにこの現状で言っても仕方がないか」


 呟いたエーレは、次いでアミリースへ向け発言する。


「詳細はわかった。ひとまずこちらで対応することにするが……アミリース。一つ確認だ」

『何かしら?』

「神魔の力に関する情報はもう受け取っているのか?」

『ええ』


 急に話題が変わった……などと思っていた時、彼女から思わぬ発言が。


『彼女を、神魔の力所持者にするの?』

「……え?」


 俺は思わずエーレに視線を移した。唐突に出現した勇者に対して……?


「そういう可能性を考慮してみてもいいのではないかと思ったまでだ」


 ずいぶんと前向きな発言が聞こえ、俺は大いに驚くこととなった。


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