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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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次の騒動

 城に戻ると、俺はラダンから手に入れた神魔の力をエーレ達に見せることとなり、彼女達は解析を始めた。


「ふむ、かなり高度な技術ではあるな……しかしセディ。よもや相手の技を奪う技術を持っているとは思わなかったぞ」

「人間相手じゃないと通用しない技だからな……これまで見せなかったのも仕方ないさ」

「そうか……シアナ、どう思う?」

「私達が技術的に転用するのは難しいかもしれませんね。そもそもこの力の一部は私達が原理的に保有できないものですし」


 場所は転移などに使われる玉座下の大広間。基本的に俺が力を見せ、それをエーレとシアナがあーでもないこーでもないと言っているような状況。


「ふむ……とはいえ可能性がゼロかどうかは、今以上に魔力解析を行い判断しよう」

「わかりました……では、調べてみます」

「頼む」


 シアナが部屋を出る。結果、部屋には俺とエーレだけ。


「……セディ、今後さらにきつい戦いが待っているかもしれない」

「何をいまさら。それに、キツさだけならエーレとの戦いが一番だったよ」


 途端、エーレは破顔する。


「そうか……それもそうだな」

「……なあエーレ。一ついいか?」

「私の口調の話か?」

「お見通しだな……まあ、嫌ならこの話題は避けるけど」

「言いたいことはわかるぞ。無理をしているのではないかということだな」


 俺は頷く。エーレに限ってそんなことはないと思うけど。


「別にこうした口調でストレスが溜まっているなどということはない。加え、生来の性格が出ていないと落ち着けないということもない」

「そっか」

「だが、時折そういう性格を表に出して話しこんでみたいと思うことはある……そういう性格もまた、私という自我を形成するために必要なものだからな」


 そこでエーレは、俺に笑い掛ける。


「俺には気を遣わなくていい、と思っているのだろう?」

「まあ、そうだな」

「わかっている。セディもそう気にしなくていい」

「わかったよ……ところで」

「どうした?」

「結局、見つかったのか?」


 名前は言わなかったが、それでもエーレはヴァルターのことだと察したらしい。


「いや、見つかっていない。逃げ足の速い奴だ」

「……別に追わなくてもいいんじゃないか?」

「そうもいかない。成果があったとはいえ、首謀者と無理矢理合わせるようなやり方を認めるわけにはいかない。しっかりとお灸をすえねばならん」

「その口調だと、捕まえてこってり絞るくらいで済ますのか?」

「いや、絞って乾いた雑巾のようにした後、気が済むまで袋叩きにして処刑する」


 迫力に満ちた声だ……怖い。


「ともかくだ、セディ。成果があったからといって奴のやったことを肯定するのはやめろ。結果がよければ全ていいという主張を行う者もいるだろうが、私はそれに同意しない。今は良いとしても、今後どうなるかはわからない。今回無茶したことによって話が悪い方向に進んでしまう可能性も考えられる。よって、ここからは慎重に行くぞ」

「ああ、わかったよ」


 というかヴァルターがやった所業だから否定しているような気も……いや、ツッコむべきじゃないか。


「さて、一通り検証も終えた……これからセディにやってもらうことについてだが」

「何かあるのか?」

「ひとまずは待機していてもらおうかと思っている。奴が見つけた資料から勇者ラダンから力を貰った人物の詳細もある……それを調べ、一つずつ叩いていこう」

「それはいいが……その戦いに俺も加わるんだろ?」

「無論だ。できれば安全を確保したうえで行いたいものだが……」


 ヴァルターに連れ去られてしまったため、エーレも多少ながら警戒しているらしい。あんなことはたぶん二度とないだろうし大丈夫だとは思うけど。


「それと、もう一つ……原初の力が眠る扉を開くためには、最低でも二人神魔の力を持つ人間がいないと駄目なのだな?」

「ああ。ラダンはそう語っていた」

「そこが最大の問題となりそうだな……現時点で検証した段階では、私達魔族がこの力を得るのは難しいようだ……同じように神界の者達も難しいだろう」

「となると、人間もしくはエルフとかに?」

「どうだろうな……エルフを始めとした亜人種がラダンの言葉通り実験云々で生み出された存在なのだとしたなら、少なからず魔族や神の力が含まれているだろう。となれば難しいかもしれないな」

「……エーレは、実験で生み出されたという事実は知っていたのか?」

「さすがにそういった資料はなかった。現段階では推測でしかなく証拠もないが……まあ、あり得ない話ではない」


 エーレは語ると、憮然とした顔つきとなる。


「ただこの場合は、魔王や神が主導的に行ったのではなく、あくまで極一部の存在が暴走した結果だとは思う」

「暴走……か」

「現在、大いなる真実を知らない魔族への対処法やルールなども決まっているが、こうした管理が始まった直後は無法同然だっただろう。真実を知らない者達が神々に対抗するべく……あるいは神側の存在が魔族に対抗するべく、実験に勤しんだ可能性は否定できん」

「尖兵にしようとした、と?」

「そういうことだ……あくまで可能性だが、これこそが真実に近いと思う」


 エーレの言葉はどこか重い上、この推測が広まれば多大な混乱を呼び込むことが、克明に理解できる。


「……ある種、大いなる真実以上に深刻な話かもしれない。この辺りについて亜人種達に話すかどうかは……今後考えることにしよう」

「わかった……で、話を戻すけど」

「ああ。原初の力の扉を開けるために二人、神魔の力所持者がいる。となれば、こちらで適応する人物を加えるしかない」

「けどそれは……」

「わかっている。そもそもセディに匹敵……いや、最低でも扉を開けられるだけの驚異的な力の持ち主を見つけなければならないが、この時点で相当ハードルが高いな。加え、大いなる真実に関することを説明する必要がある。これも相当な壁だが、やるしかない」


 明確な覚悟をもってエーレは述べる。


「とはいえ、だ。力を持つ人物に真実を話した結果ラダン側に回る可能性は十分あるし、それが彼の目論見という可能性もある。だからこそしっかりと見定める必要がある……その人物が、私達と協力してもらえるのかを」

「協力……か。まあ勇者というのは変わり者も多いし、案外簡単に味方になってくれるかもしれないぞ」

「その言葉、セディも含まれているのか?」

「もちろん」

「私としては、セディこそ正しい勇者だと思うが……まあいい」


 エーレはそこで肩をすくめると、話を戻す。


「今後は、大いなる真実に協力してもらえそうな人物を探す必要が出てくるな……可能性としてはやはり勇者か。女神の武具などを所持している彼らの方が、騎士などよりは可能性があるだろう」

「騎士に手を広げることはしないのか?」

「それも考慮に入れるが、私としては勇者の可能性が高いと思う」


 何か、エーレなりに理由があるのだろうか。


「勇者の最大目標は、魔王を倒すこと……騎士とは立ち位置が異なるわけだが、常日頃魔族と戦う勇者の方が、優れた能力を持っているケースが多い……セディのように」

「玉石混交だと思うけど」

「無論だ。しかし再度言うが、勇者から探す方が可能性は高いと思う」

「そうした人物を探すのも大変そうだけど」

「いや、魔族や神々が保有する情報網を使えば――」


 そこまで言った時だった。広間の扉が突如開き、ファールンがやってくる。


「陛下!」

「どうした? 何かあったのか?」

「それが……」


 ファールンは跪きつつ、エーレへと報告を行う。


「勇者が、現れました」

「勇者? 現れた? どういうことだ?」

「はい……それが」


 ファールンは顔を上げ、驚愕の言葉を口にする。


「幹部を滅し、砦内にあった魔法陣を使い……勇者が、この城に殴り込みを」


 ――まるで追い立てられるかのように。今度は勇者との騒動が待っているようだった。


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