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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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彼女の地

 エーレ達がヴァルターについて察すると同時に、俺は顔を強張らせた。するとエーレは優しげな顔を見せ、


「大丈夫だ、セディ」


 こちらを安心させるための物言い……ヴァルターのことについて口にするとまずいのではと俺達が思っていると推測し、そう言ったのだろう。


「あなたに責があるわけではない。全てはその存在によるものだ。大丈夫、名を言って欲しい」


 懇願……再度ファールンに目を向けるが、とても隠し通せる雰囲気ではないと察したか、小さく首を左右に振った。

 そこで……俺もとうとう、観念した。


「……ヴァルター」

「リーデス!」

「はっ!」

「すぐに城に戻り、部隊を編成しろ! 奴が出現した! 絶対に逃がすな!」

「承知致しました。遭遇した場合、どうすれば?」

「生死は問わん。私の所に奴を連れてこい!」

「はっ!」

「待て待て待て待て!」


 唐突な指示に俺はエーレを呼び止める。


「無茶苦茶だろ!」

「無茶なものか――! 母上!」

「殺しても構わないわ」

「おおいっ!?」


 断じたルナに俺は声を上げる。


「って、本当にいいんですか!? シアナは!?」

「いえ……あの」


 と、シアナは視線を逸らしつつ、


「…………あの魔族は、消えた方が魔族にとってもプラスでしょう」


 ……本当に、先代魔王は何をしたというのか。


 リーデスが転移によりこの場から消え、俺とファールンが呆然とする中でエーレ達は勝手に作戦会議を始める。


「母上、ここは――」

「私の旧知の者も動員するわ。姿を見せた以上……そして私達にとって大切な方を危険にさらした以上、生かしてはおけないわ」


 物騒極まりないんだが……ファールンでさえ容赦の無さに押し黙っている。

 そこでエーレは何かを思い出したかのように、俺へと首を向ける。


「そういえばセディ、訊いていなかった」

「な、何を?」

「奴に何をされた? 正直に話して欲しい。肩を持つ必要などない」


 ――これ、言ったらエーレはさらに怒り出すんだろうな。


 魔王が激昂する様というのは、正直見ただけでも恐怖するだろうと思い、なんとなく語りたくなかったのだが……でも、いずれは話さなきゃいけないことだからな。


「えっと、だな……ヴァルターに――」

「名を口にするのはやめてくれ。奴とかでいい」

「……とある場所に、案内されたんだよ。それで――」

「それで?」


 俺は一拍置き、告げる。


「……勇者ラダンと、引きあわされた」


 沈黙。


 あまりの内容に、激昂することも忘れてしまったらしい。


『……は?』


 続いて家族そろって間の抜けた声。そりゃそうだよな。


「えっとだな……彼に試練だとという形で砦に向かわされて、そこには勇者ラダンがいたんだ」


 ――その言葉により、エーレは崩れ落ちた。


「お、おい!?」

「……あのバカ親は」


 どこか、泣き声に近い声音でエーレは呟き始める。


「何でこうまで迷惑かけるの……無茶苦茶だよ……」

「え? え?」

「ああ、エーレってあんまりにも動揺すると地が出るのよ」


 そこで、ルナが補足を加えた。


「そんな口調では威厳もないから変えなさいと指導し、今ではそう話しているわけだけど、あの魔族のこととなると、時にこうなってしまうのよね」

「……地、ですか?」

「エーレって、それこそ魔王となる前までは虫も殺せないような……いえ、虫を見て逃げるくらいの子だったから」

「……それ、ずいぶんと意味が違うと思うんですけど」

「あら、そう?」


 会話をする間も、エーレは手で顔を覆い愚痴を零している。それを見たシアナは苦笑し、俺へと語る。


「その、少し経てば元に戻りますから」

「いや、それはいいんだけどさ……とりあえず、どうすればいいんだ?」

「ほら、お姉様」


 シアナが呼び掛ける。するとエーレは覆った手を外しシアナを見て、


「……シアナ」


 するとシアナの方は悪戯っぽい笑みを浮かべ、おそらくエーレを立ち直らせるために別の話題を口にした。


「ちなみにお姉様、先ほどセディ様と――」

「あ、あの、それはね? 誤解だからね?」


 本来(?)の口調で慌てふためくエーレ。態度がそれこそおとなしそうな女性のそれで、今までのエーレとは百八十度違っていたので、俺としては戸惑ってしまうくらいだ。

 シアナはエーレの態度を見てしばらく回復しそうにないと思ったのか、苦笑を伴い俺に告げた。


「ひとまず家に入ってください。お姉様は私達でどうにかしますから」

「わかった。ファールン、行こうか」

「はい」


 頷いたファールンと共に俺達は家へと歩む。その途中一度だけ振り返ると、姉を慰めるように話し掛けるシアナの姿と、それを柔らかい表情で見守るルナの姿があった。






 落ち着いた段階でエーレ達も家へと入り、具体的な話を始める。俺とファールンが隣同士に座り、エーレとシアナが向かい合う。

 で、新たなる真実についてや神魔の力について……そして原初の力についてもしっかりと話したのだが、エーレの口から最初にできた言葉は、謝罪だった。


「……本当に、ごめんなさい」

「口調がまた戻っているぞ」

「お姉様、落ち着いて」


 シアナがなだめると、エーレは我を取り戻したかコホンと一つ咳払い。


「すまない……しかし、かなり貴重な情報を手に入れたようだな」

「まあ、首謀者と直接話をしたわけだからな……こう考えると、接触したことに意味も――」

「それとこれとは話が別だ」


 バッサリと斬り捨てるエーレ。目が怖い。さっきの弱弱しい態度はどこにいった。


「奴にはきっちりと物申す必要がある……それと、資料が奴の別荘にあるのだな? 癪に障るが、取りに行かねばならないな」

「その辺は任せる……と、俺達は今後どうすればいい?」

「まずは、神魔の力がどういったものなのかを把握したい。純粋な人間の力が必要なのだとしたら私達には使えない代物なのだろうが……きちんと解析する必要はあるだろう」

「そうか。なら城に戻って……かな?」

「そうだな。シアナ、協力してくれるか?」

「もちろんです」


 頷いたシアナに対し、エーレは微笑を浮かべながらさらに続ける。


「よし。セディが手に入れた情報をまとめ、神界側と色々と話をしよう……セディ、しばらく魔王城で力の検証をしてもらいたいが、構わないか?」

「大丈夫だけど……カレン達は現在どうなっている? そっちの動向も気になるんだが」


 まだマヴァストにいるのだろうか……考えていると、エーレが答える。


「すまない、その辺りの説明をしておかなければならなかった。あなたの仲間達は全員集まり、ひとまずはマヴァストで待機を願うつもりだったんだが……ディクスがいくつか騒動を見つけたため、そちらの対応をしてもらおうかと思っている」

「対応?」

「勇者ラダンの一派の騒動だ。アイストの一件に関連したことかもしれない……ジクレイト王国からも調べて欲しいという依頼がきている。ディクス単独で行ってもいいのだが、ディクスも呼び戻そうかと考えているため、弟にやらせるのは難しい」

「だからカレン達に?」

「もちろん、最大限のバックアップはするつもりだ。ジクレイト王国側も騎士を派遣する予定だそうだから、彼らと連携して対応する」

「わかった……カレン達も放っておくつもりはないだろうし、それでいいと思う」

「本当にすまないな、セディ。仲間も間接的に利用する形となってしまって」

「カレン達なら騒動が起こったとしたら放っておくことはしないだろうしさ……それに、カレン達には申し訳ないけど、俺としては全員無事で戦い抜けるように支援してもらうことがありがたいし」

「……何かしら、これについては彼女達に報酬を支払うことにしよう」


 魔王からの報酬か……カレンが聞いたら卒倒するかもしれないな。


「さて、ここでの話し合いはこのくらいにするべきか……城に戻ろう」

「セディさん、いつでも来てね」


 ルナが言う。俺はそれに「はい」と答え――ようやくこの事件が、完全に終わりを迎えた。


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