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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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厄介者との別れ

 結局転移はアイナの魔法により行い、街へと舞い戻る。で、やはり様子は一切変わっていない。反応があるにしても、まだまだ時間が掛かるということだろう。

 俺としては一刻も早く帰るべきだと思ったのだが、ここでヴァルターと揉めることとなった。


「ファールン、離してくれよ」

「なりません。このままどこかへ去るつもりでしょう?」


 大通りで、ヴァルターとファールンが押し問答を繰り広げる。人通りも多いので今の所目立っていないのだが、あんまりこの状況が長引くと注目を集めてしまうのは間違いないだろう。

 で、ここに転移してきたことでヴァルターは早速俺達から離れようとした。それをファールンが裾を引っ張って止めているのだが……まあこの場では無茶もできないので、ファールンが止められるのも時間の問題だろうとなんとなく予想はできる。


「いやいや、俺なんていなくても大丈夫だって。というか、俺が城になんか行ったら命が無いって」

「しかし――」

「放っておけばいいんじゃないの?」


 アイナが言う。するとヴァルターは彼女に視線を送り、


「お、よくわかっているじゃないか」

「私は単に、あなたともう関わり合いになりたくないからって理由だけれど」

「……そうか」


 肩を落とすヴァルター。キツイ言い方だったので、なんだか可哀想だ。

 俺としては説得してヴァルターの行動を止めることはできないと思うし……彼が行くと言うのなら、自由にさせてもいいのではと思う。


 ただ一つ、ここにきて少しばかり訊きたいこともある。それを切り出すタイミングを窺っていたのだが……このままだと逃げられそうだ。仕方ない。


「ファールン」


 俺はまず彼女に呼び掛ける。


「少しヴァルターと話をしたいんだが、いいか?」

「……セディ様?」

「ちょっと訊きたいことがあるんだ」

「……わかりました」


 そっと手を離す。引き下がった彼女の代わりに、今度は俺が対峙する。


「話って何だ?」

「勇者ラダンの今後についてだ。何か当てがあって行動するのか?」

「そんなものはないぞ」


 胸を張るヴァルター。俺は肩をコケさせつつも、さらに質問を口にする。


「なら……行動するとして、どこまで調べたのなら俺達に連絡する?」

「原初の力がある場所や、勇者ラダンの居所とかかな。その他、有益な情報があったら、色々と情報を渡そう」

「それはどこに? さっき言っていた別荘か?」

「ああ。そこがいいな」


 ヴァルターは俺を見据える。眉をひそめていると、彼は笑みを浮かべた。


「ふむ、勇者としても実力に加え、風格もある……改めて見ると、こうやって管理を任せるに足る実力を有しているようだな」

「……急にどうした?」

「俺も一応、エーレ達の親だからな。勇者が管理に加わると聞いて、少しばかり考えもしたんだよ」


 斜に構え話す。ふむ、彼なりに心配したということなのか。


「それよりもエーレが負けたという事実も驚くべきことだったからな」

「……俺が管理に加わった経緯は知っているのか?」

「当然だ」


 城に情報を渡す魔族がいるってことなのかな?


「ま、話と人物像を聞いたところ大丈夫そうだと結論付けたわけだが……今回の戦いでさらに株を上げた。俺としては嬉しい限りだ」

「嬉しい?」

「お前になら安心してエーレを任せられるということだ」

「……任せられる?」

「管理の枠組みの中に入り、エーレに対し色々思う所はあるだろう。とはいえ、そこはやはり仕事の仕組みも知らない身。迷惑を掛けているなどと思っているだろ?」

「……事件に関わり色々と感謝されてはいるけど、管理となると役に立ってはいないからな」

「だがな、セディ。自身が思っているほど、その存在は軽いものではないぞ」

「……どういう意味だ?」

「ま、その辺りは戻ったならわかることさ」


 言うと、ヴァルターは懐から何かを取り出す……それは、青い小さな水晶球。


「ファールン、戻るにしても城ではなく、ルナの家の方がいいだろう。まずはシアナ達にも報告しないといけないだろうからな」

「それはわかっていますが……」

「とはいえ、あの場所へ正確に転移するのも難しいだろ? この水晶球にはあの場所の位置に正確に転移できる魔法が施されている。これを使うといい」

「……別の場所に転移しませんよね?」

「しないっての。信用しきれないのは間違いないだろうが、お前らをこれ以上どうこうするつもりはない。目的は果たしたからな」


 ……どこまでも信用しきれないというのは、なんだか悲しくも思えるが……俺は彼から水晶球を受け取り、さらに質問を口にする。


「エーレ達に、何か伝言はあるか?」

「無い。どうせ受け取らんだろうし」


 なんだかなぁ……けどこの親子関係に不満を持っていない様子なので、俺としては押し黙るしかないか。


「質問は終わりか?」

「まあ、そうだな」

「それじゃあこちらから二つ」


 ヴァルターは言う。


「今回の件だが、俺の事は伏せてもらえないか?」

「……いやいや、さすがにそれは――」

「な、頼む」


 手を合わせ懇願。いや、そんな態度をとられても。エーレに問われたら話すしかないと思うぞ。


「ファールンも、頼む」

「さすがにそれは承諾しかねます」

「そこをなんとか」


 と、さらに懇願する。そんな様子を見た住民が、視線を送ってくる姿が俺の視界に入る。

 む、まずいな。変に目立つのはあんまりよくない。


「わかったよ」

「お、本当か? 本当だな?」


 ……なんだか怯えた眼をしている。いや、そんなに事がバレたらやばいのか?


「もしだが……あんたの仕業だと知ったらどうなる?」

「俺を血眼になって探すだろう……俺を処刑するために」


 わなわなと震え出す……演技かもしれないが、その態度にちょっと俺もビビったのは事実。


「……わかったよ。とりあえず自発的に話すことはしない」

「よし、頼んだ。それじゃあ二つ目だが――」


 次いで彼は、俺を真っ直ぐに見据え、


「……娘達のことを、頼んだぞ」

「……どこまでやれるかわからないけど……わかった」


 頷いたヴァルターは、俺に笑みを向け――くるりと反転し背中を向けた。


「あ、待ってください!」


 ファールンが呼び掛けた直後、彼は脱兎のごとく走り出した。それはひどくドタドタとした走りで……最後の最後まで、締まらない。

 走り去る彼を見て、俺は苦笑する。


「なんだか……ま、悪者というわけではなさそうだけど」

「ああいうのを、善意の迷惑者と言うのよね」

「……単なる厄介者じゃないですか?」


 アイナに続いてファールンが零す。そう言ってしまうと身もふたもないけど……ま、結果から言えばそんな感じだろうか。


「さて、ヴァルターは逃がしてしまったけれどここでの目的は果たした。修行という形だったわけだけど……俺は力を手に入れたということで、まあ一定の成果は得た、かな?」

「大成果だったと思いますよ……私の方は収穫なしですが、神魔の力という事実を得た以上、何か対策できるヒントにはなりそうですね」

「私も、ここで戦った経験を報告し、対策を講じることにするわ」


 アイナは言う。そこで彼女は、俺に右手を差し出した。


「なんだか最後までバタバタとして落ち着いて話もできなかったけれど……これから長い付き合いとなることでしょう。よろしく」

「こちらこそ」


 握手を交わす。正直神界がどうとか聞いてみたかったけど……それについてはまた今度にしよう。


「よし、それじゃあ戻るか……って、そういえば一つだけ」

「何か?」

「本物のミュレスってどうしたんだろうな?」

「……大方、どことなりに気絶させて、ミュレス自身が陛下に報告していることでしょう。私達が消えたと」

「……ヴァルター自身がその辺りのことをしていたとしたら、これをしでかした主犯者は誰なのかエーレ達だって推測できそうだけどな」

「腐っても先代ですし、正体が露見してしまうような真似はしないのでは?」


 それもそうか……さっき話さないと約束してみたはいいけど、エーレは勘付きそうなものだけどなぁ。

 ま、あの恐怖する態度を見た以上、こっちからは話さないでおこう……心の中で決めつつ、俺達は転移するべく移動を開始した。


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