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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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巨人との攻防

 巨人が動く。鈍重そうな見た目とは裏腹な俊敏さで、俺達に狙いを定める。

 その目はどこか虚ろで、こちらに視線を向けていながら見えていないようにも思ったのだが……そもそも、ああなったルドウに意思はあるのか?


「来るぞ」


 ヴァルターが端的に告げた直後、巨人が剣を縦に振り下ろした。砦を両断しそうなその一撃に、俺は横に動こうとしたのだが、


「任せろ」


 ヴァルターは言うと、斬撃に対し右腕を掲げた。

 直後、重い音が俺の耳に届く……見れば、巨大な剣をヴァルターが右手で平然と受け止めていた。


「神魔の力か……確かにこの力ならば高位魔族だってひとたまりないかもしれないが……あいにく、俺は先代魔王なんでな」


 腕を振ると、剣が浮く。思った以上に反動があったのか、巨人は腕を引き戻すと彼を警戒し始める。


「ほう、少しは思考能力も残っているようだな……さて」


 そこでヴァルターは俺へと目を向ける。


「いけるな?」

「ああ……ちなみにヴァルターは攻撃しないのか?」

「剣に触れた感触からすると、体に近づけば近づく程神魔の力の濃度が上がっている様子……あれだけの魔力だ。おそらく心臓や頭部を狙ったとしても、力を持たない俺の攻撃はあまり通用しないだろ」


 先代魔王の攻撃すらも……となると、いよいよ厄介な相手だというのが理解できてくる。


「そういうわけでセディ。申し訳ないが攻撃面は頼むぞ」

「わかった」

「それとファールンとアイナ」


 ヴァルターは巨人を見据えながら天使と堕天使に指示を送る。


「両者は拘束系魔法を使い、セディが攻撃するタイミングで動きを止めてくれ」

「動きを、ですか?」


 問い掛けたのはファールン。それにヴァルターは深く頷き、


「あの巨人、見た目以上に素早いのは先ほどの斬撃を放った様子から想像つくだろ? で、セディが神魔の力を得ているのは、おそらくセディが攻撃を行う時点でわかるはずだ……その俊敏さで回避される可能性がある」

「それを、私達が押し留めると?」

「ダメージを与えるのは難しいだろうが、相手は人間を器にした魔力の塊で、実体がある。物理的に拘束すれば、振りほどかれるにしても隙は作れるだろ」

「……わかりました」


 ファールンが魔力を収束。次いでアイナもヴァルターの指示には従うらしく、魔力を放ち始めた。

 それに、巨人は反応――だがヴァルターが睨みを利かせたことにより、相手は警戒。


 俺もまた、魔力を剣に集め始める……俺は完全にラダンの持つ神魔の力を取得していた。これを用いれば、間違いなくルドウにダメージを与える事が可能だろう。

 そして使用するのは、古竜などにも放った白波の剣が妥当……考える間に、巨人が吠える。


 ヴァルターやファールン達の存在をその目に映し……再度剣を振り上げようとした。



「今だ!」

 そこにヴァルターの声が飛ぶ――反応したのはファールンとアイナ。両者が同時に魔法を開放し、闇の鎖が巨人の足元から生じ下半身を。そしてアイナの手先から金色の光が生じ、振り上げようとした腕を縫い止める。


 俺は、ヴァルターに言われずともわかっていた……刹那、剣を縦に振り下ろす。神魔の力を利用した白波の剣。それが真っ直ぐ巨人へと放たれ――胸部へと直撃。爆裂し大穴が開くが、それでも消滅はしない。


 巨人の悲鳴にも似た咆哮に加え、体が大きくのけぞる。このまま倒れるか――などと思ったが、巨人はどうにか堪え、魔力を噴出。

 ダメージはあったのか片膝をついたのだが―――巨人は腕を拘束するアイナの光を振り払った。


「なるほど、神魔の力はこうした魔法もあっさり押し退けると」


 理解したアイナは、魔法を解除。その間に巨人はファールンが使用する闇の鎖を空いた左腕で強引に引きちぎった。


「これが、神魔の力……」


 ファールンが呻く。それに対し、今度はヴァルターが解説を行う。


「魔力を体にまとわりつかせば相手に魔力を伴った攻撃もできるし、魔法を防ぐこともできる……魔法で戦う上で基本中の基本とも言える技法だが、神魔の力を用いるとその基本的な能力だけでも、相当な脅威ということになるんだろう。魔力を全身に加えることによってアイナとファールンの拘束をあっさりと打ち破った所を見ると、魔族や神の力の一つ上の領域に位置した力、と言えるかもしれないな」

「改めて、危険な技法だということがわかったわ」


 アイナが巨人を見下ろしながら警戒を込め発言。


「勇者セディ、準備は――できたようね」

「ああ」


 頷くと同時に、俺は再度斬撃を放つ。巨人は避ける素振りを見せない――いや、

 攻撃が届く寸前、巨人は自身の剣で俺の攻撃を弾きにかかった。双方がぶつかりあい……神魔の力によって構成されていた剣は、こちらの攻撃を受け爆裂。刀身の三分の一程を残して砕け、破片を撒き散らす。


 巨人は胸部に大穴ができ、なおかつ剣は砕かれた……それでいて膝をついている。最早手立ては……いや、その巨体で突撃でもされようものならかなり危険。俺は容赦なく、さらなる斬撃を見舞うべく神魔の力を引き出そうとした。


 だが、その時――巨人に変化が起きる。突如黒い体がまるで液体のように揺らめき始めた。


「な……!?」

「これは――」


 俺が驚きヴァルターが呟く間に、巨人の体が崩れ始める――いや、違う。それは水流のように突如渦を巻き始め、やがて地面へと収束を始めた。


「なるほど、巨体では勝てないと認識し、別の手段に舵を切ったわけか」


 ヴァルターが解説。その間に黒が完全に収束を果たし、常人程の大きさを持った漆黒の人間となる。

 顔の部分までも漆黒であり、表情などはわからない。加え、右手には先ほどと同様剣に、肩当てを始めとした防具なども身に着けている。


「……巨人としての力を凝縮たということですね」


 ファールンは言いながら構えを取る。その眼差しは、かなり険しい。

 この場にいる誰もが理解しているはずだ……先ほどの巨人の身体能力。あの力が俺の斬撃によって減らされたとはいえ、一点に集まった。先ほどと比べて、相当厄介な力を所持しているに違いない。


 そう確信した直後、漆黒の戦士が動く。跳躍をするつもりか両足を曲げた。そして、

 跳んだ。俺達のいる砦上部へ向け、一瞬で――


「おっと!」


 反応したのはヴァルター。彼は戦士の動きを見切っているのか手を振り、光を放つ。

 刹那、破裂音が周囲に響いた。どうやら戦士に当たったらしく、相手は空中で剣を盾にするように構えを取りながら、落下を始める。


「こちらの攻撃が通用しなくとも、防御はするようだ……加え、効かなくとも衝撃までは防げない」


 ヴァルターが解説する間に戦士は着地。それと同時に俺は意識を相手に集中させた。先ほどの動き、相当なものだった。気を抜けば、対応できなくなる可能性がある。


「セディ、お前は相手に剣を当てることに集中しろよ」


 ヴァルターが言う。おそらく援護はするという意志表示……俺は小さく頷きつつも、相手の速度に対応できるよう身体強化を施す。

 すると戦士はこちらの動きに応じるようにざわり、と気配を濃くした。表情がまったくわからない顔だが、ヴァルター達ではなく俺を警戒しているようにも感じられる。


 俺は相手を見据え、次にどのような攻撃をしてくるか推測してみる。神魔の力を用いて俺のように魔力による斬撃を放つか、それとも接近を試みるのか。

 その時、相手は唐突に剣を掲げた。さらに刀身から魔力が生じる。それはひどく不気味で、同じ神魔の力が宿っているのか多少疑問に思うような――


 俺は嫌な予感がした――同時、本能に身を任せ足を動かした。


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