表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/428

勇者の成果

「仕方がないな……やはり自力で他を見つけるしかないか」


 こちらが誘いを明確に断った結果、ラダンは呟く……俺はそこで、視線の鋭さを変えないまま問い掛ける。


「昨日の話からも、無駄だとわかっていたはずだが」

「未練があったというのも、また事実だよ。君ほどの力……ましてや、私の力を取得した君という存在が、昨日にも増して惜しくなっただけのことだ」


 ラダンは語ると、俺やヴァルターに目を光らせながらも、一つ質問を行った。


「……勇者セディ。一つだけ訊かせてもらえないだろうか。君のその技法……どこで手に入れた?」

「教える義理は無いし、そもそも俺は教えてもらった人物の所在もわからないんだがな」

「そうか……まあいい。その辺りもある程度推測はできているし、考慮の対象だな」


 何かする気か……? 俺が逃がすまいと一歩足を踏み出した――同時、


「君達は一つだけ……大きな失敗を犯している」


 ラダンが断言する。その言葉は確信を伴い、俺の眉をひそめさせるには十分すぎるものだった。


「この砦の中において君達に対抗できる者はいない。魔法具で身を固めていたとしても、所詮は人間の力だ。天使と堕天使。さらに先代の魔王までいる……加え、勇者セディ……君は人間だが、例外とみなすべき存在であるのは間違いない。常識的に考えて、こちらに勝ち目はないだろう」

「何が言いたい?」


 ヴァルターが問う。回りくどい言い方に対し、不審を抱いている様子。


「君達が語る通り、にらみあいを続けていれば不利になるのはこちらだろう。この状況で天使と堕天使がこの場に来たのなら、勇者セディ以外の攻撃が通用しなくとも取れる手はいくらでもある……そうなれば私の野望はここで終わり、ということになる」


 だがそうはならない……ラダンはそう語りたい様子。


「確かに現状、私達が勝つ手段はない……しかし」


 同時、咆哮が轟いた。魔物の雄叫びのような、人間的な要素が一切ない声。だが――俺は嫌な予感がした。


「一人だけ、君達の力を食い破れる人物が存在する……理解できるだろう? ルドウのことだ」

「奴が、お前と同じような力を持っていると?」


 ヴァルターの質問。対するラダンは邪気を大いに含んだ笑みを見せる。


「神魔の力……私は扉を開けられる力を持つ者を生み出すために、様々なことをやった。ルドウはその中で成功とまではいかないが、それでも十分な結果をもたらした。彼は……こちらで独自に解析した魔族と天使の魔力を、無理矢理融合させた戦士だ」

「な、に……?」


 思わず呻く。融合だと? そんなことが人為的に可能だっていうのか?


「しかし、それで完全な神魔の力を得られるほど甘くは無かった上、私の理想とは程遠いの結果だったのは事実……それでも、君達を食い止めることのできる戦力であるのは間違いない」


 ……俺は、ファールンやアイナに危険が迫っているように思えた。もし彼女達とルドウが交戦した場合――

 刹那、ラダンが動く。俺がほんの一時、それこそ力を緩めるとまではいかず、ファールン達のことを僅かに考えた時間。


 しかし彼にとってはそんな時間で十分だった。


 彼が動く。ヴァルターはいち早くそれを察した手を振った。指先から光が生まれ、それがラダンへと迫るが、相手は結界すら張らずその身に光を受けた。けれど、無傷。

 俺も即座に対応したが――剣が届く前に、ラダンが持つ魔法具が光を放つ。


「勇者セディ、頑張ってくれ」


 そんな言葉を残し――ラダンは、俺の目の前から姿を消した。

 失態――途端に後悔が湧き上がる。


「くっ……!」

「落ち着け」


 怒りで悪態をつきそうになる俺に、ヴァルターは冷静に告げる。


「ひとまず、ルドウという人物の所に行くぞ。森まで吹き飛ばしたはずだが、ラダンの説明や先ほどの雄叫びからすると、倒せてはいないようだからな」


 淡々と言うヴァルターに対し、俺は怒りを押し殺し頷き移動を始める。


 部屋を出た直後、再度咆哮と廊下に人が倒れているのが目についた。おそらくヴァルターが倒したのだと推測しつつ、次に壁に穴が開いていることに気付く。

 ヴァルターがルドウを吹き飛ばした場所なのだろう……考えつつ俺はそこから外を見て――


「な……」


 呻いた。目の前に、砦をも越えるような背丈を持つ、漆黒の巨人がいた。

 全身が黒で覆われており、さらに同じような色合いをした剣を握り立っていた。


「なるほど、あれがルドウなのか」


 横でヴァルターが声を上げる。それに俺は彼に首を向け、


「あれが……!?」

「天使と魔族の魔力を融合したとラダンは語っていただろ? その力を解放した結果、ああした形になったんだろ。ルドウそのものがああした姿になったのか、それとも魔力を増大させただけで人間の形はそのままなのかわからないが……ともかく、倒さなければ戦いは終わりじゃないというわけだ」


 俺は頷くが、頭の位置が砦上階にいる俺達よりも高い。この大きさとなると周辺の木々からも頭の部分が出ており、もしかすると周辺にいる旅人や騎士が気付いているかもしれない……そうなれば大事になる。できるだけ速やかに倒さないと。


 そう思考した時、ヴァルターがさらに語る。


「応援を呼んだしても、神魔の力を持たなければ大した戦力にならないかもしれないな……加え、多少ながら時間もかかる。放っておけば大変なことになるだろうし、俺達で倒したいところだな」

「あれだけの大きさ……対処できるのか?」

「神魔の力においては、ラダンよりも下だろ? なら、十分勝てる――」


 言い掛けた時、頭部についている濁った赤い瞳が、俺達を向いた。どうするのかと思った矢先、ルドウは剣を掲げ、横薙ぎの体勢に入る。


「ちょっと待て――」


 俺は思わず声を上げる。刹那、豪快に剣戟が放たれた。

 ここには気絶し倒れる仲間もいるのに――思いながら俺は地面に伏せた。直後壁を砕くルドウの剣戟と、相変わらず平然と立つヴァルターの姿。


「おい――!?」

「心配するな。このくらいは防げる」


 こちらの驚愕の声に対し、剣が壁を壊しながら迫る……ヴァルターの体なんてあっさりと両断しそうな巨人の剣だったが、彼はあろうことか左腕をかざし、刃と衝突した。


 轟音と共に剣の動きが止まる。押し留めた。


「見た目に騙されるな、おそらくセディだって、この攻撃は防げたはずだぞ」


 語ったヴァルターは、俺に首を向け続ける。


「セディ、これからのことはこいつを倒してから考えることにしようじゃないか」

「……ああ、そうだな」


 彼の言葉に俺は同意しつつ、立ち上がる。その間に巨人は剣を引き、またも咆哮。


「――セディ様!」


 そこに、ファールンの声。見ると階下から彼女とアイナが伴って近寄ってくる姿が。


「ご無事ですか!?」

「どうにか、な。他の敵は?」

「全員気絶させ、魔法による拘束を行っています……この場にいる人達にも同様の処置を」


 ファールンは言うとテキパキを作業を開始。対するアイナは巨人を見据え、小さく息を漏らした。


「厄介な相手ね。魔力もかなり保有している雰囲気だし……」

「ラダンによると神魔の力を所持しているらしいが、俺でも攻撃は受け止められた。結界さえ張れば俺達で斬撃は防げる」

「なるほど。で、攻撃は?」

「セディ、いけるか?」

「……そうだな」


 斬撃をヴァルター自身防いだ以上、彼らの攻撃がまったく効かないというわけではないだろう。だが一番効果的なのは、俺の放つ攻撃であるのは間違いない。


「やるしかないな……援護は頼む」

「任せておけ」


 笑みを浮かべるヴァルター。先代魔王ということで頼もしくもあったが、ここまで結構なトラブルを招いた経緯を考えると、素直に頷くことができないのも、また事実だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ