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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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禁忌の存在

「退くか?」


 ラダンが問う。俺は相手を見返しながら沈黙。


「まあ君としては相当な戦果を得た以上……至極当然だろうな」


 あくまで彼は淡々とした口調……別に相手の驚く顔が見たいわけではなかったが、ここまで冷静に対応をされると変に苛立ってしまう自分がいる。


「決断は早くした方がいいな。聞こえているだろうが私の味方が来ようとしている。あの中でルドウは、神魔の力を手にした君であっても相当厄介な――」


 告げた直後、轟音が耳に響いた。しかし背後の扉が破壊されるような音ではない。それはいわば、扉の向こう側で爆発が生じた――


「何?」


 ラダンが眉をひそめた。同時、豪快な音と共に扉が開け放たれる。


「よう、待ったか?」


 ルドウではなかった……振り返らなくてもわかる――ヴァルターだ。


「ほう、君か……ルドウはどうした?」

「用を足しに森に行ってるよ。当分は戻ってこないんじゃないか?」


 冗談めかしく言う間に、ラダンは俺の後方を見据え――


「ほう、ルドウを一撃で砦の外まで吹き飛ばしたか。ご苦労なことだ」

「あいつは俺の目から見ても面倒な相手だったからな。俺がしこたまぶん殴ったから、しばらくは動けないはずだぞ」

「……ふむ、どうやら君も中々の使い手らしい。君の名は私が知り合いの魔族からも情報は出なかった……が、相当の技量を持っているということか」

「そういうことだ……俺の名はそれこそ、大いなる真実を知る者以外は名を魔法により抹消されているからな。わからなくて当然だ」

「……何をしたんだお前は」


 それほどのことをする以上、ラダンが言った通り暴君だったのだろうか……するとヴァルターは笑い声を上げ、


「さすがに魔族全員に悪戯をするという目標を掲げられては……権利をはく奪せざるを得なかったというわけだ。ふははは!」


 ……こいつは本物の馬鹿だ。高笑いをするヴァルターに対し脱力しそうになりながら、俺はラダンを警戒する。


「大いなる真実を知る者は、君の名を知る権利があるのか?」

「大方全員が忘れるのは危険だと思い、もしもの場合俺を捕らえるために残しておいたといったところだろうな……ま、記憶消去が今回役に立ったという感じだな」


 ヴァルターは笑みを見せ、ラダンに告げる。


「……俺は一つ懸念を抱いていた。大いなる真実の管理は完全ではない。もしかすると大いなる真実を知らない者達が結託し、反乱を起こそうなどと考えかねない……そう思った俺は、大いなる真実を知らない魔族が俺のことを知らない事実を利用し、一介の魔族として接近。色々見回っていたというわけだ」

「ほう……嫌われるようにしたのは、懸念を抱いたためわざとしたというのか?」

「いや、そこは俺がやらかしただけなんだが」


 締まらない……が、そういう立場に陥ったからこそ色々動こうと思ったわけか。


「ま、そういうわけで俺は活動していたわけだが……結果として良かったと思っている。何せ、お前という存在が釣り針に引っ掛かったからな」

「ふむ、そうか……私もあまり過程を気にしない性質でね。そう言われてしまうとこちらはしてやられたという他ない……ところで」


 と、ラダンは剣を俺達に向けながら問う。


「ヴァルター、君はどういう存在だ? 口上からすると上の立場にいた者のようだが」

「言ってやれ、セディ」

「……先代魔王だよ」


 言っていいのかと一瞬だけ躊躇した後、口にする。するとラダンは苦笑。


「……大変興味深いな。先代魔王が忘れ去られてしまう程までのことをしでかすとなると……暴君と呼ぶにふさわしい」

「暴君って言葉は嫌いだなぁ。せめて悪戯野郎とか、変態とかにしてくれよ」


 ……緊張感が無くなる。俺はどうにか気を奮い立たせていると、ラダンは哄笑を上げた。


「なるほどなるほど……面白い。これもまた私が知らなかった一つの真実だろうな」

「納得するのか?」

「私は見たものを信じられないなどと一蹴する程愚かではないよ……さて、ならば一つ質問したい。私が話したことを勇者セディから聞いたはずだ。どう思った?」

「まあ、全てを支配し平和にするなんて手法は、理論的にはありえなくないな。俺としてはそれもまた一つの意見だろうとは思う。だが」


 と、ヴァルターは斜に構え、言う。


「お前に支配されるのは嫌だな」

「……それもまた、一つの答えだな」


 笑いを収めたラダンは、次いで俺を見据えた。


「どうやらこの世界には、私が思っているよりも遥かに意外なことがまだまだ眠っているようだ……さて、話はこれくらいにしようじゃないか」

「逃げる気か?」


 ヴァルターは言うと一歩前に出る。


「転移する気配を見せたら、迷わず妨害するぞ?」

「できるのものなら、な」

「ハッタリだと思っているのか? セディと俺さえいればどうとでもなるぞ?」


 絶対の自身を持ってヴァルターは言う……その時、砦のどこからかから爆音が聞こえた。


「……ふむ、交戦しているようだな」


 ラダンは大して表情を変えないまま呟く。


「おそらく、捕らえた天使と堕天使だな」

「ご名答」


 不敵な笑みを浮かべ、ヴァルターは応じる。


「セディを呼んで話をしている隙に、こっちはこっちで色々とやらせてもらったというわけだ……今のは彼女達のせいではなく、攻撃されていることを気付かせる戦士の仕業だろう。気配を殺し、暗殺でもするように倒していけと指示したからな」


 そこまで言うとヴァルターは、ラダンに対し警告する。


「さて……余裕の表情をしているようで、内心セディと相対し何かしら思う所がある様子だな……このままセディと戦えば危ないと感じているようだ……そんな状況で逃がすと思うのか?」

「さすが先代魔王とでも言うべきか……ただ一つ言っておくが、決して恐れているわけではないさ」

「言ってろよ」


 ヴァルターはさらに一歩進む。だがラダンの表情は崩れない。


 猛攻を仕掛けたとしても、ヴァルターの攻撃は通用しない。ラダンにとってみれば俺の攻撃に警戒すればいいだけの話で、対処自体はそれほど難しくない。

 そして、俺の攻撃であってもラダンならば受け止めるだろうが……ヴァルターの介入によって突破できる可能性もゼロではない。相手もそれをわかっているからこそ今均衡を保ってはいるが――彼が逃げ出すのは時間の問題と言ってもよかった。


「――勇者、セディ」


 そこでラダンは俺の名を口にする。


「その力、魔王や神々に提示できれば解析することは十分可能だろう……となれば、解明できる日も近い。だがここで重要なのは、この力を使用できる資格のある存在だ。魔族や神では一切できない。つまり、君と同じように純粋な人間が必要となる」


 ラダンはそこで、小さく肩をすくめる。


「君ほどの力を所持する人物が、世界にどれほどいるのか……だがどちらにせよ、大いなる真実に関わる存在ではないだろう。魔王や神は統治する存在以外には真実を広めようとしなかった。つまり君達は『原初の力』を得るにしても、まず大いなる真実を伝えるところから始めなければならない」


 目を細めるラダン……彼の言葉は、俺を諭すようなもの。


「それがひどくリスクのある行為なのはわかるだろう? 加え、本当に当該の人物が君ほどの力を得ることができるのかもわからない。つまり、確実に『原初の力』を得る……というより、その力に触れるためには、私と共に行動するべきだ」


 いけしゃあしゃあと語るラダン。俺は鋭い視線を彼を見返しつつ、話を聞く。


「今ならばまだ間に合う……もし君が協力してくれるのなら、契約などについても考慮することを約束しよう。私は『原初の力』を手にすれば雌雄を決してもよいと考えている。私と同じ力を得た勇者セディ……もう一度問う。私と共に力を手に入れたくはないか?」

「まったく、ないな」


 断言。するとラダンは残念そうに息をついた。


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