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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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勇者対峙

 明確に俺のラダンに宣言し、刀身に爆発的な魔力を集め、振り抜いた。それにラダンは即座に対抗。

 身体強化に加え荒々しい斬撃……結果、ラダンの剣は弾かれる。彼は挙動を見て目を細める。感心しているような素振りだ。


「君は実に惜しい……だが、それでは私に届かない」


 勝てる可能性はないとでも言いたげなラダン……彼の語ったことが事実ならば、現段階で俺はラダンに傷を負わせることは難しい。

 いや……神魔の力を自在に操っているとなれば、彼は魔王や神とも十分渡り合える力を持っていると言える。それは――


「……一つ、訊きたい」


 俺は相手を真っ直ぐ見据え、問い掛ける。


「その神魔の力とやらをもってすれば……『原初の力』なんて用いることもなく、世界を手中に収めることは可能なんじゃないのか?」

「魔王や神を倒して、か? 確かに不可能ではないだろうな。だが、それでは支配者になることはできん」


 切って捨てるような発言だった。


「力をどれだけ手にしたとしても……魔王や神を倒したとしても、それはただそうした者達を滅ぼすことのできる力を得た、という事実を得たに過ぎん。勇者セディ、その点は君も理解しているはずだ」

「――最強は、全知全能ではない」


 以前エーレから言われたことを口に出す。するとラダンは首肯した。


「だからこそ、私は『原初の力』を追い求める。それに、魔王や神には神魔の力を持つ私に対しいくらでもやりようはあるだろう……私はあくまで、彼らに追い詰められないようにしなければ」

「……つまり、俺と話し合った以上、身を隠すのか?」


 こちらの問い掛けに、彼は再度頷いた。


「そう。つまりこうして対峙できる好機は、今しかないというわけだ」


 両手を左右に広げる。来いと言わんばかりの所作。


 今の俺相手ならば、勝てる自信が大いにあるということか……ここで、ヴァルターのことを思い浮かべる。彼の力があればどうにかすることも、十分可能ではないか。

 神魔の力が魔王や神の攻撃そのものを防げたとしても、彼は人間である以上魔力量にも限界がある。猛攻を仕掛け続ければいずれ疲弊し、勝利できるかもしれない。


「――君の考えが手に取るようにわかるぞ」


 ヴァルターは言う。それと同時に、彼は机の上から何かを手に取った。それは、金細工のペンダント。


「先ほど私は魔王や神にやりようはいくらでもあると言った……物量作戦がその一例だ。私は人間である以上、魔王や神の存在のように膨大な力で攻められれば負けるだろう」

「自覚はあるんだな」

「当然だ。だが、私が魔王や神を滅ぼせる力があることも、君は理解しているはずだ」


 ラダンはペンダントを揺らしながら、俺に告げる。


「君はこう考えている……味方である天使達を呼び寄せればいいと。確かに彼女達の能力ならば、私を魔力という物量で押し切ることも可能だろう。加え、ヴァルターの存在……牢で会話をした以上、彼は大いなる真実の枠組み……内通者だろう。彼の協力もあれば、さらに可能性は高くなる」

「……ヴァルターのことを推察しておいて、何もしないんだな」

「正直、今まで対峙してきた魔族と雰囲気が違っていたため、何かしら近づく理由があるとは思っていた。なおかつ内通者であっても構わないと思っていた……魔王と謁見することは勘弁願いたかったが、逃げる手段もあったし彼が私の要望を聞き入れてくれるとわかったため、泳がせたまでだ」

「なるほど……で、逃げる手段とはそのペンダントか?」

「そうだ」


 よく見るとペンダントには魔力が存在している……転移を行う魔法具だろうな。

 そうした物は非常に希少性が高いのだが……彼ならば持っていてもおかしくない。


「逃げることは余裕でできる。神魔の力で相手の攻撃を押し留めている間にこの魔法具を使えばいい」


 そこで俺は、一つ思いつく。煉獄の聖炎ならば、転移封じができるのでは――


「何か仕掛けるか?」


 ペンダントを揺らす……それを見据えていると、ラダンが持っているからなのか神魔の力を湛えているようにも感じられる。


「……魔法具に、神魔の力を叩き込んだのか?」

「より正確に言えば、私の力をそのまま封じ込め魔法を発動する物だ」


 だとすれば、聖炎も通用しない可能性が高い……おそらくここで踵を返せば、彼は転移し逃げ去るだろう。


「さて……どうする?」


 問い掛けるラダン……俺は、決断を迫られる形となった。


 静寂が、室内に満ちる。俺とラダンは向かい合い、双方剣を握り締め相対するという形。

 俺の全力は通用しなかった。やはり神魔の力という点においては、目の前の相手と俺の間には差が存在する。


 けれど……退く気は無かった。勝てる可能性は皆無と言っても良いだろう。しかし、目の前の諸悪の根源をこのまま逃がすわけにはいかない。


「君自身がさらに強くなってくれることは、非常に喜ばしい」


 そうした中でラダンは語る。


「だが君の考えは、支配に傾いていない……それはいずれ君の力が必要としなくなる世界が訪れることを意味している」


 俺は眉をひそめる。一体何が言いたい?


「勇者とは、その存在価値が矛盾の塊であると私は考えている……大いなる真実を知らなくとも、彼らは魔物が出現するが故に。さらに魔族が存在するが故に価値がある。君の理想の世界が達成されれば、勇者の存在価値は低くなるだろう。そうなれば当然君は――」

「正直、俺が生きている間に達成できるとは思えないけどな」


 ラダンの言葉を遮るように言うと、彼は「ふむ」と一言呟く。


「君は、遠くの未来に対してまで考慮に入れているというわけか……なるほどな。その覚悟は確固たるものらしい」


 俺はもう一度刀身に魔力を込める。ラダンに全力の剣戟は通用しなかった。ならば次は――


「どう足掻こうとも、今の君に私を討つことはできないだろう」


 断定だった。対する俺は魔力を維持することで彼に応じる。


「あきらめてはいないようだが……抵抗するだけ無駄だとは思うが」


 その時、俺は彼の言葉を聞いて、


「――ふ」


 思わず、笑いが零れた。するとラダンは顔を歪め、


「なぜ笑う?」

「いや……あんたが、今まで遭遇してきた魔族みたいなことを言うもんだから、な」


 これ以上は無駄、抵抗に意味はない――そんな文言、幾度となく俺は聞かされてきた。


「そういえば……そうだな、俺はいつだって、強大な相手立ち向かってきた」


 勇者として戦っていた頃……今の俺からすれば無知と呼んでも差し支えないくらいのヒヨっ子だった時――復讐という理由はあれど、俺は立ち向かい続けてきた。


 エーレやシアナ達からだって勇者だと言われ続けていた。けれど俺は、勇者としての本質を世界管理に身を投じ結果見失っていたのかもしれない。


「……とても、重要なことを忘れていたよ」

「何?」

「俺は、勇者だ」


 エーレに対しても、俺は言った……あの時俺は勇者である以上色々な人々のために、という意志で選択を行った。その時と同じだ。


 だから――俺は勇者として、彼に告げる。


「お前の謀略により苦しむ人々がいる。そしてお前は、やがて世界全てをそのようにしようとしている」

「そうかもしれないな」


 同意するラダン……俺はもう、苛立ちを感じることはなかった。

 代わりに、俺の中には明確な決意が生まれた……グダグダ考えるのはもうやめだ。今はただ――目の前の敵を倒す。


「だが、どうする? 君にとって手立てはないも同然のはずだが?」


 ラダンが問う……確かに神魔の力を手にしている相手に対し、不完全な俺の力では通用しないようだ……しかし、手が無いわけではなかった。


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