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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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無茶苦茶な存在

「は……?」


 俺は思わずヴァルター……先代魔王を見やる。

 ファールンはあっさりと先代魔王などと言ったが……わけがわからない。偽物などという可能性も頭にチラつきつつ、もし本物ならばなぜこんな所にいる?


 思考する間に、ファールンの言葉を聞いたヴァルターは突如胸を張った。


「そういうことだ」


 自信ありげに言う彼なのだが、俺としては信じられない。


「本物なの……?」


 俺と同じ考えらしいアイナが疑問を呟く。


「先代魔王様当人だと考えて、よろしいかと」


 しかしその中でファールンだけは断定しつつ立ち上がる。けれど俺はにわかに信じられず、彼女に問う。


「えっと、ファールン……本当なのか?」

「間違いないかと」

「……根拠は?」

「どのような立ち位置の魔族であれ、ヴァルターという名前だけは決して、騙るようなことはしません……もし同胞と出会ったならば、畜生にも劣るような目で見られてしまうので」


 ……一体こいつは何をやったんだ。先代魔王ってことは、どの程度の期間かわからないけど魔界を支配していたんだよな? そんな身分の魔族が、そこまで落ちぶれるというのは一体どういうことだ?


 内心の疑問を他所に、ファールンはさらに語る。


「先代魔王を騙ること自体が重罪ではありますが、現状ではほぼ無実化しています。なぜなら先代魔王の名を騙ること自体、魔族にとっては狂っていると思われるので……そうでなければ先代魔王その方以外に名を口にすることは……」

「ファールン、悪いけど根拠になっていないんだが」

「いやいや、俺は本物だぞ」


 さっぱりとした口調で述べるヴァルター。ファールンの口上からその名を騙ること自体相当勇気がいる行為だとはわかるのだが、それだけで本物だと断定するのは――


「ならば、俺の方から証明してやろう」


 ヴァルターが言う。それに俺は首を傾げ、


「証明?」

「ここで通常の魔族ならば知らない情報を言えれば、証明されるだろう?」

「まあ、そうだな」

「よし、では説明してやろう……現魔王かつ私の娘であるエーレは、体術を使用するため普段はサラシを巻いており、ドレス姿で見ているよりも胸が大きいぞ」


 ……体術を使用する辺りで止めておいてもいいと思うんだが。


「後は、そうだな……次女のシアナについては城の縁の下を支えている……後は、料理が趣味だ。最近は相当上手くなったが、最初はそれはもうひどかった。食べたら爆発するクッキーとかだったからな。最早料理じゃなかった」


 なんか身内の黒歴史みたいなのを語り始めているし……俺としては困惑する他なく、その間に彼は続ける。


「妻であるルナについては、実は釣りが趣味なんだが……大のゲテモノ好きで、客人が来なければ気色悪い魚しか食べん」

「……その辺りで止めた方がいいんじゃないか?」


 不安になって提案してみると、ヴァルターは「そうか?」と応じる。


「まだまだ言えるぞ?」

「……あなたの親族とか奥さんの名前が出たんで、まあ信用する」

「そうかそうか。で、どう脱出する?」


 さらに提案。性急な態度に俺としてはため息をつく以外の選択肢がない。


「……私、なぜ先代魔王が腫物のように扱われているのか、改めて理解しました」

「神様にこんなのがいたら私は堕天すると思うわ」


 ファールンがため息を吐き、なおかつアイナが至極真面目な顔で語り……俺は肩を落とした。


「……で、ヴァルター」

「どうした?」

「根本的な質問なんだが、あんたはどういう経緯でこんなところにいるんだ? ここは、敵陣だぞ?」

「俺は自分なりに色々と調査をしているんだよ」

「調査……単独で?」

「誰かを呼ぼうにも、無視されるからな」


 ひどいな、それ……先代魔王なのに魔族達は全員シカトなのか。

 どれだけ酷かったんだろうか、彼の治世は……ちょっと興味あったが、俺はそれを押し殺しさらに質問を行う。


「調査はわかったんだが、何で先代魔王のあんたが?」

「俺なりに娘の負担を軽くしてやろうと。ほら、セディも修行とか相手の目的が知れてよかっただろ?」


 正直良いとは言えないし、現状はエーレの負担を重くしていると思うんだが……まあ、ラダンと直接話すという経験はできたわけだし、このまま何事もなく脱出できれば最終的には良い結果と言えるか……でも、過程が無茶苦茶なんだよな。よりにもよっていきなり首謀者と引き合わせるんだから。

 エーレ達もこんな行動をする彼を身内の恥だと思っているんだろうな。俺達を半ば罠にはめていきなり首謀者の所まで連れてくるような破天荒な行動をする存在だ。きっとエーレ達も会わせたくなかっただろう。


「……えっと、ヴァルター。確認だけど、俺が色々と事情を説明する時間はあるのか?」


 色々言いたいことはあったが――俺はひとまず、話を本題に戻すことにする。


「今も、牢の扉が開いて誰かが襲い掛かって来てもおかしくない……そもそも、あんたが俺をこんな所に連れてきていいのか?」

「大丈夫だろ。咎められるとしたら俺達が牢屋に入ろうとした時点で止められている……まあ」


 と、ヴァルターはどこか意味深な笑みを浮かべた。


「俺達の行動を、ラダンはわざと見逃している節もあるが」


 ――この行動もまた、彼にとって利益になるということか。どう転んでも、力を手にした人物が現れればいいのだから、当然か……わかっていて見逃していると解釈した方がよさそうだ。


「――え?」


 その時、ファールンが声を上げる。


「え、あの……ラダン、と申されましたか?」

「ん? ああ、そうだが」

「あの……ひょっとして」

「ヴァルター、もしかして彼女達に何も話していないのか?」

「そりゃそうだ。だって捕まえてからここで初めて会ったわけだし」

「なんだよそれ……」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 脱力する俺に対し、牢の中でファールン達が喚き始める。


「こ、ここに勇者ラダンが!?」

「ああ、そうだ」

「じゃあそいつを倒せば私達の勝ち?」

「そうは言うが天使アイナ……俺の目から見ても奴には隙がない。しかも何か変わった力も持っている。今は下手に手は出さない方がいいぞ」

「それよりもヴァルター様! これ、陛下には許可を取ったんですか!?」

「いや、取ってないぞ。当たり前じゃないか」


 ……俺としては推測できていた結論なので何とも思わなかったが、一方のファールンは、がっくりと肩を落としまたも崩れ落ちた。


「……今頃大騒ぎしていますよ」

「そうだろうな。血眼になってお前達のことを探しているだろう。早く戻らないと」


 すごく他人事のように語っているなぁ、こいつ……彼の手引きを受け脱出すること自体不安に思えるんだが。

 ま、とりあえず言いたいことはあるが、ここは話を進めよう。


「えっと……大分話が逸れたけど、戻すよ。俺は砦の中に入り、勇者ラダンと話をした……それについて今から語るけど」


 そう言いつつヴァルターを見る。


「そっちは知らないのか?」

「さっきも言ったが、ガードが固くてね」

「わかった……それじゃあ今から話すことを、しかと聞いてくれ」


 ――そして俺は、ヴァルター達にラダンから聞かされた詳細を語った。


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