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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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勇者の提案

 マヴァスト王国での戦いで、俺は勇者ラダンに荷担する天使ヴランジェシスに遭遇。彼に対し、シアナの魔法具を用いて傷を与えた。


「二つの力を使わなければいけない理由は……手記においても読み取れないが、おそらく好き勝手するべきではないという自戒の意味合いがあったのかもしれない」


 ラダンは語る。そこで俺は彼に問い掛けた。


「つまり……お前は大いなる真実を知り、女神の武具と魔族の魔法具を得ていたため、入れたと?」

「そういうことだ」

「……その遺跡はどこにある?」

「さすがに、それは話すわけにはいかないな」


 ラダンは口の端を僅かに歪める。それを聞き出せば……といったところだが、今の俺では信用させるのは無理か。


「付け加えて言うと、私なりにその場所には細工をしてある。魔王や神ですら、その場所を認識することはできんよ……二つの力がいるしな」

「誰にも見つけられないと?」

「そうだ」


 絶対の自信を持ってラダンは頷く……それが本当なのかはわからない。エーレ達にこれを伝え調べさせるべきか。

 そして彼の言う通り二つの力が必要だとしても、神と魔王が共に立てば遺跡を見つければ入れるんじゃないか――


「君の考えていることがわかるぞ。魔族と神々を連れてこれば、と考えているな? だがそれは無理だ。もう一つ、条件がいるからな」

「条件?」

「神と魔の力ではない第三の力……純粋な人間そのものの魔力がいる。つまり、その遺跡に入ることができるのは、私や君といった人間だけだ」


 告げると、ラダンは小さく息をついた。


「さらに言えば、その遺跡内にもそうした力が張り巡らされており……おそらく、どちらか片方の力しか持っていない者は、弾かれるか力を大幅に制限されるか、といったところか」


 つまりそこに到達した場合、現時点で戦えるのは俺だけということか? ファールンだって堕天使である以上、おそらく無理だろう。


「加え……もう一つ、条件がいるのだ。だからこそ私は遺跡に入っても原初の力を手にすることはできなかった」

「……それは?」


 問い掛ける俺。するとラダンは肩をすくめ、


「原初の力の『扉』を開くためには、兄弟のように驚異的な力と……もう一人、力を注ぐ者が必要だった」

「二人、必要ってことか?」

「まさしく。兄弟が二人で封印したことにより、最も重要な部分は二人掛かりにしたのかもしれない。あるいは片方がその力を勝手に行使しないよう、抑止の意味があったのかもしれない」


 ラダンは頷く……そうか、だからこそ――


「君のことは、ヴァルターから聞いた」


 ヴァルター……聞き慣れない名前だったのだが、すぐにミュレスの本名だと悟る。


「こちらの傘下に加えた天使をも倒した……それはどうやら魔族の魔法具を所持していたから、だそうだな。それも関係しているだろうが、おそらく人間としての力も組み合わさり、そうした結果がもたらされたのだろう……そして今、私は君を目の前にして確信した」


 ラダンは俺に対し微笑さえ浮かべ、告げた。


「君は、私と同様……神魔の力と、奴らに比肩する力を持っている。間違いなく『扉』を開くことのできる資質がある」

「……お前と、それを開けると?」

「そうだ」


 断定。途端俺は顔を険しくする。


「それで納得すると思うのか?」

「原初の力があれば、死んだ人間でさえも容易に復活させることができる」

「それが答えだと?」


 無意識の内に拳を握りしめる……こいつは、元通りにできるからと好き勝手に世界を振り回そうとしている。


「納得できないのは理解しているよ。しかし、私達の活動により君という存在が現れた……君が加わってくれれば、全てが報われるのだよ」

「お前――」

「破壊と荒廃の果てに未来がある。そう思わないか?」


 ――その言葉に、俺は一時言葉を失くした。


 マヴァスト王国首都で、天使ヴランジェシスが語っていた言葉そのものだった。


「……その言葉」

「原初の力については誰にも話していない……だが、この言葉自体は私もよく使っているな」


 ――大いなる真実を教え、勧誘し、最後に告げるのかその言葉というわけか。

 こうして聞けばいかにも安っぽいセリフのように思えてしまうが……ラダンには、確証がある。今こうして破壊を行っているが……その先には、原初の力という絶対的な未来がある。


 彼にとってその言葉は、紛れもなく真実というわけだ。


 とはいえ、解せないことはたくさんある。協力するしない以前に、疑問点がかなり多い。


「質問は受け付けようじゃないか」


 そんな心情を読み取ったラダンは提案。俺は内心その言い方に苛立ったりもしたが――


「……俺が、今のことをお前の味方に話す可能性は考慮していないのか?」


 問い掛けに、ラダンは反応しない。だからこそ、さらに続ける。


「お前自身、これだけ人を雇い大所帯となっている以上、あんたの意に沿わない人間だっているはずだ……今はそれなりに連帯しているようだが、お前の本当の目的に納得がいかない者だって――」

「構わないさ」


 一言。それだけで、俺は口が止まる。


「最初から、私にとって味方はいない。そもそも現在、私の意にそぐわないやり方で戦乱を拡大する者……言ってみれば私利私欲のために動いている者も数多くいるくらいだ」


 平然と語るラダン。


「むしろ、私を邪魔立てするような人間も現れ始めた。もし良ければ君に倒してもらいたいな……さすがに身内を自身の手で切るのは、余計な面倒事を引き起こしかねないからな」


 ――ふざけた言動をするラダン。こちらが睨む中、彼はさらに続ける。


「そして君が先ほど告げたことを公にしてもらった方が、さらなる戦乱が起きるだろう。君を通し魔王や神に告げれば、神界も魔界も裏切者の処分のために戦いを始めるだろう」


 ラダンは表情を変えず……いや、少しばかり喜悦を滲ませながら語る。


「遺跡で原初の力に触れようと思った時、二人の力が必要だとしても、『扉』を開くにはまだ力が足りないと感じた……私はさらに強くならなければならない。それについては手法も確立しているが……もう一人、パートナーが力を得るには、さらなる戦乱を呼び込む必要がある」

「……つまり、お前と対になる人間の到来を、戦乱の中に見出そうとしているのか?」

「そうだ。戦いは人を強くする」

「……そこまで語って、なぜ俺がお前の要求を飲むと思っているんだ?」

「条件は無論ある。人間だからこそ、こういう魔法具が通用する」


 言って、彼は机の引き出しを漁り、二つの腕輪を取り出した。


「相互に攻撃ができなくなるという魔法具だ。神や魔王ならばさすがにこの魔法具で拘束できないが、人間という器ならばそれもできる」

「それを使うと?」

「できれば私の指示を聞く傀儡となる人物の方が望ましいが……この魔法具は拘束力が強い分制約も多くてね。無理強いするなどできないのだよ」


 俺は魔法具を見据え、思わずそれを叩き壊したくなった……とはいえラダンは油断なく俺を見据えている。とてもじゃないが、そんな目論見は看破しているだろうし、無理だろう。


「とはいえ、この条件さえ受け入れてもらえれば、君もこの力を受けることができるだろう。全てを捨ててでも価値があると思わないか?」


 それ以前の問題――と答えたかったが、俺は何も言わず相手を見据える。


 ある程度理解できた……こいつは『扉』を開ける存在さえ出てくれば戦いがどうなろうと構わないわけだ。核心的な情報を俺に公開したが……誰かにその情報を与える方が、ラダンが望む未来へ進む可能性が高い。

 とはいえ、このまま見過ごしていては俺以外にラダンが望む人間が現れる可能性もある……捨て置くわけにもいかない。


 俺はじっとラダンを見据える。少なくとも寿命は当に果てているはずの彼は、こうして生きている。延命処置を色々とやっているのはわかるが……さすがに、寿命を待つというわけにもいかないだろうな。


「さて、回答を聞こうじゃないか」


 ラダンは語る……が、答えを予測しきっているといった雰囲気。

 だから俺は、ありったけの敵意を込めて相手に返答する。


「お断りだ」

「それなら、仕方がないな……とはいえ君をこのまま返すのも示しがつかない。少しばかり、頭を冷やしてもらおう」


 ラダンは言う。俺はそこでファールンとアイナの姿を思い出す。


「天使と堕天使のお二方は牢屋にいる。現状手出しするつもりもない。だが君が逃げ出したならば……わかるだろ?」

「そうまでして、俺を引き入れたいのか?」

「長きに渡り私はこの計画に身を投じてきた……そして今、こうして『扉』を開く存在と出会えた……君自身は私の計略と関係の無い場で力を得たようだが、それでも私がこうして計画に従事していたからこそ、出会えたと信じている」


 勝手なことを……沈黙を守っていると、ラダンは俺にささやきかけるように話す。


「私としては、発見した君という存在をそう簡単に手放したくはないというわけだ……期限を特に設けるつもりもない。ゆっくりとここに逗留し、結論を出してくれ」


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