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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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原初の力

「一つ目は、このまま何も知らないフリをして過ごす……つまり、大いなる真実自体を墓まで持っていくこと」


 ……俺の目の前に敵としている以上、その選択は取らなかったわけだ。


「二つ目は、大いなる真実を知る別の王族などに話を持ち掛けること。いわば交渉してその枠組みに参加しようと思った」

「認められると思ったのか? 一度、天使に記憶を改ざんさせられているんだろ?」

「ああ。だからそれが認められる可能性は限りなく低いと思ったためこの選択も外した」


 ラダンは俺と目を合わせ……こちらの心の内を探るように目を光らせ、さらに語る。


「そして三つ目……神や魔王に反逆することだ」


 俺は黙って相手を見据える。するとラダンは笑った。


「君は、私がその選択を取ったと思っているだろう」

「……違うと言うのか?」

「傍から見れば、私の現在はそうとしか見えんのは事実だ……だが私のやっていることは、目的へ至る過程でしかない」

「お前はこの戦いの先にある何かを求めているということか?」

「そうだ。またそれは、君にも大いに関係している」


 俺に……? 意味が分からず不審の目を向けると、ラダンは改めて話し出した。


「さて、その辺りのことを話そうじゃないか。私は大いなる真実を知って以後、ひとまず結論を保留にして調べ始めた。選択するには情報が少なすぎると思ったからな。だがそうした文献は一切見つからなかった……もしあったとしても、神々に処分されていたのかもしれないが」


 と、彼はあごに手を当てる。


「その上で、私は一つ疑問に思うことがあった。勇者セディ。君はこの世界の成り立ちについて知っているか?」

「成り立ち?」

「この世界の創世にまつわる話だよ」

「……この世界に神が顕現し生物を創生。その平和を魔王が崩した、という話か?」

「そうだ……この話自体は、大いなる真実の枠組みでもさしたる矛盾はない……しかし」


 ラダンは途端に顔を険しくする。


「一つ疑問に思ったのだ……人間はこの神話を心から信じ、神が人間にとって善。そして魔王が悪と考えている……大いなる真実はこの枠組みからは逸脱した関係……そこで、ふと思ったのだ。もしやこの神話そのものも、嘘なのではないかと」

「神話そのもの?」

「そうだ。大いなる真実を隠すべく、神や魔王が作り上げた創作なのかもしれないと」


 またずいぶんと突飛な発想……だが、わからなくはないと思った。常識が完全に覆された世界。俺も指摘されるまではなんとも思わなかったが……言われてみると、疑いたくなるのはなんとなく理解できる。


「だからまずはそこから調べ始めた……とはいえ人間の記したものなど神々が戦っていた時よりも後に作られた物がほとんどだ。だからこそ作業は難航したが……その過程で面白い書物を見つけた」


 そう言いながら、彼は机の端に手を伸ばし、一冊の本を掲げた。

 ボロボロの茶色い背表紙の本……魔力が感じられるため、これ以上壊れないよう処理されているのだとわかる。


「もう滅んでしまった西部の国の中の大図書館……そこにこれが眠っていた。内容は、この世界の大地に眠る力に関するものだった」

「大地?」

「彼は地質学者であり、この世界のある場所には神とも、魔王とも、そして大地のものともつかない特殊な魔力が存在しているというものだった……私はこれが神や魔王の管理の一端なのではないかと考え、その場所へと向かった」


 そこで、彼は本を机の上に置き、


「……そこを調べた時、私はとある遺跡を見つけた。明らかに人の手によって作られたものだった……後にそこは神や魔王が足を踏み入れたことのない場所だともわかった。そこに何があったかというと――」


 彼は一拍置いて、俺に告げる。


「この世界を創った……いわば『原初の力』とでもいうべきものが眠っていた」


 原初……? 俺としては首を傾げる他なく、彼が続きを話すのを待つしかない。


「そうだな、まずはこの世界の本当の創世から話そうじゃないか……無論、私が語っていること自体を疑うのもわかる。だが私としては君に今から交渉しようと思っている……嘘など言えばさらに不審になるだろう。そういう考えがある事を念頭に置いて、話を聞いてくれ」


 交渉、という言葉に俺は険しい顔つきをしたが、相手は涼しい顔で見返した。

 ……俺はここで、これから話す真偽について考える。騙すこと自体それほど難しくはない。けれど、ラダンは俺に対し一定の評価を与え、なおかつ交渉しようとしている……口ぶりからすると、俺に対し仲間になれとでも言うつもりなのかもしれない。となれば、嘘をつく可能性も低いのではないか。


「この世界だが……まず、神や魔王が生まれる前に、既に生物は存在していた。この時点で神が創生したなどという言葉は嘘っぱちなわけだが……この辺りは、神々に訊いても頷くかもしれないな」


 もし信用できないなら、確認しておけとでも言いたいのだろうか……沈黙していると、さらに彼から言葉が紡がれる。


「無論、神や魔王のいない世界はひどく野性的で、今のように魔法なども存在しなかった。国家を持つようなケースはあったようだが、現在のようにいくつも、さらに大規模なものではなかったようだな」


 そこまで語るとラダンは、口の端を歪め笑みを見せる。


「そして、決して平和でもなかった。人間の王は覇権を巡って争ったりもしていたし、魔物の存在もあったからな……そうした中、変化を呼び込んだのはとある二人の兄弟だった」

「兄弟?」


 聞き返した俺に、ラダンは深く頷いた。


「そう、兄弟。遺跡に眠っていた手記によると、二つ違いの兄弟……二人はそれぞれ願いを持っていた。兄は親を殺された恨みを抱き、あらゆる存在を支配するような絶対的な力を欲していた。そして弟は、死んだ両親や破壊された街や森林を蘇らせるような創造の力……二人は方向は違えど考えていることは似たようなものだ。戦乱に巻き込まれ、それを打破する力を得たかった」


 ラダンは俺に視線を投げる。おそらく「今とそう変わらないだろう?」と訊きたいに違いない。


「……そして山で食料を集めていた時、二人は洞窟を発見した……その洞窟は、深く地底に続いている場所だった……というより、それより少し前の地震で、大きく地底への裂け目ができたと言うべきか」

「その場所が、どうしたんだ?」

「そう慌てるな」


 俺の質問にラダンは言葉で制する。


「兄弟は当然、そんなことも知らずに洞窟に入った。奥に続いているとわかり、二人は雨宿りと共に少し探検しようと考えた。たいまつを灯し、先へ進む兄弟……そして」


 と、ラダンは一度言葉を止め、


「……二人は断崖を発見し、そのまま落ちてしまった」

「そこで二人が死んだら、何も起こらなかったんだろうな」

「だろうな……彼らはその時地震によって生じた裂け目に入り込んだ。暗くどこまで落ちていく恐怖の中で……やがて二人は、地底の奥で光を発見した。それが何なのかは資料にも具体的に語られてはいなかった……しかしその力に触れた瞬間、兄弟は突如体の感覚を失くし――やがて、問い掛けがきたらしい」


 問い掛け……言葉を待っていると、ラダンはここで考察を入れた。


「正直、問い掛けというのは妄想だったのかもしれないし、単なる記憶違いなのかもしれない。だが資料――遺跡で発見した手記によれば、その光に触れ何か願いを叶えよう、と言われたらしい」

「願い……そこで、兄弟は元々願っていたことを考えたと?」

「そうだ……それによって二人は力を得て、気付けば洞窟の前で眠っていたらしい」


 不思議な力……とはいえ神や魔王がいる今の世界ではさして珍しくもないような気がする。けれど彼が言っている世界は、まだ神や魔王がいないという世界という話であり――


 ここから、核心部分に触れる……そう直感し言葉を待っていると、ずいぶんと間を置いた後、ラダンは話し始めた。


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