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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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森の中で

 俺は一度周囲を見回し、現状がメルミの張ったような隔離的な結界であるのを認識する。


 ……罠を張って待ち構えていたというのは理解できた。俺達の存在は報告に聞いていただろうから、こうした罠があっても不思議じゃない。しかし問題なのは、彼らがギリギリまでこちらに気付かれず待ち構えていたということ。


 俺は気付かなかったし、ファールンも気付いた素振りは見せていなかった。唯一アイナだけは取り込まれる寸前に声を上げたが、それでも対応する時間は無かった。

 特に彼女は天使長……彼女から罠を隠す程となれば、一体相手は――


 考える間にガサガサと草をかき分ける音が響き、目の前に見慣れない人物が現れた。太陽に映えるような綺麗な色合いの金髪を肩を超える程度まで伸ばした――顔立だけ見れば貴族風の男性。格好は高そうな白銀の胸当てに長剣を握っているため傭兵なのは容易に想像つくが……俺は物腰から騎士崩れか何かなのではと適当に想像しつつ、口を開く。


「砦を守る戦士ってところか」


 襲撃を聞きつけてこうして待っていたのは間違いない。しかし、目の前の相手からはアイナ達に気付かれないような力を持っているようには思えない。他に結界を張った人物がいるということなのか――


「そういうことです。申し訳ありませんが、ここでお引き取り願います」

「お引き取りって雰囲気じゃなさそうだが」


 俺は周囲を見回し告げる。ここに至り気配に気付く。囲まれている。


 彼の他には無骨な鎧と剣を装備する戦士。それほど強い気配は感じられないので、相対したとしても十分対応できるとは思った……あくまで一騎打ちの場合は。

 人数は最初の戦士を含め合計四人。前後左右を固め俺を逃がさないようする状況は、例え技量的に優れていなくとも、相手をする場合面倒なことは間違いない。


 それに……ファールンやアイナの方も気になる。やられる可能性はゼロに近いと思うが、このまま進むにしても退くにしても彼女達と合流する必要があるだろう。


 ただそれにはまず、ここを突破しなければ。


「戦う気、ですね」


 気配を感じ取ったか、金髪の戦士が呼び掛ける。


「一応、警告を発しておきましょうか。あなたを含め、仲間達は同様の結界によって孤立しております。このままお引き取り頂ければ怪我もなく済ますことができます」

「ずいぶんと、悠長だな。俺達が何をやったのかは知っているんだろ?」

「ええ。しかし私達とてそう暇ではありませんから、できればこれ以上争いたくはないのです」

「仕事に差し障るから……か?」


 問い掛けると相手は微笑。肯定とも否定とも取れない。


「……奪った魔法具は、お前達が扱う中で重要な物じゃないのか? そのありかを聞き出そうとも思わないと?」


 ちょっと挑発的に告げてみるが……彼は肩をすくめた。


「奪われた魔法具のことは気になりますが、どこにあるかを捕捉することは可能なのでそれほど危惧してはいません。それよりも、私達としてはあまり事を荒立てないようにする方が重要です」


 荒立てないように……か。商いをする上でそうした方がいいというのはなんとなく理解できるのだが、彼が語っているのは別の何かがあるようにも感じられる。


「では、どうしますか?」


 戦士が俺に選択をゆだねる……ま、答えは決まっているんだが。


「とりあえず、仲間達と合流しないといけないな」

「このまま退いていただけると約束されるのであれば、会わせても構いませんが」

「その前に、残りの二人が簡単に応じるとは思えないな」

「……なるほど、確かに」


 戦士は納得する声と共に笑い……剣を抜いた。


「仕方ありませんね」


 淡々とした口調で話す戦士――加え、周囲にいる面々も剣を抜いた。交戦開始だが、まずはこの包囲を脱することを優先とすべきだろう。

 気配的に目の前の男性以外は油断していなければ負けないはず――そう考えた時、金髪の戦士を除く三名が、同時に俺へと仕掛けてきた。


 目の前の彼は動く気配がない……俺はそちらへ警戒しつつも魔力を刀身に叩き込み、左足を軸にして回転斬りを放った。魔力を乗せた剣戟は、一人目に到達しようとした瞬間勢いを増し、振り抜くことで見事に直撃した。

 斬撃が当たったため、彼は馬車を護衛した傭兵のように転移する。続けて他の二人も同様の結末を辿り……あっさりと、三人の姿は森から消えた。


 俺は金髪の戦士に目を向ける。驚くかと思ったが、彼は目を細めただけであまり反応を示さなかった。


「ふむ、たった三人で襲撃したのは伊達ではないということですか」


 そこで感心するような声を金髪の戦士は放つ。


「これでは囲い込んだ意味もないですね……さて、どうしましょうか」

「言っておくが、残り二人も似たようなものだぞ?」


 俺は剣の切っ先を相手へ向けつつ、告げる。


「いや、容赦の無さはあの二人の方が上かもしれないな」

「なるほど……増援なども警戒していたのですが、この実力である以上、お三方だけで決着をつける腹積もりの様子……警戒に値しますね」


 戦士は語ると一歩引き下がる。俺はそれに合わせ足を前に出す。


「逃げるのか?」

「まあ、そんなところです」


 苦笑した彼はさらに後ろに下がり――俺がさらに踏み込もうとした瞬間、突如消えた。俺は眉をひそめつつ警戒を強め……次いであることに気付く。

 耳から風の音や鳥の声が聞こえた。どうやら結界自体消滅し、現実世界に戻って来たらしい。


 だがファールンやアイナの姿はない。ここで俺は一つ呟く。


「……ファールン達を待つか?」


 周囲に視線を巡らせ、俺は思考する。

 当たり前だが、こんな森の中で移動すれば当然はぐれる……だからといってこの場に待機していても敵に狙われる可能性もある。


 俺はふと振り返る。俺達が森へと入り込み茂みをかき分けた形跡が見受けられた。


「……進むか」


 ここで、俺は決断する。彼女達なら俺の気配を追ってすぐに合流することも可能だろう。ここで立ち往生するのもまずいし、できる限り動いていた方がいい。


 少し待てば彼女達も結界を突破しここに戻ってきそうな気がしないでもないが……いや、敵の計略だとすれば彼女達は別所に飛ばされている可能性も否定できない。そう考えれば、なおさらここに留まっているのは敵の術中にはまっている気がする。


「よし、行くか」


 俺は改めて呟くと歩を進める。森の中に人の気配はないが……奇襲同前に先ほど結界に巻き込まれた以上、先ほど以上に注意した方がいいだろう。

 ただまあ、根本的に俺が警戒してどうにかなるのかということもあるが……ここで再度疑問が再燃。敵はなぜ、アイナですら寸前まで気付かれないような魔法を使えたんだ?


 ルナの従者であるメルミは、ルナに教えてもらったと言っていた……シアナに悟られないレベルの彼女の魔法と比べれば劣っているとは思うのだが……それにしたって異常だ。少なくとも、人間の魔法使いがどうにかなるようなレベルではない気がする。


 これは、勇者ラダン達が開発した魔法具が関係しているのだろう……俺は色々と考えつつ、さらに森を進み続けた。


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