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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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天使の質問

 馬車を襲撃した後、俺達は砦へと向かう……途中俺達を狙う追手が二度三度現れ、その都度迎撃を行った。

 戦力的には馬車を護送していた傭兵達と大差がない。一度に遭遇した人数は多かったが、俺達の敵ではなく苦戦すらせず全て倒した。


 以降敵と遭遇しなくなり、俺達は順調に目的地である砦へと向かっているのだが……その目の前には、障害が一つあった。


「森だな」

「森ですね」

「森ね」


 俺達は砦の方角に存在する広大な森を眺め、呟く。俺は単なる感想。ファールンはやや警戒し、そしてアイナはどこか面倒そうな口調だった。

 そこで再度地図とにらめっこを行う。どうやら砦は森を抜けた先に存在するらしい。森を避けて迂回するルートも存在はしているが、今いる場所からだと相当大回りになってしまう。


「さて、どうする? このまま街道沿いに進んで砦真正面から行くか、それとも森を突っ切るようにして進むか」

「面倒だけれど、森を突っ切った方がいいと思うわ」


 俺は問い掛けに答えたのはアイナだった。


「二度三度と敵を倒して、それ以降現れていない以上このまま街道に沿って進んでも敵が来ることもないでしょうし、意味もない」

「そうかもな……だからこそ、一気に森を横断すると」

「奇襲にもなるし、それでいいと思う」


 三人で奇襲というのも変な話だが……特に否定する要素もなかったので、俺は同意。ファールンも合わせて同意し、森へ近づく。

 森には一切道はないようで、延々と木々だけが続いている。結構深い森で、昼間にも関わらず薄暗い。


 明かりは作らなくても大丈夫なレベルではあるのだが……敵が潜んでいるという可能性もある。少し注意が必要だろう。


「私が先頭を歩く」


 アイナは提案と共に俺達の前に出た。こちらはファールンと目を合わせどうするかアイコンタクトを取り……双方異議などはなかったので、彼女の言葉に従うことにした。


 森へ入ると、太陽が当たっていない分だけ気温が低い。動き回っていたため汗を多少かくくらいだったので、心地よい。


「もし潜んでいる敵がいたら、私が即座に対処するわ」


 アイナは言いながら草むらを進む。音によって相手に気付かれる可能性は高いのだが……天使長である彼女の気配探知能力を考えればそれほど問題にならないとも思ったし、もし攻撃されても即対応できるはず……大丈夫だろう。


 そこで俺はアイナやファールンの様子を窺う。まず先頭を歩くアイナについては視線を周囲に向け、気配探知だけではなく目視により注意を払っている。そしてファールン。彼女は俺の後方にいるが、アイナと同様警戒を怠らない。

 ただでさえ能力の高い彼女達が警戒しているのだ……むしろ俺の出番なんてないくらいだ――そんな風に考えた時、


「一つ、訊きたいことがあるのだけれど」


 アイナが言葉を漏らした。


「勇者セディ……あなたに」

「ああ、いいけど」


 この戦いについてではなく、俺自身のことを訊きたいらしい。なんとなくどのような質問なのか推測しつつ……俺は言葉を待つ。


「大いなる真実について……知った時、どういう気持ちだったの?」


 彼女は前を向きながら尋ねてくる。表情が見えないのでどういう意図なのか判断し辛いが……俺は、答えた。


「衝撃、の一言に尽きた。それまでの勇者としての活動を大きく否定するような内容でもあったからな」

「例えば私達を恨んだりはしなかったの?」

「真実を知った当初は、信じられないという気持ちと、ファールンを始めとした魔族からの干渉があったから、あんまり考える余裕はなかったな……けど、エーレから事情を聞いて、悩んだりはした。けど、神々を恨みはしなかったな」


 俺の言葉に、アイナは一度首を振り向ける。見えたその顔は、眉をひそめていた。


「……私としては、その辺りはどうにも引っ掛かるのよ」

「引っ掛かる?」

「勇者ラダンはおそらく、真実を知り反逆をしたのだと思う」


 アイナは言う。俺も内心そう思っている。


「裏切られたとしたら、あなただってそう思ってもおかしくないと感じた」

「確かに真実を告げられて放置されていたら、そんな風に考えていたかもしれない。けど俺は魔王と直接話す機会を得て、自分なりに結論を出した」

「なるほど……そこがあなたと勇者ラダンの近いなのか……」


 声音からまだ引っ掛かっているような感じではあったが、それ以上の質問は来なかった。

 彼女が尋ねた意図はなんなのか……疑問を投げかけようとした時、改めて彼女から声が発せられた。


「私としては、興味のあるところだった。質問したのは、ただそれだけ」


 簡潔な内容――もしかすると、俺のことを神々側も色々考えているのかもしれないな。

 ただそれは俺も同じ……この機会だから、訊いておくか。


「……こっちも気になることがあるから、質問してもいいか?」

「どうぞ」

「俺のことを、神界の者達はどう考えている?」

「どう、とは?」

「例えばアミリースなんかが思っていることは訊いているけど、大いなる真実を知る存在の一般論がどうなのか、ということ」


 そこまで問うと彼女は、一度「ふむ」と呟いた後、話し出す。


「最初は人間としてなら参加させるべきではないのでは、という意見もあった。基本、大いなる真実の枠組みは私達や魔族によって支えられてきたから」


 言って、アイナは首だけ振り向きファールンを一瞥した。


「人間……王など国を関する人物以外が参加するにしても、ファールンさんのように元人間であるパターンばかりだったわね」

「そういうケースは結構あるのか?」

「多少は。けれどその大半は例外みたいなもの……あなたと関わったパメラもまた、例外と言える存在」


 聞き覚えのある名前が出てきた。なるほど。


「事情は理解できたよ……で、俺のことについては?」

「反対もあるにはあった。けれどあなたが色々の事件に関わり、さらにアミリース様なども評価したため、次第に認めるようになった。現時点で公に反対している神はいない」

「良かった、ってことでいいんだよな?」

「無論よ」


 はっきりと頷くアイナ。うん、神々に認められるというのは結構嬉しいものだな。

 魔王に認められるのはずいぶんと違和感もあったのだが、今回はそれもない。ここはやっぱり人間としての考えが存在しているんだろうな……エーレには悪いけど。


「私達としても、今更あなたを除け者にするなどということはないから安心して」

「そっか……この事件が一段落したら、一度神界にも行ってみたいな」

「ならその要望、ナリシス様かアミリース様に伝えておくことにする」


 お、これはありがたい……しかし思えば、魔王だけでなく上級レベルの神ともコネクションを持っていることになるのか……世の人が聞けば卒倒しそうな内容だ。


 ま、これは別にこういう事件に関わる恩恵とかではなく、管理する上で必然と呼べるものだろうけど……やっぱり人間としての価値観と照らし合わせると、わけのわからないことではある。


 それに、魔王側の事情には結構慣れてきたが神々についてはまだまだみたいだ……そんな風に思いつつさらに森の中を進んでいた――その時、


「ん?」


 ふいに、アイナが声を上げた。俺はどうしたのかと応じようとした時、

 彼女が突如、視界から消えた。


「え……?」


 何が起こったのか――と考えた時、さらに周囲から気配が生まれる。これは――


「……侵入者は、排除しなければなりません」


 さらに、男性の声が聞こえてきた。何が起こったのか一瞬理解できなかったが……少し前、メルミが同様の処置で俺を結界内に隔離したのを思い出した。


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