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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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修行の場

 翌日、俺達はいよいよ修行の旅に出る……何をするのかも聞かされていないので不安もあったのだが、俺とファールンはシアナ達に見送られ家を後にすることとなった。


「昨日訪れた街へ行けば、ミュレスが待っています」


 ルナの言葉に俺は頷き、シアナへと目を向ける。


「シアナ、行ってくる」

「はい」


 そういうわけで、俺とファールンは揃って森に入った。二人となりなんだか奇妙な空気が生じつつ――先にそれを打破するべく口を開いたのは、ファールン。


「セディ様の方はともかくとして、私の方は難しいですね」

「難しい? 修行についてか?」

「はい。私の場合は方針すらも決まっていませんから」


 確かに言われてみると。俺の方は魔と神の力を組み合わせるというやり方というのは決まっている。けれどファールンは――


「私は神の魔法具などは所持していませんし……そもそも、魔族の血が入っている以上神々の力は使えません」

「だとすると、組み合わせるのは魔族と人間の魔力か?」

「そうだと思いますが……果たしてそれが相手に通用するのかどうか。そもそも私のような性質を持つ存在は、敵にもいるでしょう」


 確かに実際、漆黒の剣を握り魔族の力を活用していた勇者がいるくらいだし……魔族と人間の力を組み合わせる、という観点から見るとファールン自身も珍しい存在というわけではないかもしれない。


「陛下が言うには、私は可能性があると仰いました……おそらくセディ様と異なり、私は私なりのやり方で戦法を編み出して欲しいということでしょう」

「エーレ達だと、純粋な魔族である以上無理なわけだからな」

「はい……きっとですが、セディ様のことを見て人間そのものに可能性を見出したのかもしれません」


 可能性……か。魔王が人間にというのは面白い話だ。


「なら、それにどうにか応えないといけないな」

「……はい」


 彼女が頷いた時、森を抜ける。視線を巡らせると街が見え、俺達はそちらへ足を向ける。

 程なくして到着した街の入口……そこに、無骨な鎧を着た体格の良い男性が一人、誰かを待っているように立っていた。


「来たな」


 俺達に視線を送り、近づく男性。どうやら彼が――


「名はミュレス=モーディオン。今回二人を鍛えるために呼ばれた、言わば教官だ。よろしく」


 軽い挨拶。顔立ちは一言で言えば豪快。体格に見合った風貌とでもいえばいいのか……魔族というより、完全な傭兵。

 髪色は濃い青で、背中に到達するくらいの長さのものを無造作に束ねている。顔の特徴としては、少しばかり不精ひげがあることくらいだが……まあそれほど気にはならない。


 で、初対面の俺としては受けた印象は太陽みたいな明るいもの。魔族相手にこういう表現をするとは正直思わなかったが……なんというか、ムードメーカーという感じにも思える。


「セディ=フェリウスです。よろしくお願いします」


 俺は丁寧に返答すると、彼――ミュレスは手を振る。


「ああ、そんな堅苦しいのは無しにしようぜ。俺のことはミュレスと呼び捨てでいい。それと、横にいるファールンもタメ口でいいぞ」

「……さすがに、それは」


 首を左右に振る。元々女王の側近だっただけあって、砕けた口調は逆に慣れていないのだろう。


「そうか? まあ無理強いするもんでもないな……そっちは?」

「なら、遠慮なく」


 俺の言葉にミュレスは「よろしく」と笑みを浮かべながら告げる……が、少しばかり俺に対する視線が鋭くなった。

 それは一瞬で収まったのだが……値踏みしているといったところだろうか。


「さあて、お前さん達の修行の同行を仰せつかったわけだが……そう肩肘張らなくてもいいぞ。試験場所まで到達したら大いに気合を入れてもらっていいが、それまではリラックスしてもらっていい」

「……どこに、行くんですか?」


 俺の質問に、ミュレスは再度笑みを見せる。


「それはついてからのお楽しみだが……ま、道中きちんと説明するさ。さて、それじゃあ人目の無い所に行こうか」


 人目の無い所とすると……転移魔法を使うのか。俺とファールンは同時に頷き彼に追随。街を離れ、シアナ達のいる森を通り過ぎ、別の森林へと足を運ぶ。


「お二人さんの事情は俺もしっかり聞いている……特にセディ。お前さんの方がずいぶんと活躍しているみたいじゃないか」

「はあ……」


 生返事をすると、前を歩く彼は一度首をこちらへ回す。


「淡泊な答えだな。自覚がないのか?」

「……正直、活躍しているのか疑う時もあるくらいで」

「ほう、そうか。価値観の違いにより戸惑っているといった感じか」

「そんなところです」

「そうかそうか」


 納得し何度も頷くミュレス……真摯に俺の話を聞くその様子は、確かに教官とするなら良い存在だと率直に思う。


「ああ、それと……もう一つ伝えることがある。実は今回の訓練だが、神々側からも訓練して欲しいと名乗り出た存在がいる」


 え……神側? 目を丸くしているとミュレスはさらに続ける。


「こちらがセディを訓練すると言った結果、神側もそれに合わせ訓練したいと名乗り出た。何やら事情があるようだが……どういった相手なのかは現地で確認してくれよ」


 俺とファールンは頷くしかない……ルナは何も言っていなかったが、これは一体どういうことなのか。昨日の今日で決まったことなのか? いや、そういうことだとしてもルナが何も話さなかったという時点で変だな。

 けど、神側からの要請なのだから……そう問題にはならないか。


「さあて、到着だ」


 その時、ミュレスが言った……単なる森の真ん中。けれど視界は効かず俺達以外は誰もいないような状況。


「ここで転移を?」


 ファールンが確認すると、ミュレスは頷いた。


「ああ。ここは魔力集積点の一つだからな。転移しやすい」


 そうは感じられないのだが……これは俺の探知能力が低いからだろうか。


「それじゃあ、行くぞ?」


 ミュレスの確認に俺達は首肯し……彼は魔法を発動する。

 刹那、光が生まれ――反射的に目を瞑る。そして一瞬の後、光が消えるのを認識し、目を開けると……正面に、森の出口があった。


「到着だ」


 ミュレスが言う……俺とファールンは同時に歩み出し、森を抜ける。

 左斜め方向――そこに、城壁と城郭を兼ね備えた街が見えた。


「あれは?」


 ファールンが問うと、ミュレスはどこか楽しそうに語る。


「ザイオン王国の首都、ターナレンスだ」

「は?」


 俺は思わず聞き返した。王国……?


「え……?」


 ファールンもまた聞き返す。けれど俺の意味合いとは異なるものだと直感する。

 俺は王国や首都名が出てきた以上、魔界ではなく元の世界に帰って来たのだと認識。けれどその国名に憶えがなかった。反面、ファールンはどうやら国名を知っているために聞き返した。ここは一体――


「セディは把握していないようだから言うぞ。ここは――」


 と、ミュレスは両腕を広げながら告げた。


「――セディ達が暮らす大陸……その西部、激戦地だ」


 ――彼の言葉に俺は小さく呻いた。どうやら俺達は、相当な場所に連れてこられたらしかった。


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