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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者強化編

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魔族の街

 次に魔族の格好を成して訪れた場所は、俺をひたすら驚かせるところだった。


 おそらく大半の人間というのは、魔界という場所はひどく荒廃していて何もない……もしくは色々と想像を働かせておどろおどろしい場所だと思っていると思う。俺の場合も例外ではなく、最初魔界に来た時……魔王城周辺を見てああやっぱりかなどと思ったりもした。


 しかし、どうやら魔王城周辺も見せかけらしい……と、いうか――


「どうしましたか?」


 俺の前を歩くシアナが問い掛ける。アイストの森で見せた大人びた風貌から元に戻り、黒い外套を羽織り俺を見上げ問い掛ける。


「いや……大いなる真実を知って驚かされるばかりだけど、これもまた予想の内に入っていなくて」

「私も最初驚きましたよ」


 声は、シアナとは別――堕天使ファールンのもの。いつもの格好ではなく黒いローブ姿かつ、翼はしまっている。

 そして俺の目の前には……現在街が広がっている。そう、街。


 どこをどう見ても、街だ。


「そんなに驚くところでしょうか?」


 シアナが少しばかり不服な態度で応じる。


「別に魔界だから街がないなんてわけではありませんよ?」

「いや、それはわかっているんだけどさ……」


 入り口付近から見回すと、住民は人間と変わらぬ様相を見せている……大通りがあり、さらに行商らしきものがいたりして、中々活況なのではないか。


 少なくとも見える範囲では、おどろおどろしい物なんかも売られていない。日用品を始めとした、人間の街でも売られているもの……違いは食料品だろうか。新鮮な野菜とかが少な目であり、加工したものが中心となっている。


「……普通の魔族も食事をするのか?」

「むしろ抱える魔力の少ない魔族は、食べなければ生きていけませんよ」


 シアナが律儀に返答する。俺は彼女に視線を合わせ、さらに質問。


「とはいえ、人間の街と比べて食事量は少ないのか? 店舗的に少なめに見えるけど」

「売っているものの関係ですね。さすがに人間の暮らす街のような品ぞろえは難しいため差別化が難しいので……食料品を売る店舗はあちこちに分散しているわけです。少しでもお客さんを食い合わないように」

「そうか。ちなみに、ああした食料は人間達から仕入れているのか?」

「も、ありますけど……中には魔界を耕して作ったものも」

「……想像できない」


 頭を抱えそうになりつつ……話が進まないので俺は気を取り直し、


「で、だ……ここに、シアナ達の母君がいるのか?」

「街から少し離れた場所です。ここで休憩しましょう。あ、それと念を押すようですが」


 シアナは俺に忠告を行う。


「街の中ではその格好のままでお願いします。あと、私達の身分は明かさないように」

「わかったよ……それじゃあ、行こうか」


 俺の言葉にシアナやファールンは従い……街へと、歩き出した。






 ――こうなった経緯は、まず数日前に遡る。


 アイストの事件から少しして、色々と情報が入って来た。さすがに実験を行う場所であれだけの騒動を起こせば、敵方も気付く……ということで、マヴァストの一件から色々と騒動を起こしていたはずの彼らは突如動きを止めた。


「現在は、小康状態だな……あくまで表向きは」


 エーレは俺の部屋を訪れ、対面する形で着席し腕を組みながら話を始める。


「こちらは勇者ラダンの居所を探るために色々と動いているわけだが……まだ尻尾を掴むまでには至っていない」

「神々と魔王の追及を逃れることのできる勇者ラダンは、相当な使い手ということか?」

「おそらく露見した時の対応策は考えていたのだろう。加え、ラダン側に裏切った天使や魔族が少なからずいる以上、こちらの動きをおおまかにでも推測できるのかもしれない」

「……エーレは今後、ラダンを見つけることに集中するわけだな」

「ああ。居所を掴むことができれば後は消化試合だ」


 断言……悪魔などを生成していたとしても現段階で女神や魔王が出てくるわけで……正直、ラダンに勝てる未来がないと言える。


「今回の戦いは、大いなる真実の枠組みの中での戦いだ……出陣するのであれば、私やアミリースなどが出ることになる。近い内に、真実を知る者達で会談を行う予定だ」

「神と魔王が、か……」


 双方から攻められる構図は、想像するだけでも身震いしてしまう。


「で、俺はそれに備え訓練といったところか……けど、本当に必要なのか?」

「無論、私達で対処できるのであればそれに越したことはない。しかし、私達がやられてもう手立てがないという状況は避けたいわけだ」

「俺が出てもあまり効果がないように思えるけど……」

「そう思うか? 仮にも私を倒したのだぞ?」


 ……言われてみればそうだけどな。


「今回、そんなあなたをさらに強くしようと私は考えている……さすがに大いなる真実に関わる案件であるため、さしもの幹部達も納得した」

「そう、か」

「あなた自身シアナと色々安泰というのも、認めるのに一役買っているな」

「安泰……」


 さらに外堀が埋められている感があるな。


「で、だ。さすがにあなた一人だけというのももったいないため、今回の修行には同行者を用意した」

「誰だ?」

「案内役のシアナと、ファールンだ」


 ファールンの名を聞き、俺は眉をひそめた。


「ファールンが? なぜ?」

「彼女は堕天使になってはいるが、あくまで体のベースは人間だ。魔族の力が濃いとはいえ、色々とセディに近いこともできるのでは……と、思ったわけだ」

「そういうことか……で、シアナは単なる案内役?」

「母上にはシアナの指導もお願いした。そもそもシアナは母上の影響を受けてああした物を作るようになったのだ」

「へえ……」


 ちょっと驚いた。なるほど、母親の影響か。


「これは母上が特異なのだ……以前、魔族において鍛冶などをする存在は珍しいと言っただろう? 母上はその例外に該当する」

「そうなのか……」

「私やディクスもその血が入っている以上、何かしら力は持っているかもしれないが……その特性を大いに継いでいるのがシアナというわけだ」

「なるほど。けど、なぜ魔王城から離れているんだ?」

「先代及びそれに付随する存在は、継いだ魔王の運営を妨げる可能性があるため城とは距離を置く。ただ今回の件は込み入った事情となっているため、母上が懇意にしている現役を退いた魔族にも協力してもらう必要があるかもしれない」

「……そうした魔族が裏切っている可能性は?」

「ないとは言い切れんが……母上の影響力は絶大だからな。そう心配はしていない。無論セディと共に向かうシアナに話をさせ、軍勢に加えるかを判断することになる」

「そうか……じゃあ母君と同様、先代魔王である父君の方も――」

「それはありえん」


 即答だった。以前もそうだったが、なんだか先代魔王については話したくないという雰囲気を持っているのだが、理由があるのか?


「……エーレ、一つ訊きたいんだけど――」

「聞かないでくれ」


 俺の質問が予想できたのかそう返答するエーレ。顔は、ひどく複雑。


「言いたいことはわかるが、遠慮してほしい」

「……そんなに?」

「色々と事情があるのだ。もし話すと……顔を出さないとも限らない。言霊というやつだ」


 そこまで……? 俺は逆に気になったのだが、懇願するエーレの顔を見て頷いた。


「わかったよ……で、俺とシアナとファールンで行くのか?」

「ああ……母上はセディの訓練内容を絶対的に信用している魔族に任せるらしいが、ひとまず母上に会いに行ってほしい」

「わかった」


 承諾した俺は、それから部屋で軽く準備をして……やがて、シアナ達と共に城を出ることとなった。


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