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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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やらなければならない事

 魔王城に戻った俺はしばし自室にこもり……エーレからの報告を待つことにした。当のエーレは事後処理のために色々と行動……カレン達のことも気になるのだが、俺としては待つしかない。


 やがて翌日になり――エーレが俺の部屋を訪れた。


「まずアイストの方だが、ひとまずナリシスに一任することになった。デインに協力していた者もあぶりだされ、実験都市としての機能は最早失われたとみていい」

「ということは、これからノージェスさんが運営していくわけだな」

「そうだ……ナリシスが大いなる真実について話したから、アイストの森は明確に管理の枠組みに入った。今後しばらくは混乱するだろうが、ノージェス自身そうしたことはしない方だろうし、少なくとも敵になることはないだろう」

「そっか、よかった……で、勇者ラダンについてだけど」

「神々も色めきたったらしい。とはいえ首謀者がどういう存在であるのかわかれば、ある程度動ける……敵の所在はまだわからないが、大いなる真実を知る神々が動いている。直に造反者も見つかるだろう」

「なら、問題はあの悪魔か……」

「ああ、そこを神々も懸念していた」


 エーレは神妙な面持ちで俺に続ける。


「今回の戦いで一番の問題となったのは、あの悪魔達の存在……セディやシアナの報告によれば、魔族の魔力に対応できたとのこと……現段階では推測だが、敵には天使なども紛れ込んでいた。その力を応用していれば――」

「神々に対抗できる存在も、創り出していると?」


 俺の言葉に、エーレは深々と頷いて見せた。


「そういうことだ……デイン達の実験成果を踏まえ、私達は敵がその研究を完成させている可能性が非常に高いという結論に至った。すぐにでも対処したいところだが……まずは勇者ラダンが見つからなければ始まらない。調査次第だな」

「……その間に、俺は何をすればいい?」

「これから説明する」


 問い掛けに、エーレはそう答えた。俺は「わかった」と言いつつ、一つ提言した。


「エーレ、一つ気になることが。アイストの戦闘だが、あれだけ派手にやれば噂になってもおかしくないんじゃないか?」

「あれだけやれば、女神と魔王が動く口実になるだろう?」


 そういうことか――勇者ラダンがどういう行動をとるかわからない。けれどそうした動きに対し、魔王や神が動いているという風に認識させれば……少なくとも、大いなる真実に関して露見する可能性は低い。


「まあこれは用心のためだ。本来大いなる真実は直接漏らさなければ冗談だと断じられてしまうような内容だからな……また、ラダンが動き出したことに対し、上手く利用しようという意味合いもある。ああした戦いを発端として神と魔族が動いていると説明でき、私達が表立って活動できる理由づけにもなる」

「混乱は、起きそうだけどな」

「その辺りはできるだけ抑えるように努める……今は、最大の脅威を排除することが重要だ」

「わかった……俺も、それに協力する」

「頼む。さて、ここからが本題なのだが……セディ、一時仲間達と離れるということでもいいか?」

「それで勇者ラダンをどうにかできるなら」

「すまない……あなたの妹を始め、仲間達にはノージェス殿が色々と依頼をかけた、という形にしておこう。強行軍だがどうしても勇者の力がいる……ということで、しばらくマヴァストで待機していてもらおうか」

「そういえば、ミリー達はどうなったんだ? ジクレイト王国の方で色々と動いていたはずだが」

「解決したようだ。女王アスリから礼の書簡が私の手元に来ている」


 そっか。ミリー達も上手くやったようだ。


「なら、その内ミリー達もマヴァストでカレンと合流するだろうな」

「ああ。ディクスもまだその周辺で調査を行うそうだから、任せてもらえれば」

「わかった。それで、俺はどうすればいいんだ?」

「これから、少しばかり修行に入ってくれ」

「修行?」


 眉をひそめた俺に対し、エーレは小さく頷いた。


「それと共に、所持する魔法具の強化などを行う……既に相手には連絡をしている」

「修行というのは……?」

「あなたの技量は十分とは思うし、魔族や天使と戦うのであれば今の装備でも大丈夫だろう。けれど今回の敵は女神の武具や魔族の力を跳ね除ける力を所持している」

「俺が対抗するのが難しくなるってことか……」

「いいや、違う……私はあなたに、一つの可能性を見出した」

「可能性?」


 聞き返すと、エーレは小さく笑う。


「シアナの魔法具を利用し天使を跳ね除け、さらに女神の武具を使いこなし魔族の力を所持する戦士に打ち勝った……特に前者の方に私は注目する。あなたは魔法具を上手く利用すれば、第三の力を活用できるのではないか」

「第三……?」


 呟いた時――俺は、エーレの言う可能性に行き着いた。


「それはもしかして、魔族と神々の力を組み合わせるということか?」

「そうだ。当然神と魔王は白と黒……対極の魔力であり組み合わせることなど、相反する種族同士である以上不可能だ。しかしそうした色のない人間……つまり、あなたのような存在ならばその二つを組み合わせ、明確に対抗することができると私は考えた」


 エーレは俺と目を合わせながら、なおも語る。


「魔族や神々はそれぞれ生まれた時から保有している種族固有の魔力しか所持できない……敵はそれを上手く利用した形だ。そうした存在に対し私達も対抗するために動く。しかし、アイストの時以上に魔族そのものに対し有効な存在が出たならという危惧がある……だからそれに対抗し得る存在を、生み出しておくべきだという結論に至った」

「そうした存在が、俺?」

「ああ……大いなる真実を知るあなたが、神と魔族の力を一つにできる可能性がある……やってもらえるか?」


 その言葉は、つまりこの事件で共に戦ってくれるか、ということを意味していた……そして、俺の結論は一つ。


「ああ、もちろん」

「ありがとう」


 エーレは言うと、気を取り直しなおも俺に言う。


「さて、先ほども言ったが既に準備は整っている。後は現地へ行くだけだ……他にも同行者を予定しているので、そうした面々と共に行くことになるだろう」

「わかった……で、だ。誰に会うんだ?」


 気になって問い掛けると――エーレは、まるで俺が驚くさまを期待するような表情で、告げた。


「シアナやディクス……そして私の、母だ」


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