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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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女神との戦い

 目の当たりにした魔力は、さすが女神といったところか……相対してみると魔族特有の刺々しさは少ないが、その分こちらを圧倒するような強い気配がある。


 本来敵意を示さないため、俺としてはさほど圧迫感はないのだが……魔族であるシアナはおそらく別だろう。神と魔王は元々争う関係にあった。だからこそ、魔族に敵意を示すことに特化した力だろうと、俺は確信めいた断定をした。


 ナリシスが、動く。俺はそれに対しまずは悪魔二体をけしかけて対応する。同時に後退しつつ剣を構え、彼女の姿を捉えながら刀身に魔力を込める。


 周辺の面々は恐れ、慄く表情。俺の能力もかなりのもの――そう、認識したのだと思った。


 ナリシスに対し悪魔が迫る。攻撃はまったくの同時。手刀が彼女に対し放たれた。

 それに相対した彼女は――両腕をかざす。素手で受けるつもりなのかと驚愕しながら事の推移を見守っていると――悪魔の腕が突如、吹き飛んだ。


 周囲に驚愕の声が満ちる。どうやら魔法を使用し、攻撃する体ごと吹き飛ばしたようだが……どういった魔法を使ったのかまではわからない。

 しかし、このままでは引き下がれないと思った俺は、腕が飛ばされた悪魔二体へ体当たりするように指示を送る。それにより左右から同時に迫り――けれど、ナリシスは極めて冷静に対処する。


 彼女は腕を軽く振る。それと同時に両手に光が生まれ――光弾となって、悪魔へと襲い掛かった。

 見た目にはそれほどでもないが、威力は間違いなく凄まじいもののはず――そう思った直後、光弾が悪魔を貫いた。一体には頭部、もう一体は腹部に穴が空き、そちらは吠える。


 だが、悪魔は倒れない――腹部の方はそれでも理解できたが、頭部を失った悪魔でさえも平然と体当たりを仕掛けようと動く。まさか滅びない……女神の一撃を受けてなお悪魔は指示に従い動いている。これは彼女が手加減をしたのか。


 けれど、俺の予想に反しナリシスの目に戸惑いがあるのを、見逃さなかった。ナリシスでさえも予想外の事象……きっと、悪魔の能力が予想以上に高いせいなのだろう。


 どうやら、この悪魔は女神の予想以上に力を有しているらしい……認識すると共にナリシスは両腕に剣を生み出した。長剣ほどではないが先ほどの天使が生み出したものよりは長い。それを、眼前に迫る悪魔へ向け振り下ろす。

 結果、今度こそ悪魔は薙がれたことによって塵となる。これで残るは二体だが……どうするか。


 ナリシスが動く。これはもう俺が対応しなければならないだろうと断じ、一歩前に出る。

 それに――ナリシスは、眼光鋭く俺を見た。女神の温和な雰囲気はどこかへ置き去り、俺を滅するために全ての力を結集させる……勇者をやっていた時は、想像もしていなかった展開だ。


 俺は残る二体の悪魔に周囲を監視するように指示しながら彼女と相対し、剣を振る。ナリシスはそれをまず、あろうことか素手で止めた。一瞬驚いたが彼女が反撃しようとする様を見て俺はすかさず後退する。

 次いで放ったのは、光弾――俺はすかさず魔力を込めて薙ぎ払った。途端、衝撃が腕に伝わってくる……生身で受けたら間違いなく一撃でやられるような魔法だ。


 個人的には、もっと派手な魔法を使われるような気がしていたのだが、これは方針がエーレと同じだからかもしれない……エーレは魔力を極限にまで集中させ、相対する相手のみを打ち倒す技法を確立している。ナリシスもまた同様。周辺に危害が及ばないようにするのは当然だと思うが、それ以上に俺だけに狙いを絞り攻撃を行っているというわけだ。


 俺がさらに後退すると、今度は横から悪魔が踊り出る――俺のじゃない。シアナの使役する悪魔だ。

 さらに後方から気配……シアナが、通りに進み出て攻撃を行おうとしている。


「さすがに、女神相手では難しいようね」


 シアナの声――同時に横を通り過ぎ、その姿がナリシスの眼前へと迫る。

 そして彼女の突きとナリシスの拳が激突する――刹那、凄まじい魔力が爆散し、周囲の人々に悲鳴をもたらした。俺もまた体が僅かに強張り、どうなるのかを注視する。


 押し返したのは、ナリシス。双方の腕は無傷であったが、力の差でナリシスに軍配が上がったか。しかし、シアナも無策というわけではなく、続けざまに一体の悪魔を突進させる。ナリシスから見れば完全に虚を衝かれた形――しかし、


「無駄だ!」


 先ほどの天使が、短剣を両手に握り締め悪魔を妨害。その体を吹き飛ばすと共に、シアナへ迫る。

 こうなると――俺もすかさず動いた。魔力を刀身に注ぎ、その天使を阻むべく走る。


 様相は、二対二という構図となりつつあった。乱戦となれば事故が起きる可能性も高くなるのだが、その辺りナリシスやシアナはどう考えているのか……?


 胸中思いながら俺は天使へ向け斬撃を繰り出そうとする。その時、


 背後から、爆音が聞こえてきた。


 瞬間、ナリシスや天使が大きく引き下がった。俺とシアナは立ち止まり、周囲を警戒し悪魔達が接近する。

 加え、後方から悲鳴。それにナリシスは目を細め、


「……あなた方の、長というわけですか」


 彼女の言動――おそらく、背後にエーレが登場したのだと認識する。

 けれど、その場合……デインが傍にいるはずであり、一体何をしにこの場に来たというのだろうか。


「――両者、来い!」


 そしてエーレからの声。俺達のことだと認識しつつ、シアナが足を後方に向けると同時に俺も跳んだ。ナリシスや天使は追わない。代わりに、周囲にはナリシスと同じような魔力を持つ天使が。これこそ、彼女の力によって生み出された天使なのだろう。


 それが集まりつつある中、俺達は神殿へと続く通りへ到達し、エーレの姿を捉える。気付けば彼女も自身が生み出した悪魔を従えており、デインすら委縮するような雰囲気に満ちていた。


 周囲の面々も、悪魔を見て慄いた様子……だが、俺は一つ確認を取る。


「状況は?」

「天使は水も漏らさぬ配置で私達を逃さなかった……加え、交戦を開始しこちらも打って出ることになった。さすがにデイン殿が狙われては私も対処が難しかったというわけだ」


 それだけ。デインを見るとその顔には不安が宿っていた。大丈夫かと問いたい様子だが……その前に、


「どうやら、僅かばかり話し合う機会が生まれたようですね」


 ナリシスの声。同時、彼女の背後から人影――ノージェスが、出現した。


 なるほど、これが狙いか――女神と共に行動するノージェスと、魔族と共に行動するデイン。どちらが正義でどちらが悪かというのをはっきりと明示させるため、こうしてエーレは一度大通りに出現したわけだ。


 一見すると、ずいぶんと演出過剰……だが、周囲の面々はこの光景を終末の戦いであるように思いつつ見守っている――これはきっと、後々語られることになるかもしれない。


 そこで、俺はふと思う。これほどの大事となった以上、人々の中ではかなりの問題となるのではないか……森の中で閉鎖的とはいえ、この街には行商に来た者もいるだろう。そうした人々が神々と魔王とが戦争を――などと噂すれば、余計な問題を引き起こすのではないのか。

 まあ、このくらいエーレ達は予測できていないはずがないけれど……その辺りも、後で訊くことにしよう。


 俺はデインを守るようにして立つと、剣をナリシスへ向け動かなくなる。すると今度はノージェスが話し始めた。


「……こうなるとは、私も予想外だった、兄上」


 デインは答えない。そればかりか一歩下がり悪魔達に守ってもらおうという素振りすら見せる。


「……あなたはこの街に大罪をもたらした。例え兄であろうとも、それを許すわけにはいかない」


 彼は、どの程度事情を把握してこの場にいるのか――俺としては彼に大いなる真実を話し、管理にアイストも協力してもらう、といった感じの方が望ましいと思っているのだが。

 その時、今度はナリシスと天使がノージェスの前に進み出る。いよいよ決着が――そう思った矢先、


「予定変更だ」


 エーレが言う……どうするのか、俺も半ば理解する。


「女神達には私が対応しよう。本気を出せばしばらくは食い止めることができるし、時間を稼げば他の天使を引き寄せることができるだろう……両者はデイン殿と共に脱出してくれ」

「わかりました」


 シアナが了承。デインもまた頷き――今度はエーレが前に出る。


「女神よ、覚悟はいいか?」

「いいでしょう……あなた達魔族に、罰を」


 答えると同時にエーレと、それに付随する悪魔達が突撃を開始する。対するナリシスもそれに応じるべく天使達を展開させる。

 本来なら、周辺にいる人々は逃げた方が良いのだろうが……エーレ達は、彼らを生き証人とするために残す気なのだろう。俺はそこでシアナとデインに視線を移し、シアナがデインを先導するように移動を始める。


「こちらです」

「……すまん」


 短い声と共にデインもまた足を動かす。俺も追随し、残った悪魔を従え俺達はエーレ達が交戦する場所とは別の道へ、移動を始めた。


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