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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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天使の特性

 そして、俺は格好を変え行動を開始した。デインは外へ出るために屋敷内で準備を進めている最中だ。

 で、俺の姿だが……本来の姿も魔族としての姿もここで使用しているため、苦肉の策……なのだが、全身黒い鎧に覆われたその姿は確かに魔族と呼んで差し支えない風貌なので、これもありかと俺は思ったりする。


 シアナの場合は……さすがに元のままだと迫力が無いため容姿が大幅に変わっている。とはいえ人々が想像する魔族とは、少し違う。


「……本当にそれでいいのか?」

「お姉様から言われたので……」

「この辺りでシアナもこうした戦いに慣れた方がいいだろう。場合によっては勇者相手に立ち回る必要が出てくる」


 横にいるエーレの意見……なのだが、それを今やるというのは――


「言っておくが、元の姿では威厳もないため却下となる。しかしあまりに形を変え過ぎると、慣れていないシアナ自身上手く行動できない可能性がある。これは折衷案だ」

「……頑張ります」


 シアナは言う……そこで、改めて彼女の姿を観察する。

 まず格好は、全身を黒いドレスのようなもので覆っている。肌の露出は皆無に近いが、全身をフィットするような形状であるため、扇情的に見えなくもない。


 そして一番の変更点が、等身。ヒールを履いているとはいえ俺とほぼ同じくらいというのは、元々の身長を考えると非常に違和感がある。

 ついでに言うと、顔も身長に沿うように大人びたものへと変化している。漆黒の髪も長く、妖艶という言葉が綺麗に当てはまる。


「に、似合っていますか?」


 シアナは多少戸惑いつつこちらに問う。俺としては頷く他なく、ついでに口が動きそうになったのだが、

 この姿を見てそう言及すると、じゃあ元の姿では……とかなりそうだったので、これ以上何も言わないことにした。


「設定は、シアナが魔族の腹心であり、セディはシアナの部下だ」


 解説するエーレだが……こちらも姿を変えている。鎧も俺と同様漆黒となり、ついでに髪と瞳が赤色になっている。


「両者がまず街に攻撃を開始する。悪魔に命令するプロセスはデインから聞いている以上、問題はないはずだ」

「ああ、そうだな」


 頷く俺。短時間ではあったがレクチャーを受け、そのやり方についてはどうにかなりそうだった。

 ともあれ、結局行き当たりばったりなのには変わりなく……ここにいてから方針も二転三転を繰り返し、頭もこんがらがりそうだった。


「セディ、さっきも言ったが天使と交戦する際は全力で戦え」


 エーレが再三アドバイスを行う。俺は小さく頷く。


「魔族である以上、一方的に負けるというのもできれば避けたいからな……それと天使については心配いらない。セディは知らないだろうが、天使には女神が創り出した仮初めの存在と、本物の天使が存在する。今回はほとんど前者だ。遠慮なく戦えるだろう」

「初めて聞いたぞ、それ」

「神々には創造的な能力が備わっているため、そうした天使を生成するくらいは訳ないというわけだ……武具を創るのと一緒だな」

「そういうことか……だから向こう側の被害は気にするなと?」

「ああ。無論例外として実際の天使もいるだろうが、そちらもかなり階級の高い者を用意するだろう。全力で戦っても問題ないはずだ」


 語るエーレ。確かに俺としてはやりやすいのだが……さて、どうなるか。


「待たせた」


 そこへ、デインが登場。俺達を見て、少しばかり驚く。


「なるほど、そうして姿を変えることができると」

「先ほどの姿が仮の姿だよ。勇者セディは違うが」


 そんなことを告げる……ま、別について困る嘘でもないからいいか。


「さて、あなたのことは私が護衛するとしよう……準備は?」

「できている」


 はっきりと告げたデインの後方に――悪魔がやってくる。数は合計十体。ガラス容器に内包されていた例の悪魔だ。


「マヴァスト王国の時と比べさらに強化されているはずだ。とはいえ天使どもに対抗できるかは――」

「それもまた確認するとしよう……デイン、覚悟はいいか?」

「無論だ」


 頷くデイン。いよいよ行動を開始する。


 エーレが俺とシアナへ目配せを行う。こちらはそれに頷くと共に、屋敷の外へ出るべく動き出した。合わせて悪魔が五体ついてくる。半々にわけることは最初に話しあっている。

 残りの半分はシアナが担当……そして、俺達の混乱に乗じてデインが脱出を行う。


 エーレとしては、デインが明確な悪役だと認識させつつ脱出させることが、このアイストの混乱収束に役立つだろうと思っているはず。ならばデインの進む道も大変であり、エーレによって引っ掻き回されるだろう。それを怪しまれないようにするのは……エーレの手腕にかかっている。


 ま、大丈夫だろう……エーレは魔王だ。そのくらいの立ち回り、俺が心配する必要もないくらいできるはず。

 思っている間に俺達は屋敷を出る。そして門を抜けた後、


「セディ様、お気をつけて」


 シアナの声。俺は「ああ」と短く返し、街中を移動し始めた。


 空には天使の姿が多少ながら見える……が、知らんふりをしているのかそれとも本当に気付いていないのか、こちらに近寄ってくる様子は見せない。

 一応、悪魔を含め俺達には特殊な魔法が張り巡らされ、所定の場所に到達するまでは姿を隠すということになっている。けど、女神が生み出した天使ならば気付いてもおかしくない。


 考えている内に、所定の場所に近づく。俺が言い渡された場所は……大通りの一角だった。


 人やエルフ達が相当な数いるような状況で、混乱を撒き散らす……不本意だったが後にノージェスが平穏を与えるなら、ここはきちんとやるべきだと心の中で呟きつつ、タイミングを窺う。


 脇から様子を窺っているが、こちらに気付く様子はない。魔法は多少なりとも効いているし、おそらく天使の存在に視線を集中させているのだろう。手筈では俺がまず仕掛け、次いで神殿中央にシアナが出現する予定。街が発展したシンボルである神殿に出現すれば、その場所に兵士達も釘付けになるだろう。俺としてはシアナこそ大丈夫かと思ったが……こちらだってそう余裕もない。だから俺はいったん思考を止めて息を整え、


 後方にいる悪魔に頭の中で指示を出す――人やエルフを傷つけることなく、まずは威嚇するように行動しろ。

 それに応じるように、悪魔が路地から一斉に飛び出す。同時に姿を隠す魔法も解除され、


 咆哮が、大通りを包んだ。


 直後、人々は悪魔に気付きながら悲鳴を上げ、距離を置こうとする。その時点で俺は、途端にまずいと思った。まず騒ぎを起こすということを優先しようとした結果、人々が逃げ始めもし倒れ込めばドミノ倒しのようになってしまう――その時、


「大丈夫です」


 声――周囲に響くような声音と共に、逃げ惑おうとする人々の動きが、止まる。

 途端、俺はその根源が入口方面の道にいるのを悟る。悪魔に続き俺はゆっくりとした足取りでこの場に出現。それに相対するかのように、天使の姿が目に入る。


 純白の翼に、鎧姿――ナリシスでは決してない、女性型の天使。一瞬エーレの言った通りナリシスの生み出した存在なのかと思ったが……気配が根本的に違った。そうした天使とは別に用意した、彼女の配下といったところか。


 髪色は青く腰まで届く長さを持っている。瞳も髪色に準ずるように青く、その姿はひどく幻想的で、周囲の人々が小さく呻く程であった。


「族長デインと手を組む魔族ですね……あなたに裁きを」


 そう言いながら俺へ剣を突きつける。対するこちらは悪魔を威嚇させつつ戦闘態勢に入った。


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