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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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族長の選択

 ひとまずナリシスが自信ありげなので、策については彼女に任せてもいいだろう……考えていると今度はエーレが口を開いた。


「そして私達は……そうだな、彼らの言う悪魔の研究成果が狙われるとまずいとデインへ言い、資料の破壊か持ち逃げすることを薦め、悪魔の研究を阻止もしくは停滞させようか……ナリシス、この森全体に転移封じの魔法を張れるか?」

「お安いご用です」

「ならば、それを使い容易に逃げられないようにして演出しよう。私達が神殿に踏み込み、デインへ事のあらましを話す。既に女神はこの街に存在し、騒動を起こした以上いつあなたの下へ来るかもわからない……ここで、デインに資料を持ち逃げするよう薦め、私達が護衛すると言い出す」

「護衛って……俺達が?」

「街を混乱させない方法として最も良いのは、デインが悪役となることだ。そして彼を衆人の中追い出せば、街の者達も女神と共にいるノージェス殿の意見を受け入れやすくなる」


 ――なるほど。つまり女神であるナリシスとエーレが戦うことで、神々と魔族の戦いを演出する……街中で戦えば、どちらが正義かは一目瞭然だろうし、その後の秩序維持も難しくないはず。


「デインとしては、この街を捨てるのは惜しいだろうが……女神の存在で納得させよう。そして森を抜けた時――」


 と、エーレは楽しげな笑みを浮かべた。


「事前に私の配下を呼ぼう。魔族達が取り囲むことにして、魔界へ案内する」

「うわあ……」


 結構ひどい。いや、でもまあデインに逃げられないようにするにはそのくらい必要か。


「そう言うな、セディ……というよりこれは、彼にとって因果とも言えるぞ?」

「因果?」

「戦乱の種を蒔いてきた、因果だ」


 語るとエーレは目を細めた。


「私は基本、人の営みなどに関して言及することはないし、その資格もないと考えているが……多くの人間を殺め、また魔力を乱した遠因を作り出したデインを許すことはできない」

「なるほどな……俺も同意だよ、エーレ」


 その言葉は嘘偽り無いもの……彼女はこちらの言葉にしっかりと頷き、


「では、早速だが行動を開始するか……ナリシス、段取りはやや抽象的だが大丈夫か?」

「アドリブで立ち回るくらいの演技はできますよ……私とて目的に合致するところではありますし、良いと思います」

「よし……後は、私達の姿は街の者……特にノージェス殿には知られている。神殿の外に出た段階で、姿を変えることにするぞ」

「……俺は、どうすればいい?」


 そこで俺は確認のために問い掛ける。


「俺は勇者としての姿も、魔族としての姿もさらしているわけだけど……変装するにしても、限界があるんじゃないか?」

「ならば、私の腹心にふさわしい姿を与えよう」


 言うと、エーレは笑みを浮かべる。どうやら何か策があるようだが……俺は首を傾げる。


「セディが変化しているのは、私が作り出した魔法であるのは認識しているな? 私はそれを少しばかり調整できる能力もある」

「あ、そうなのか……となれば」

「ああ、最高の姿にしてみせよう」


 自信満々にエーレは語る……そこで一抹の不安を感じた。

 大丈夫かな、などと思ってはみたが、エーレはもう問答する気はないのかナリシスやシアナに告げる。


「では、改めて行動を開始しよう……潜入してこうした結果となってしまったが、これが最高の作戦だと思えるよう、行動していこう――」






 俺達は一目散に神殿へと向かう。再度現れたエーレに対し神殿の兵士は最初訝しげな顔を見せたが……緊急の用だと告げると、族長に意見を求めるべく奥へと入って行った。


 午前中、どこかへ行ったと語っていたが、さすがに戻っては来ているらしい。


「……どうぞ」


 やがて戻ってきた兵士が告げると、俺達は無言で神殿に入る。最初訪れた時と同じように奥まで歩み……エーレが扉を開いた。

 中に、執務机と向かい合って座るデイン。エーレの姿を見て、彼は苦笑する。


「エリナ様、申し訳ありませんがまだ――」

「申し訳ないが、問答している暇はない」


 普段通りの口調で語ったエーレは……突如、その魔族としての力を室内に放出した。

 その直前にシアナが速やかに結界を張るというフォローを忘れない。すると、当然ながらデインの顔が驚愕に満ちる。


「な……」

「悪いな、デイン殿。騙すような真似をしてしまって。けれど神殿内にも敵がいるかもしれなかったため、正体を現せなかった」


 デインは何も答えず、エーレを凝視したまま。なぜ、突然魔族が――などと思っているのかもしれないが、


「安心してくれ。私達は味方だ。ラダン殿の関係者であり、武具の技術を提供している」


 口から出まかせだったのだが……デインはラダンという言葉を聞いて我に返り、


「……なぜ、マヴァストの騎士が?」

「彼の指示を受け、潜入していた。そして、二人だが――」


 エーレは俺とシアナを指差し――同時に、双方が魔族としての姿を成した。


「私の部下でもある」

「勇者、セディが?」

「彼が私の下へ来た時、返り討ちにして洗脳させた。現在は魔族と勇者の活動を半々やっている」


 またもでまかせ……というか、勢いで喋っている気がする。矛盾点が出そうな状況だが、エーレは雰囲気からゴリ押しするのだろうとなんとなく思う。


「マヴァストの件は、実験的には成功だがあれ以上混乱を生むと騒動に発展しかねなかったため、私がセディに命じ討伐させた、という顛末がある。これはラダン殿にも報告予定なのだが……アイストで異常を発見したため、こちらを優先した次第だ」

「……な、なるほど」


 デインは多少驚きつつも頷いた。どうやらラダンという言葉がかなり効いているようだ。

 そしてその反応を見て、やはり勇者ラダンの存在が裏にあるのだと半ば確信する……複雑な心境の中、デインはさらにエーレへ質問する。


「し、しかし……なぜ、突然姿を?」

「先ほど、とある屋敷の者が襲撃を受けた。名は確か……ウェージといったか」


 エーレの言葉に、デインの表情が曇る。


「ウェージが……あそこには、騎士を派遣したはずだが」

「それも倒されていたよ。どうやらここは、神々に目を付けられていたらしい」


 神――デインの顔にまたも衝撃が走る。


「奴らはおそらく、ここで魔族に関する研究を行っていたことを調査していたのだ。それを知りこちらも色々と調査しウェージ殿の屋敷を訪れたのだが、時すでに遅かった」

「彼らと出会ったのだな? どう対処した?」

「さすがにまともに戦うのは避け、結界で現状閉じ込めたが……おそらく、それほど時間も掛からず出てくるだろう」


 エーレの断定にデインは生唾を飲み込む。最早一刻の余裕もない――そう認識したのは間違いない。


「その状況下で、申し訳ないが……早急に対策を考える要がある。これは私の予想だが、神々はおそらく民を扇動し始めるだろう。調べた所によるとノージェス殿と多少ながら親交があった様子。それを利用し、民衆を味方につけ攻撃を始めるはずだ」


 エーレの言葉に、デインは険しい顔をした。どうやら自分が追い込まれているという事実を、深く認識したようだ。


「こうなると私達は著しく不利になるのはあなたも理解できるはずだ。女神の顕現……それがどれほどのインパクトなのかは、あなたも理解できるはず」

「あ、ああ……確かに」

「決断が必要だ、デイン殿。このままこの神殿にこもり女神を迎え撃つか、それとも私達と共に逃げるか」


 どちらも相当なものだ。デインだってそのどちらかを取りたくはないと思うのだが……さて、どうする?


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