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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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作戦変更

 で、俺の懸念はあっさりと覆される。


「ほう、地下室か。おあつらえ向きだな」


 エーレとシアナが何の問題もなく地下室に到達。俺としては感心する以外にない。

 こちらがちょっとばかり呆然としている間に、ナリシスがエーレに問い掛ける。


「エーレ様、見張りは?」

「私達の分身を用意して、実行させている。私の目でその視点も見えるから、何かあったならば言おう。それで――」


 エーレは部屋の中央付近で気絶しているエルフ達へ視線を移す。


「その者達は? 一方は騎士のようだが」

「私からお話します。といっても時間もないでしょうから簡潔に」


 それからナリシスはエーレ達に要点だけを話す。その内容は的確で、エーレは事情を把握した後腕を組み、


「なるほど、これはずいぶんと複雑なことになってきた。勇者ラダンか。突拍子もないため、私としては疑うような内容だが……」

「信用してよいでしょう。私の目から見て、彼が嘘偽りを話しているようには見えませんでしたし」


 女神であるナリシスが断言。妙な説得力があり、だからなのかエーレは頷き、


「わかった……そういう相手だとするならば、色々と考えもある」

「本当、か……」


 両者の会話を聞くと俺は、肩を落としたくなる衝動を堪えつつ呟く。すると、エーレが首を向けた。


「意気消沈としているようだな」

「……信じられないという感情の方が強いけどね。読んでいた小説の勇者が生きていて、なおかつ魔族の技術を横流ししている……できの悪い芝居みたいな筋書きだ。絵空事としか思えない」

「確かに……彼が聞いたその情報自体が偽物だという可能性もあるが、覚悟はしておくべきだな」

「……セディ様、勇者ラダンがそうしたことに手を染めているのが、ショックなのですか?」


 問い掛けたのはシアナ。そこで俺は首を左右に振った。


「いや、俺の勝手な推測で肩を落としている面が強い」

「推測?」

「おそらく勇者ラダンは、大いなる真実を知っていると思う……つまり、それを知って彼はこういう行動を起こしたと俺は思った。小説は誇張表現なんかがあるかもしれないけど、魔族を倒し続けたのは事実で……ああやって戦っていた勇者が真実を知り、世界に反逆したんだと思い、なんだか複雑な気持ちになったんだ」

「セディが至った結論とは真逆になるな」


 エーレが語る。確かに俺は真実を知り魔王の弟子となる決意……つまり、魔王や神々が世界を管理しているという事実を受け入れた。けれど、ラダンの場合は違う。


 俺は小さく頷きつつ、一つ尋ねた。


「もし勇者ラダンと出会ったら、どうする?」

「……あまり良い結果にならないことだけは間違いないな。何せ彼は各地で様々な実験を行っている。それに、人為的に悪魔まで生み出そうとしている相手だ。話し合いなどと生ぬるいことは言っていられないだろう」


 その顔はどこか憮然としており、勇者が反逆しているという事実を知り色々思う所があるのだと理解できた。


「加え、死の商人である族長デインか……両者が結びつくのは必然だったのかもしれんな。とにかく、事情は把握した。そういうことであれば一刻も早く片をつけるべきだろう」

「予定変更だよな?」


 確認すると、エーレは深く頷いた。


「無論だ……二転三転して申し訳ないが」

「手段はどうするんだ?」

「その前に……この地下室に私達に役立つ情報があるかどうかだが……」

「それなりに、あるようですよ」


 言ったのはナリシス。彼女は手をかざすと、突如室内に風が生じ始めた。

 それによって資料が舞い……やがて、紙の束が俺達の目の前に辿り着く。


「エーレ様が来る前に、魔法で調べておきました。魔族に関わる研究資料……この程度あれば、検証は可能ですね?」

「相手がどのような技術を持っているかの推察はつくな……首謀者のこともわかったし、もう私達がここで手に入れるべき情報はなくなったと考えてもいいか……いや、一つだけ悪魔の製造技術だけは気になるな」

「それについてはデインに訊かないといけないだろうけど……どうするんだ?」

「決まっているだろう? 既にプランも考えた」


 エーレは妖しく笑う。魔王、という雰囲気には見えないが、高位の魔族が人間を挑発するような感じには見えた。


「ナリシス、ここからは二手に分かれて行動しよう。ノージェス殿にこう伝えてくれ」

「はい」

「芝居を行う、と」


 その言葉に、俺達は全員エーレへ視線を注ぐ。


「ここに倒れる騎士が神殿に帰らなければ、デインも怪しむだろうし、最悪調査していることに気付くだろう。こういう言い方はナリシスも不快に思うかもしれないが、騎士に露見した時点で、以前の作戦は使えなくなったと考えていい」

「事実ですし、私は何も思いませんよ」

「そうか……それで、だ。情報もある程度集まったため、最早私達の存在を隠し通しておく理由もない」

「となれば、魔族だと公言するのか?」


 けれど、それは混乱を引き起こすのでは……考えていると、エーレからさらに解説が。


「そうする他ないな。それに、様々な騒乱を呼んでいるデインを放っておくこともできない……ナリシスもいることだ。それを利用することにしよう」

「ああ、なるほど」


 ナリシスが納得するように声を上げる。どうやらエーレが何をするか察しがついたようだ。けど、俺としては首を傾げる。一体――


「セディ、これは本当に首謀者が勇者ラダンなのかどうかを確認する意味合いもある……まずナリシス、あなたはノージェス殿の下へ向かい、攻撃を行うよう準備を整えてくれ」

「わかりました……が、大なり小なり混乱は起きますよね?」

「そうだな、魔族と女神が突如出現し戦いを始めるのだ。できる限りの配慮はするし、犠牲者だけは何としても生み出さないようにしなければ」

「……は?」


 思わぬ言葉が出たため、俺はエーレに呟いた。


「た、戦い?」

「ああ、そうだ。私達とナリシスが表に出て戦う」


 ……今までの前提をひっくり返すような内容に、俺は呆然とする他ない。

 そうした態度に、フォローを入れたのはナリシスだった。


「つまり、ここで露見してしまう以上、先手を打ってデインを確保するというわけですよ」

「確保?」

「私達が魔族であると、まずはデインへ伝える」


 彼女に続いたのはエーレだった。


「事情も把握し、こちらも立ち回れる材料が手に入った……神々がデインを疑いその刺客を差し向けた。私達は勇者ラダンの配下であり、実はこの場所にそうした神々の存在を感知して調べに来たと説明する」

「マヴァストの件を訊かれたらどうするんだ?」

「適当でいいと思うが……そうだな、マヴァスト側に潜入していた魔族とでも説明すれば良いだろう」


 なるほど……勇者ラダンという存在を知ったため、それを利用して近づくことができるようになったというわけか。

 進展とは少し違う気もするが……とにかく、話を進めるためにはそうした方が良いというのは事実だろうな。


「わかった、それでいこう……で、その後はどうするんだ?」

「ナリシスの力を用いてデインが行った所業を……魔族に関わっている部分を全て暴露させよう。この辺りはナリシスの手腕次第で立ち回りが変わるのだが――」

「お任せください」


 ナリシスが言う。どうやら何か策があるらしい。


 というか、あれだけ潜入していた以上、本当は女神であり――などと言及した日には、大騒ぎになるだろうな。ここは彼女の潜入の結果を期待するしかないだろうと思った。


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