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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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語られる研究内容

 俺が胸中で色々と推測を立てていると、さらにウェージから告げられる。


「より具体的に言うならば……神ではなく魔族の力だ」

「魔族……念のために聞きますが、大丈夫なのですよね?」


 少しばかり警戒するナリシス……事情を知らない人間ならば当然の反応だろう。


「大丈夫だよ。これはとある技術提供者がいるのだが、そうした人物達から受け取った魔族の力は、意志などなくただ私達が利用するための道具でしかない」

「呪われる、とかは?」

「魔族の力は普段見えないため得体のしれないものに感じるかもしれないが、それは違う。あれはあくまで魔族が保有している力というだけであり、私や君の中に眠るものとさしたる違いは無い」

「利用の仕方によっては、毒にも薬にもなるということですね」


 ナリシスが続けると、ウェージは嬉しそうに頷いた。


「理解が早くて助かるよ。そういうわけで興味があるのなら紹介しても良いが――」


 と、そこで再度声のトーンを落とす。


「条件がいる……もしこの件に触れるとしたら、彼らに協力を約束しなければならない」

「……ここまで聞いた以上、後に退けないような気もしますが」

「君の口の堅さは知っているしね。隣にいる人物も君が連れてきたなら信用してもいい。それに、ほら……現時点では私がホラを吹いているようにしか思えないだろ?」


 つまり、証拠もないということか……協力をすると言えば詳しい話を聞けそうだが、場合によっては面倒事を抱えかねない。


 ここにきて、クーデター云々を飛び越して核心的な情報に触れる可能性も出てきた。そうだとしたらここで情報を手に入れてひとまずデイン達は様子見という手も……いや、少なくとも魔族に関係する実験だけは止めないといけないか。デインがそうした物事に手を染めているなら、追い落とす必要はあるだろう。


 ともあれ、計画は変更しなければならないだろうか……複雑になってきたなと思いつつ、俺は会話を聞き続ける。


「もし協力すれば、その商材を頂けるのですか?」


 ナリシスが問う。それにウェージは頷いた。


「無論だ。ぜひとも色んな人に利用して欲しい。それこそ技術提供者の望むことだ」


 ――それがおそらく、世界に混乱をもたらす種となるのかもしれない。


 首謀者はウェージを利用することで武具を広め『何か』を成そうとしているようだ。その『何か』が一体何なのかは……もっと調べないといけないだろう。


「……わかりました」


 そしてナリシスが至った結論は承諾。途端ウェージは満足そうに笑う。


「では、早速だが案内といこうか。時間はあるのかい?」

「今日は一日暇しているので」

「そうか。では後でゆっくりと感想を聞かせてもらいたい」


 ウェージは席を立つと俺達を先導するべく手で促す。なのでこちらも従い廊下に出て、屋敷内を進む。

 すぐに彼は立ち止まり、とある一室を開けた。彼に続いて入るとそこは小さな書斎。壁に本棚がいくつもある中で、ウェージはおもむろに床に手をかざした。


「ナジェン、一歩下がってくれ」


 彼は声と同時に手に魔力を込める。すると書斎の中央部分からガコン、という重い音が聞こえ、床がスライドし始めた。

 やがて地下への階段が姿を現す。俺は典型的だと思いつつも口を挟まないまま事の推移を見守ることにする。


「……ナジェン、これを見たらおそらく気に入ってくれるだろうが……少しばかり、刺激の強い事柄もある」

「再三の確認ですか? 大丈夫ですよ」


 念を押すウェージに対し相変わらず微笑むナリシス。なんだか双方が腹の探り合いをしているようにも見え……ちょっとばかり不安になったのだが、


 ウェージは「わかった」と端的に告げた後、先んじて地下へ歩み始める。それに追随し俺とナリシスも地下へ。階段は魔法による明かりあるため足元に不自由なく、また下り切った先の廊下も同じように明かりが存在し、移動に不便はない。


「この地下は、いつごろ作られた物なのですか?」


 ふいにナリシスが問う。廊下は全て石で構築されておりかなりの重厚感がある。


「この屋敷ができた時と合わせてだ」


 ウェージは前を向きながらあっさりと返答。それにナリシスは何か引っかかったのか、


「当初から、ですか。魔法の実験のために?」

「ああ。とはいえ私は指示に従ったにすぎないのだが」

「誰のですか?」

「族長だ」


 デインから……?


「今思えば、町を建設する段階で全ては予定通りだった、と考えて良いのかもしれないな」


 そんなことまで言う……ということは、街を造る時点で実験をすること自体、決まっていたということなのか?

 それと魔族が関係しているならば、この街の成り立ちから真っ黒という事実となるわけだが……考えている内に俺達の前に、両開きの扉が出現。


「ここだ」


 ウェージはその扉を開ける。中は、教会くらいの広さを持った部屋だった。

 その場所に所狭しと机や資料が存在している……ここは以前訪れたマザークの屋敷地下室とどこか似ている。けれど、一つ明確に異なることがある。


 その中央に、大きなガラスの容器――人がすっぽりと入るくらいのそれに、薄青色の液体が詰まっている。そしてその中には――


「これは……?」


 ナリシスは言葉を漏らし、容器の中を凝視する。

 その中には、一本の漆黒の剣が入っている。


「これこそ、私や族長が研究しているものだ」


 ウェージは告げると、前に進み出て容器の隣へと到達する。


「一口に言えば、魔族が生み出した体の一部……この剣もまたそうだが、それを私達が解析し、魔力を取り出す。そしてそれを複製し、武具を強化。さらに踏み込んだ研究としては、これに似通った性質の魔力を創り出し、私達の手で魔族の力に似た物を生み出す」


 魔力を創り出す――なるほど、魔族の力を人為的に創り出す。これは紛れもなく、悪魔の所業だ。


「そしてその魔力を魔石などを通して通常の剣に加えてやれば、人間が創り出すよりも遥かに強力な武具を生み出すことができる」


 ――マヴァスト王国で傭兵達が持っていたのは、そういう要因らしい。なるほど、既にある程度量産はできている段階なのか。


「先ほども言った通り、魔族の力はあくまで利用するだけであり、害はない。無論それを他者に向ければ相応の被害をもたらすものだが……ここは、私達が上手く使えばいいだけの話だ。そうだろう?」


 同意を求めるウェージ。確かにそれはそうなのだが……悪意の下に武器を与えられれば、絶対悪用するに決まっている。


「……確かに、そうですね」


 ナリシスはウェージに同調。演技であるのは間違いない。


「なるほど、魔力を作り出すということですか。これはかなり面白そうな案件ですね。しかし、一つ疑問が」

「何だい?」

「その魔族の一部はどこから手に入れたものなのですか?」

「ああ、実を言うとそういった魔族の体を秘密裏に流すルートというものが存在する」


 またも驚くべき情報……ウェージの口の軽さに感謝しつつ、話を聞き続ける。


「だが、そこは私も直接関わっているわけではない。だから詳細は不明だ」

「それは基本、族長がということですね」

「そうだ」


 頷くウェージ。となると、そうした購入に関する資料なんかも神殿に眠っている可能性があるな。

 場合によっては、そうした闇ルートを一網打尽にできる可能性すらあるぞ、これ……そして想像以上に大規模であり、根が深い問題なのだと悟る。


「では、もう一つ質問を」


 そこでナリシスはさらに言及。


「なぜデイン様は、こうしたことに関わろうと?」

「……私も詳しい経緯はわからない。けれどこの地下を創設した段階の理由は、もう少し違っていた」


 ウェージは言った後肩をすくめた。


「君なら大丈夫だとは思うが……ここからは、絶対に口外しないでくれよ」

「無論です」


 そう言って笑うナリシス。秘密を手に入れたという少しばかりの満足感が表情から見て取れる。演技としても、相当なものだ。

 そうした顔つきにウェージもまた満足したか、話し出す――ナリシスがこの街で信頼を得ようと努力したことが、今実を結ぼうとしている――


「まず結論から言うと……族長はこの森に帰還する前、商人として働いていたらしい」

「商人?」

「といっても、最初は自身の魔力によって強化した武器を売っていただけ……どうやら、金に困ったための行動だったらしいが、それが存外反響があったため、自身の魔力を研究し量産化しようとしたらしい」


 最初はデイン自身の魔力からだったのか……考える間に、さらに続きが。


「そして……族長は大きなパトロンを見つけ量産。その金を元手にアイストに大規模な製造場所を作るべく、戻ってきた」

「……ということは、この街の発展自体、目的ではなく手段だというわけですね」

「そうだ」


 頷くウェージ……この時点で、嫌な予感がした。


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