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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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関係者候補への調査

 タノンの語っていた屋敷は神殿から程近い中心部。大通りを一本逸れた先にある場所であり、大きさはそれなりながらも庭園などがないためどこか窮屈に感じられる建物だった。


「無理矢理建てたという感じだな」


 敷地を考慮してそんな感想を漏らすと、ナリシスは同意だったらしく、


「森の中にある土地には限界があるから……仕方ないんだと思う」


 告げると敷地へと足を踏み入れる。それにこちらは追随しつつ、玄関前に到着。


「えっと……確認だけど、俺はどうすれば?」


 尋ねつつ俺は自身の格好について言及。勇者のままではもちろんないが、老人と話をした時のままだ。


「格好はそのままで。先ほど話した面々とは住む階層が違うから、顔を突き合わせて話をすることもない。露見することはないから大丈夫」

「わかった……で、俺の立ち位置は?」

「私の親は魔法関係の物を取り扱っていると説明してあるから……私の部下ということにしよう」

「了解。名前もセドのままでいいな?」

「もちろん」


 答えたと同時にナリシスはドアノッカーを叩く。すると多少の間を置いて、


「はい」


 執事らしき男性が現れた。


「こんにちは」


 微笑を見せながらの挨拶。対するこちらはちょっと所在ない感じで周囲を見る……フリをしておこう。


「ナジェン様ですか、お久しぶりです」

「ええ……ウェージ様はいらっしゃいますか?」

「おりますよ。客室にお通しいたします」

「申し訳ありません。突然の訪問で」

「いえ、ナジェン様であれば喜んでくださるはずです」


 執事はフレンドリーな対応で俺達を通す……どうやら、相当気に入ってもらえているらしい。


 こういうことをやるのが女神の仕事……なわけはないと思うが、その重要性からデインの情報を手に入れるため、こうしてあらゆる場所へ訪問したいうことなのだろう。もしかすると彼女にはまだ別の顔があるのかもしれない。


 一つ言えるのは、こうした仕事であっても決して手は抜かず最善を尽くしている、ということ。


 執事に案内され通された部屋は、結構上等な場所。対面式に設置されたソファが扉から見て横向きに置かれており、


「しばらくお待ちください」


 執事は告げると、俺達を残して立ち去った。


「さて、ここからは私が話をするから」


 ナリシスが言う。俺としては頷く他なく、彼女の手腕を期待するしかない。

 ある程度取り入っているのは間違いないようなので、それなりに話はできるのだろう……大丈夫だとは思うが、自然な流れで本題を切り出さないと、最悪デインなんかに報告されてしまう可能性がある……それだけは避けないといけない。


 考える間にソファに座り……そこで、屋敷の主が現れる。見た目若々しい茶髪を持った白いローブ姿のエルフ。


「ナジェン、久しぶりだ」

「ええ……ウェージ様もお変わりなく」


 にこやかに答えつつ立ち上がるナリシス。俺も合わせて立ち上がり相手と視線を交わし、自己紹介を行う。


 ――このエルフと出会ったことでどういう変化が起きるのか。果たしてクーデターに関係するのかどうか。様々な考えが頭に浮かびつつ……ナリシス達の会話に、耳を傾けることにした。






「……というわけで、現在はジクレイトを中心にして活動をしています」


 まずナリシスは他愛もない世間話から始めた。それに相手――ウェージは相槌を打ちながら聞き続ける。俺は自己紹介以降微笑を浮かべ敵意が無いことを示しつつ、潮目が変わるのを待ち続けた。


「皆様の作成された魔法具についても売上は上々でして……得意先ができたくらいです」

「そう言っていただけるのは何よりの喜びだ。その方々に作成者も喜んでいたと伝えてくれ」

「ありがとうございます」


 言ってナリシスは、微笑を見せる。ここまでは順当……そこで、

 俺は彼女の空気から、いよいよ本題を切り出すのだろうと直感する。


「その中で……厄介なお客様もいまして」

「ほう、厄介?」

「こう言っては失礼なのですが……まあ、なんというか愚痴のような形で聞いていただければ」

「構わないさ。客商売だから不満の一つもあるだろう」


 ニコニコするウェージ。いよいよだと心の中で思いつつ、俺は会話を聞き続ける。


「はい……確かに皆様の魔法具は非常に効果的で、ほとんどの方は納得されるのですが……中には、厳しい要求事項を提示する方もいまして」

「ほう、例えば?」

「明らかに安全性を度外視した威力を求める方ですとか……あるいは――」


 と、ナリシスは大きくため息をついた。


「神や魔族の力を用いた魔法具、といったものを求める方もいます。神々の武具は現存するのでしょうが、私は当然持っているわけではありませんし」


 ――彼女が「神や魔族」と言った瞬間、ウェージの顔つきが少し変化したのを俺は見逃さなかった。ふむ、反応があったということは少なからず関係があるということなのだろうか。


「魔族の武具というものにしたって……そもそも現存するかもわかりません。確かに力を手に入れるためには最も効率の良いやり方なのかもしれませんが」

「……ふむ、ナジェン。そういった武具に興味があるのか?」


 なんとなくだが、声質が変化した気がする。今まで隠していた秘密を明かすような、どこか楽しげな声音に。


「興味、ですか? 私自身扱うかどうかは見なければわかりませんね……そもそもそうした武具どころか魔族とも出会ったことがないのですから。ただ、どういった力を持つのか調べてみたいという気持ちはあります」

「ふむ、そうか……」


 と、ウェージは一度言葉を止める。ん、この反応はあまり良い回答ではなかったのか?

 俺が考えているとさらにナリシスが続ける。


「……そうですね。一つ見解を述べさせて頂ければ」

「ほう、何だ?」

「最近、そうした武具を欲している方が多くなっているように見受けられます。ジクレイト国内でも多少ながら騒動があり、聖騎士団も色々武具を購入しているようです」


 彼女は一度言葉を切る。そして、

「……声を大きくして言うべきことではありませんが、私のような商売はそういった騒動を種にして需要が増えるものです。バカみたいな考えですが、苦しい時戦争の一つでも起こればなどと考えたこともあります」


 告げた後、ナリシスは苦笑した。


「あ、他の方には言わないでくださいね」

「無論だ。それにナジェンの言っていることもなんとなく理解できる。生活が苦しくなればそういった想像を膨らませてしまうのは当然だろう」


 ウェージはそこまで述べると、強い眼光で一度ナリシスを見据え、続ける。


「……話を聞いていると、商売は順調のようだね」

「はい。ただまあ最近お得意様を回ってみてもあまり反応が大きくありません。何かインパクトのある商材があれば、より購入して頂けると思うのですが」


 その言葉に、さらに反応を示すウェージ。これはおそらく――


「……そうだな、君にはいくつも恩もあるし、少しばかりそういった商材を紹介しても良いだろう」

「え?」


 ちょっと驚きつつナリシスは聞き返す。無論演技だろう。


「そういった……とは、神や魔族の?」

「そういうことだ。ただこれについては他言無用で頼むよ」


 密室であるにも関わらず声のトーンを落とすウェージ。ふむ、反応からすると関係者であるのは間違いなさそうだった。


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