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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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少年に対する情報

 混乱する頭の中で、俺は理解する……つまり、ナリシスはこの老人に対しては「デインのことを調査している」と説明しているわけだ。


「ふむ……となると、今回お越しになられたのは、新たな情報がないかということですな?」

「ええ」


 ナリシスは同意すると、俺へと視線を向ける。


「ああ、説明が遅れた……この方は、私が潜入してから知り合った方で――」

「色々と事情を知り、協力しているのです」


 老人が続けて言う。その経緯も知りたかったのだが……俺はその点について何も語らず、


「よろしくお願いします」


 老人に挨拶。彼は「こちらこそ」と答えた後、


「そして、情報ですが……二つばかり」

「二つ、ですか?」

「はい。一つは我々が厄介だと思っていた人間について」


 エーレが成敗した人物のことだな……思いつつ言葉を待つ。


「彼が連れて行かれた後、簡単にですが家の中を確認しました。彼がスリを教えている少年が他にもいるかもしれないため、その情報がないかと思ったのですが……どうも、彼についても怪しい点が」


 怪しい……なんとなく予想はついたが、黙って聞く。


「詳しくはわかりませんでしたが、どうもあの者は詰所の兵と連絡を取り合っていたようです」


 予想通り……この点はエーレが成敗した時にほのめかされていたので、改めて情報が出た形となる。


「ただ下手に書類を動かすのと詰所の者が来てバレるのでは思い、そのままにしておいたのですが……よろしかったですか?」

「構いませんよ。デインにとっての不正な情報というわけでもないでしょうし」

「そうですか……しかし私どもとしては、もしかすると詰所の兵だけでなく、神殿上層部の存在が絡んでいるのでは……と、邪推しているのですが」


 ふむ、そう考えたか。確かにあり得ないわけではない。デインがノージェスのことを疎ましく思い、ならばと彼らが雇った人物に入れ知恵した……ノージェス自身雇い入れた人間のことが負い目となって反旗を翻すなどということはあり得ないだろうし、足枷になる。


 そしてこの事実が公になれば、十分デインにダメージを与えられるような気もする……とはいえ、性急にデインを崩すのは難しいだろうし、別の手が欲しい所だな。


「その点についてはこれ以上情報も集まっていないようですし、ひとまず置いておきましょう。それで、二点目は?」


 ナリシスが尋ねると、老人は俺達ではなく、外を一瞥する。


「外にいる……タノンという少年のことです」

「彼が何か?」

「一つ、不思議な情報を持っていました……彼は何度か詰所に連れていかれ、その度に解放されていたのですが……ある時、解放され何気なく詰所の横で会話の盗み聞きなどをしたそうで。その時変わった話を耳にしたと」

「変わった話?」

「少年が言うには、街の中央付近に位置するエルフの屋敷には大規模な研究室があり、そこで色々な実験が行われているということです」


 ……詰所にいるエルフがなぜそんなことを知っているのかという疑問もあるが、その言葉だけではどうにも断定できないな。そもそも魔法の実験くらいは研究者であれば普通にやっているだろうし。


「少年によると、話す内容がおどろおどろしいものだと感じたようで……それ以後、詰所にできるだけ出入りしないようにしたとのことです」


 出入りしないようにってことは、スリの腕を上げたってことだろうな……ま、とりあえず主犯者は捕まえたわけだし、これから更生させていけばいいか。

 とりあえず情報はこれだけのようだ……屋敷の方は収穫無さそうだけど、タノンに一応訊いてみることにしよう。


「ありがとうございます。ではまた、お願いしますね」


 ナリシスが語ると老人は了承。その後、俺達は家を出た。


「……大丈夫なのか?」


 うっかり口を滑らせる御仁には見えないのだが……ナリシスは、すぐさま頷いた。


「長期間ここに入り込んだ成果と思ってもらえれば」


 色々調べ上げ、信頼における人物だと判断したということか……女神である彼女が言う以上、俺は何も語らないことにした。


「さて、それではタノンという少年ね。彼とも会話をしたことがあるから、大丈夫」

「……ノージェスのいる屋敷へ赴いたのは、彼がスリを働こうとしたのをきっかけにしたんだけど」

「なるほど、そう……別人のフリをするようにしてね」

「ああ」


 ま、下手をしなければ大丈夫だろうと思いつつ、俺はタノンを探す……と、すぐにこちらに背を向けた姿が見つかった。

 俺達は近寄り、先んじてナリシスが声を上げる。


「少しいい?」


 笑みを浮かべながら語るナリシスに対し、タノンは振り向き、

 彼女と目が合った瞬間、背筋がピンと伸びた。


「あ、あの……」

「久しぶりね、タノン君……あら、どうしたの?」


 動揺する彼を尻目に優しげに問い掛ける。


「あ、あの……その……こんにちは」

「こんにちは」


 にっこりと返答するナリシス。その顔に少年はどこか緊張した面持ちで、なおかつ少しばかり顔を赤くしている。

 その態度で、俺はなんとなく察する。ああ、そういうことなのか……呟いていると少年がナリシスを見てこちらに一瞥すらしないのに気付く。目の前の彼女に対し、緊張しっぱなしで体が動かないのだろう。


「少し話がしたいのだけど、いい?」


 さらに問い掛けるナリシス。それにタノンはブンブンと首を縦に振った。


 うん、この反応は間違いなさそうだが……しかし、よりによって相手は女神。実らないことがほぼ確定的であり、そう考えるとなんだか不憫に思える。


「実は、詰所のことで一つ訊きたいのだけど」


 そう切り出したナリシス。するとタノンは、


「は、はい……?」


 かなり動揺し始めた。ん、この様子だとスリを働いているなどという事実は喋っていないのか……まあ、当然か。


「ええ。タノン君、詰所に連れて行かれたことがあるんでしょ?」

「え、あ、え……」


 間違いなくその辺りは知られたくなかったんだろうな。さて、ここはとう取り成して円滑に話を進めるべきか。

 目を白黒させるタノンと笑顔のナリシスが極端で思わずどう事態が動くのか見てみたい気もしたが……とりあえす、声を掛けた。


「ナシア、なんだか困っている様子だから少し落ち着かせたらどうだ?」


 水を向けてみると、タノンが首をゆっくりとこちらへ向ける。そして目を丸くした……のを見ると、どうやら俺の存在に初めて気付いた様子。


「え、えっと……」


 そして俺を見て、どこか見覚えがあると思ったのかもしれない。ちょっとばかり訝しげな顔を示した後、


「それなら兄さん、場所を移そうか?」


 ナリシスから提案。その言葉にタノンはすかさず反応し、


「兄、さん?」

「ええ、兄のセドよ」

「……よろしく」


 手を上げ挨拶する。最初タノンは俺とナリシスとを交互に見ていたのだが、やがて有無を言わせぬ彼女の顔にタノンは言葉を失くしたのか、


「……よろしく」


 俺に告げた。怪しんでいたけど、ナリシスの笑顔に負け似た人間だと思ったのだろう。

 よくよく考えると、これってかなりの力技だと思うのだが……まあバレていないから問題ない……のか?


「で、どこに行くんだ?」

「大通りのお店でも行く?」

「あ、いや、その……」


 戸惑うタノン。このままではきっと埒があかないだろうと思った俺は、話を強引に進めるべく首肯した。


「それでいいよ……とりあえず、この場から離れるか」

「ええ」


 頷いたナリシスが、なおも緊張しているタノンに道案内を頼み俺達は歩き出す。


 この場所を離れる寸前、俺は一度だけ周囲を眺めた。エルフや人の姿が見え、一様に笑いながら会話をしている。とりあえず平和になったのだと俺は思いつつ、ナリシスと共に通りへと向かった。


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