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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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情報収集

 と、いうわけで俺とナリシスは変装をした上で行動を開始する。時刻は昼を迎え、とりあえず腹ごしらえということで通りにある飲食店に入る。


 格好は、俺が魔族の姿に変え、なおかつ黒では目立つので茶褐色の外套を羽織るような形。無論身に着けている魔法具や剣もまた、全て擬態した。擬態自体露見するという危惧を抱いたのだが……エーレから「自身の魔力を用いて擬態している以上、体と一体化して溶け込んでいるから大丈夫だろう」という楽観的な言葉が。まあバレてもどうにかできるレベルだろうから、これでいこうと決めた。


 一方のナリシスは、白いローブに銀髪から金髪へ。なおかつ瞳は緑に変化していて、


「瞳の色から、兄妹ということにしましょう」


 ナリシスの提案に俺は承諾した。ただ骨格などが根本から変わっているわけではないので、バレないか不安なのだが、


「その辺りは私がどうにかしますから心配なく。セディ様は、同一人物だとバレないようにだけ演技をお願いします」


 それ、結構難しいと思うんだが……ま、とやかく言っても始まらないし、従うことにしよう。

 それから適当な雑談をした後、食事を終えて店を出る。ここからはナリシスの案内で、通りから路地へと入る。


「では、口調なども変えましょう」


 ナリシスからの提案。確かに兄妹設定である以上、それ相応のものに変えないとまずいな。


「えっと……訊きたいんですけど、その格好における名前は?」

「情報を集める時はナシアと名乗っています」

「そうですか……じゃあ、俺のことはセドと呼んでください」

「セド?」

「以前勇者として活動していた時、使ったことのある偽名です」

「わかりました……では」


 と、ナリシスは一度こほんと咳払いをして、


「改めて……情報収取をしよう、お兄ちゃん」


 ――俺は思わず、ひっくり返った。


 そしてナリシスも俺の反応に面食らった形となる。


「え、え?」

「いや、あの……」


 まさかそんな呼ばれ方をするとは思わなかったので、俺としてはひっくり返る以外の選択肢が無かった。


「え、えっと……その呼び方は?」

「兄妹で、なおかつ見た目の上では私が妹なので」

「いや、そうなんだけど……」

「こういう呼ばれ方をするのが、殿方としては好みなのではないのですか?」


 一体、どこ情報なんだ……それ……? 訊いてもよかったのだが、俺は以前出会った彼女よりも階級が上の女神の存在を思い出し――彼女から聞きましたなどと言われた日にはどうすればいいのかわからなかったので、


「いや、全部が全部そうではないと思いますよ……」


 疲れた声で、そんな感じで言うに留めた。


「あの、ではですね、俺にも妹がいて兄さん、と呼ばれているので……名前で呼ばないのならそれでお願いします」

「わかりました……あ、私のことは普段も敬語でなくていいので、それでお願いします」


 ナリシスはそう最後に語り……俺は起き上がると、仕切り直しと言わんばかりに告げる。


「それじゃあナシア、行こう」

「うん、兄さん」


 カレンと接するような感じ……他人、じゃなくて女神か。そういうカレン以外の相手に兄と呼ばれるのはなんだか違和感があると思いつつ、俺は歩を進めた。

 で、その進路なのだが……どうも、俺やエーレがタノンという少年の案内された場所の方角だった。


「この方向って……」

「あの場所が、一番情報を手に入れるにしては良いから」


 演技口調で語るナリシス。ここからはずっとこういう接し方なのだろうと認識し、それに合わせるように言葉を紡ぐ。


「改めて思うけど、バレないか?」

「大丈夫。私がどうにかする」


 胸を張るナリシス。本当かと思いつつも、女神である以上何か考えがあるのだろうと適当に考えつつ、彼女に従い歩き続ける。

 やがて辿り着いたのは、先ほど男性を成敗した場所。そこには少数ながらエルフもいて、なおかつあのタノンという少年の姿もあった。


「あ?」


 そんな中、人間らしき青年が俺達に気付いた。さらにその横には俺達と話をした老人もいて、


「おお、ナシアさんではないですか」


 フレンドリーに老人が話し掛けてくる。どうやら、それなりに顔は通っているようだ。

 彼女を見た後、老人は俺を一瞥する。その瞳に対しこちらは少なからず緊張を抱き……相手は、眉をひそめた。


「この方は?」

「私の兄です」


 にこやかにナリシスが応じる。その声音にはどこか迫力があり、老人に有無を言わせぬような気配を僅かながら発していた。

 それを彼が悟ったかどうかはわからないが……相手は表情を元に戻した。彼女に対する信用と、骨格はほぼ同じだが外観がずいぶんと変わったことにより、他人の空似とでも思ったに違いなかった。


「セドと言います」


 続けざまに俺が告げると、老人は丁寧に返答する。


「これはどうも、ようこそアイストへ……しかし、あまり見せたくない部分を見られてしまいましたな。ここは良い場所とはいえないでしょう」

「……妹から、事情は聞いていますし」


 適当に返事をすると、老人は苦笑しつつ話の方向をナリシスへやった。


「ところで……今日はどうしたのです?」

「いえ、通りを歩いていた時何やら騒ぎがあったと話を聞いたので。気になって訪れただけなのですが」

「ふむ、そうなのですか……実は――」


 と、老人は彼女に話し出す。それに対しナリシスは非常に話しやすい空気を作りつつ相槌によって応じた。

 女神の気配はまったく滲ませていないのだが、その取り巻く空気はやはり生来のものなのか……老人は何の疑いもなく、流れるように話し続けた。


「……と、いうわけなのです」

「ほう、なるほど……あの厄介な人が」


 合わせるようにナリシスは応じ……ここから、どうやって本題に持っていくか見ものだな。


「なるほどなるほど……それならば」

「……どうしました?」


 何度も頷くナリシスに対し、老人は問い掛ける。すると彼女は、


「……少し、話をしませんか?」


 唐突に話題を転換し、そう切り出す。ん、何だか唐突過ぎるのだが……大丈夫か?


「話ですか?」

「ええ。少し込み入った話を」


 微笑を湛え告げるナリシス。やはり不思議な迫力があったのだが……老人は唐突な要望に、彼女と俺を交互に見て驚いた様子を示す。

 彼女は目の前にいる老人に対し何かしら話を持ちかけようとしている……彼女なりの理由があると思うのだが、こちらとしては内心ハラハラするような状況。


 さて、一体どうなるのか……思考していると老人は首肯し、


「場所は?」

「そうですね、あまり人に聞かれたくないのですが」

「……ふむ、なるほど。わかりました」


 意を介した老人は、了承すると俺達を先導するように移動を開始……ん、さっきと比べてずいぶんと動きが流暢(りゅうちょう)だ。

 これは一体――考える間にも老人のしっかりとした足取りは、小さな家まで到達する。


「どうぞ」


 彼の家なのだろう。あっさりと招き入れた彼に従い室内に入ると、そこは先ほどエーレが成敗した男の家と同じような感じの造りだった。

 ガラスのない剥き出しの窓から風が吹き、天井から吊り下げられたカンテラがキイキイと音を立てている。そんな状況下で老人は一つしかない椅子に腰掛け、ナリシスへ問う。


「……確認しますが」

「いつものようにこちらは立っていて構いませんよ」


 語るナリシス……ん? いつものように? これってもしや――


「では、私から質問させて頂きます……もしや、あなたのお兄様も?」

「ええ。私と同じ――」


 と、俺を指差しながら彼女は語る。


「――デインの不正を暴くために行動する、間者です」


 ――は!? 今なんて言った!?


 俺は思わず驚愕の声を漏らしそうになったが――寸前で堪え、どうにかポーカーフェイスを貫くことに成功した。


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