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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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女神と魔王の方針

「彼らはまず、政治的な面から攻めた。これには二つ理由があって、一つ目はそういう問題は人々にとって食いつきが良いから。そして二つ目は、いきなり魔族の件について言及しても、証拠を隠されるだろうし何より信用しない可能性だって考えられたから」

「ふむ、魔族との繋がりがあるというのは、大半の人間にとっては物語の中だけの話だからな」


 これはエーレの言葉。俺は深く頷き、


「だからまずは政治的な理由……そして、魔族の話。町長の信用は最初の時点で失墜していたから、人々も大いに信用した」

「セディ、町長はどうなった?」

「国の調査が入り。投獄されたよ。で、新たな町長は俺に依頼をかけた人物で……彼は人々の信用を得るために、監査機能を持つ組織などを編成し頑張っている」

「なるほど……となれば、今回のケースに応用できそうだな」

「とはいえ、デインが不正を働いている可能性って、あるのか?」

「魔族を手を組んで実験をしているのだ……これは推測だが、その費用を税など徴収している可能性もある。その辺りから調べてみたらどうだ?」

「ああ、確かに税が重くなったという情報は手に入れた」


 俺の発言に、エーレは笑みを浮かべる。


「ならば、付け入る隙はあるな」

「けど、それって俺達が求める資料とか情報を隠滅されないか?」

「……う、確かに」


 指摘にエーレは呻く。そう、ここが難しいところだ。

 デインには、俺達が動いていることを悟られてはいけない。それには不正な情報を公にするとしてもあくまで実験や技術供与に触れない場所でやらないとまずいだろう。


「例えば税金について指摘するにしても……目的がエーレの言うように大いなる真実に対抗する実験のためだというのなら、資料を隠滅するようデインは行動すると思う。そうなればクーデター自体は成功するかもしれないけど、俺達の目的は果たせなくなる」

「そうだな……難しい」


 エーレは腕を組み唸った。さしもの魔王も悩みどころ、といったところか。


「この策は都合上デインの身柄を拘束できるため、資料は捨て置いていいという見方もアリと言えばアリなのだが……できれば、全てを手に入れたいところだな」

「それ前提で活動するとなると、色々制約がかかるだろ? でも単純にノージェスの支援をしただけではデインを打倒できるかどうかわからないし……」

「ふむ、やはりここは不正について調べ回る必要がありそうだな」


 エーレが言う。その発言に対しシアナやナリシスも同意するのか頷いた。


「だが、その前に一つ確認だ。ひとまずセディの言ったようなプランで良いのか?」


 エーレは尋ねながら全員の顔を窺う。俺としてはどちらでも良かったのだが……シアナやナリシスは、小さく頷いていた。


「よし、わかった。先の事件や大いなる真実に関連しない、不正な情報を集めるということにする」


 回りくどい言い方だが……そう言うしかないか。とはいえ、本当にそうしたことに手を染めているかどうかもわからないのだが――ま、やるしかないのは事実だな。

 というか、なんだか行き当たりばったりな状況なのだが……これまでの計画だって似たようなものだし、仕方ないと言えるかもしれない。


 会話が一区切りついた時、ノックの音が。ナリシスが返答すると、扉が開きノージェスが現れ、


「一応の話はつきました。一度部屋へ」


 そう告げたため、俺達は再度部屋へ戻ることとなった。






「あなた方が提示した資料を見せたら、多くの者が驚嘆し、打倒することを誓いました」


 ノージェスの言葉に、俺は内心安堵する――事情を説明する際こちらが所持している資料を提示し、理解できたようだ。

 けれど街の人間が同様にすぐ信用する可能性は低いため、素早く人々を味方につけるには、他の情報を手に入れないといけないのは変わっていないだろう。


「私が過去その事実に気付いていたが、今まで話せなかった……という風に説明をしました。このタイミングで、ということを思った者もいたでしょうが……厄介な人間が捕まったのを機に、反旗を翻す時が来たと言いました」


 結構強引な気はするが……まあ、それで信用したのなら良しとしよう。


「ひとまず、これで私達はデインに対し戦う状況を整えることはできます……しかし、その動向は相当秘密裏に動かなければ、露見してしまうでしょう」

「わかりました……事情をお話していない方々については、どうなさるおつもりですか?」

「今回教えた者達の部下に、デインと戦える面々を予め選定しておけと指示すれば、事がすぐに始まったとしても数時間以内に準備を整えられるでしょう。もっとも、そうして集められる戦力は、全体の半分といったところでしょうか」

「それだけいれば十分ですよ」


 にっこりと返答するナリシス。


「私達が考えた策を伝えましょう……まず今回の件以外で、デインが不正を働いているという可能性はありますか?」

「……私は聞いていませんが、税絡みで黒い噂は流れていますね」

「わかりました……まず私達がやるべきことは、デインの存在が悪だと街の面々に伝えることです。それさえ周知させれば、街の人々が支援してくださるでしょうし、神殿を守る兵士達も浮足立つ。これなら半分でも十分なはず」

「なるほど、確かに」

「できれば戦闘など起こさずに済ませられれば良いのですが、相手は魔族と手を組む存在。警戒だけは怠らないようにしてください」

「わかっています」


 覚悟は、できているようだ。魔族と関わりがあるという時点で、彼自身責任を感じているのだと思う。


 基本、アイストの森は他国と交流はあるが後ろ盾になっているような国は一切ない。そのため族長が過ちを犯した場合他からフォローを入れる存在もいないため……自分達でどうにかするしかない。だからこその覚悟かもしれないな。


「では……まず、情報収集から始めましょう。とはいえあなた方が直接調べ始めれば相手も気付くはず……ここは、私達に」

「……女神殿は、大丈夫ですか?」

「私は常に目立たないよう行動していたので、あなた方の関係者だと露見するようなことはありませんよ」


 ふむ、街に潜入していたわけだし、情報収集は彼女に任せてもよいかもしれない――


「それで、セディ様」

「……はい?」


 話が突然俺へと向けられる。一体――


「突然で申し訳ありませんが、私と同行して頂けないでしょうか?」

「俺が……ですか? ええ、構いませんが」


 何をするつもりなのだろうか。この点については先ほどの話し合いで特に言及されていないが……まあ女神の提案なのだから大丈夫だろう、などと思いつつ言葉と共に頷く。それにナリシスは満足そうに頷き、


「では、早速行動を開始しましょうか……あなた達は外で待機し、デイン側に不審な動きが無いか観察していてください」

「はい」


 エーレ達にナリシスは言及……そしてノージェスはまとめにかかる。


「では、私は先ほど打ち合わせた内容を連絡しておきます……気を付けて」

「ええ」


 ナリシスの返事を聞いたノージェスは早速部屋を出て行く。そして残された俺達だが、


「エーレ様、ひとまず私の言葉通り動いてはいただけないでしょうか」

「構わない。街の内情を深く把握しているのはそちらだろう。私達は来てまだ数日……ナリシスの言葉を聞いた方が良い」

「ありがとうございます。ではエーレ様には、神殿の監視をお願いします」

「デインと会い色々と探るというのもアリか?」

「確かマヴァスト王国の使者という名目でしたね? それでも構いません」

「ならば神殿周辺を観察できる大通りに移動することにしようか……今日は既に神殿に行ってしまったため訪れるのは難しいが、書状を貰うという役目があるため、明日以降はデインと会うことも可能だろう。そこで警戒していないかを探る」

「もし何も無ければ、そのままでお願いしますね。そして、セディ様ですが」

「ああ」

「私と同行して頂き、共に情報収集をお願いできないでしょうか?」

「構いませんが……なぜ俺を?」

「なんとなく、一緒に行動する方が良い結果が生まれそうな気がして」


 それって、理由はないも同然なのでは……? 首を傾げていると、エーレから解説がやって来た。


「セディ、こういう神々の予感というものは、結構当たったりする場合が多い」

「……そうなのか?」

「未来予知とは少し違うが、神々はそういう吉兆に絡んだ物事に関して、良い方向に転じやすい……ま、気のせいかもしれないが」

「見も蓋もないですね」


 苦笑するナリシス。とはいえ、戻した表情は至って真面目。

 根拠がない、と切り捨ててしまえばそれまでだが、語っているのは女神。確かになんとなく、彼女に従えば運が向いてきそうな気がしたので、同意することにした。


「はい、わかりました……シアナはどうするんだ?」

「シアナ様については、如何様にして頂いても構いませんが」

「では、お姉様に同行します。さすがに私達を脅かす存在がいるとは思えませんが、念の為です」

「ずいぶんと警戒するのだな、シアナは……ま、いいだろう」


 エーレは「大丈夫」という明確な気配を発したが、それ以上何も言わずナリシスへと口を開いた。


「情報集めは、そちらに任せてもいいのか?」

「構いません。というより、私は調査に入ってから格好を変えてノージェス様と関わりの無い部分で色々と情報を集めていたので、たぶん大丈夫です」


 そこまで言うと、ナリシスは俺へと首を向けた。


「ここに勇者として来た以上、情報収集する際は格好を変えて頂けると助かります」

「わかった」

「私達が身代わりを作って、相手の目を欺くことにしよう」


 エーレから提案。うん、それがいいだろうな。


「この場に私達がいることを知っているのは、ここへ来る渡りをつけた街の住民と、ノージェスを含め少数だ。監視されている気配はない以上、余程のことが無い限りこの事実がデインへ伝わる可能性は低いだろう」


 さらにエーレは語る……どうやらまとめに入ったらしい。


「セディ達は姿を変えて行動し、私達はデインに怪しまれないように行動する。何かあればどんな形でもいいから連絡してくれ。すぐに駆けつけることにしよう――」


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