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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
賢者打倒編

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過去の事例

 クーデターを行うことは決定した――その後ノージェスは信頼における面々に説明する必要があったため、建物の別所で彼らに話をすることになった。

 ただナリシスからの発案により、女神の存在は伏せることになった。ノージェスも魔王に関わると判断したためか彼女の意見に賛同し、


「事情説明については上手く話します。ご安心ください」


 そう言い、見かけ上は女神や魔族と関連するようなことなくクーデターを敢行するという形になった。

 反面、俺達は――これはナリシスも含まれるのだが、合計四名は客室に通されおとなしく待つことにした。


「やっぱり女神の存在くらいは、見せるべきじゃないか?」


 なんとなく俺はエーレ達に問うのだが、首を左右に振ったのはナリシスだった。


「ノージェス様に話をした時点で、ギリギリでしょう。敵はどのような形で潜んでいるかわかりません。できるだけ情報を拡散させないように心掛けるべきです。例え味方であっても、どこで漏れるかわかりませんからね」

「そうですか……ちなみに現在、ノージェスさんが話している面々については――」

「ここに潜入し、身辺調査は済んでいますよ。彼らが敵でないのは私が保証します」

「……わかりました」


 さすがにその辺りのことはやっているのか……とすれば、後はノージェスの言葉を他の面々が同意してくれるかどうかだな。まあこの辺りはノージェスも上手くやると言っていたので、信用するしかないか。


「今後の方針を協議しておくか」


 そこでエーレが発言。途端、俺達は顔を引き締める。


「まずナリシス。一応の確認だが、彼らの周囲にいる面々はクーデターを起こすことに賛同するのか?」

「全員が全員少なからずノージェス様に従っている方々ですし、大丈夫でしょう。ノージェス様自身事の重大さを理解しているようですし、自身の命が脅かされているとでも言えば問題ないかと」

「ふむ……念の為失敗した時のプランを立てておくか。とはいえやれることと言えば私が本性を現すことしか……」

「やめてください。その辺りはどうにかしますから」


 ナリシスは結構必死に懇願。逆に混乱を呼び込むという可能性を考慮してだろうな。

 彼女はエーレに告げた後、一度咳払いをしてから話を進める。


「とにかく、クーデターについて動き出すのであれば、彼らにもそれなりの準備があります……もっとも、これは族長デインからの攻撃を受ける際に対応するための準備のようですが」

「それを攻撃に転用するのだな」


 エーレはナリシスに続けて言うと、口元に手を当てた。


「ふむ……となると、本題はいかにしてクーデターを成功させるかだな。私達も戦いに参戦するべきだろうが、さらに変装しなければまずいな」

「その辺りはどうとでもなるだろ……で、具体的な策は?」


 俺が問い掛けると、一度全員沈黙。しかし、


「……まず、人々を味方につけなければなりませんね」


 述べたのはシアナ。それに俺は小さく頷き、


「俺の考えを言うよ……こういう反乱の場合は、まずいかに相手であるデインが悪者なのかを認知させる必要がある」

「認知させる?」


 聞き返したのはエーレ。俺は彼女へ視線を送り、


「エルフの族長である以上、魔族と手を結んでいたという確定的な情報が街の人々に拡散されれば、支持する面々を大きく切り崩すことができると思うんだけど……」

「ほう、確かに効果は大きいだろうな。私達は現状彼が荷担したと思われる資料を所持しているが……それを使うのか?」

「いや、あれは確かに証拠となるものには間違いないけど、それで人々がなびくかと言えばそうじゃないと思う」

「どういうことだ?」

「わかりにくいから」


 俺の発言に、エーレやシアナ。さらにナリシスまで首を傾げた。


「説明すると……この場にいる面々はその資料を見れば当然、デインが何をしたのかすぐに理解できると……けど、街で暮らす人や魔法の知識がほとんどないエルフにそれが伝わる可能性は低い」

「つまり、デインが魔族と関わっているという事実を公に認めさせるには、一計を案じる必要があるということか?」

「そういうこと……それにはできるだけわかりやすい方がいいな。で、なおかつインパクトがあるもの」

「難しいですね」


 シアナが頭を悩ませ始めた様子……そう、この場にいる面子なら例え変装し力を抑えていようともクーデターを成功させることはできるだろう。けれど、単純にデインを倒すだけだと、アイストの森に多大な混乱を引き起こすことになる。


「確認だけど、この場にいる面々はアイストの森が混乱することを望んでいないだろ?」


 俺の問い掛けに、エーレ達はしかと頷いた。


「だとしたら一気に人々を味方につけないと、町の人々で意見が分かれ混乱することになることを考えておかないといけない……俺達が現状持っている情報では、クーデターを仕掛け成功したとしてもアイストの森にいるデインの支持者が混乱を引き起こし、最悪内乱が起きる可能性だってある。だから、デインが悪だという決然とした事実を示し、デインに味方をしている人やエルフが立場を変えるくらいのことをしないといけない」

「それができれば、アイストの森は混乱しない、ということですね?」


 シアナが問う。それに俺は難しい顔をして、


「現状の体制が崩れる以上、問題は発生すると思うけど……デインが街から支持示を失い孤立すれば、被害が最小限に抑えられるのは間違いない」

「ふむ……どちらにせよ、神殿に再度赴き情報収集をするべきだな」


 エーレが言う。それに同意するようにナリシスも続ける。


「確かに、現状を打破する手立てとしてデインの不正を暴くのが重要でしょうね……とはいえ、クーデターを容認させるような案件ということを踏まえると、相当なレベルの情報を手に入れる必要があるのでは?」

「そうですね……あとはどういった情報を手に入れるかでやり方も変わってくる……」


 俺はナリシスに応じつつさらに思案する――例えば、勇者による経験だと、


「……そうだ、具体例を一つ挙げようかな。俺が勇者として活動していた頃の話」

「こういった状況を体験したことがあるのか?」


 エーレが眉をひそめる。俺は首肯しつつも、一つ捕捉を加える。


「俺が実際に色々やったという面は少ないけど……えっと、これは勇者としてとある町を訪れた時の話だ」


 その時のことを思い返しつつ、俺は語り始める。


「そこの町長さんが要は、魔族と手を結んでいたというわけ……その頃俺もそれなりに名が知れていて、なおかつ俺の知り合いからの仲介で町長に対抗する勢力から依頼を持ちかけられた」

「クーデターの援護を?」


 エーレが訊く。それにこちらは首を左右に振る。


「俺がやったのはあくまで、町長が魔族と関与している確定的な証拠を見つけることだ。で、エーレ達も知っている気配を隠す魔法を使って、俺達は町長の住む屋敷に潜入。その途中魔族と会話をしている姿なんかを見つけて、この場で成敗してやろうかと思ったりもしたんだが……俺達はとりあえず魔族との関与を証明する証拠を手に入れて、屋敷を去った」

「そしてそれを公開したというわけですね」


 ナリシスが言ったのだが、俺は再度首を振った。


「最初俺もそうするんだと思っていたんですけど……政治のことを理解している人達のやり方は違ったんです。まず、彼らはその街で新聞を発行している組織に政治的な問題をリークした」

「政治的な問題ですか?」

「有体言えば、その人は街の予算を横領していたんです」


 俺の言葉に、ナリシスが口をつぐむ。


「新聞の発行所に町長の息がかかっていたらアウトだったわけですが、そうはならずに情報が一気に拡散しました。それによって町長は釈明に追われ、トドメとばかりに俺達が手に入れた本命である魔族の件を公開。これによって国が大々的に動き、魔族もその姿を消しました」

「完全勝利、ですね」


 シアナが言う。俺はそれに頷き、まとめるべく解説を加えた。


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